田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

夢に生きる 「絵の中の雪」/麻屋与志夫

2011-08-06 09:03:37 | Weblog
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病院の車寄せの庇には、雪があふれていた。
雪は常夜灯の光を反射してきらめいていた。
いまにもちいさな雪崩となっておちてきそうだった。
わたしたちは、無言で集中治療室にいそいだ。

「いま、気づきましたよ」
担当の医師が寄ってきた。
脳震盪をおこしていたのだという。
怪我も左肩を強くうっただけ。
脳に異常はない。
少しなら話していいと許可が出た。

「美智子おばさん。
わたし、わたしむかえにいけなくてごめんなさい」
「いいのよ。わかっているわ」
「おどかすなよ。ふたつ葬式を出さなくてはならないのかと……」
あとは言葉にならなかった。
兄もすっかり老いていた。
涙もろくなっていた。
亜莉沙。
あなたの願いは、もうわかっていますよ。

世に認めてもらいたかった夫の夢。
あなたと果たしたいわ。
小説家と漫画家のちがいがあっても。
願いはおなじことよ。
漫画家になること賛成。
わたしも漫画の原案でも書こうかしら。
創作意欲が湧いた。
夫の原稿の清書に明け暮れた。
自分の作品を書きたい。
それができないできた。
わたしはねばり強く、これからは小説を書いていこう。
それがわたしを許してくれていた母への供養に成る。
夫も喜んでくれるだろう。
わたしも泣いていた。
ここちよい涙がほほをこぼれおちていた。
太宰の文庫本を手に家を出た情熱がよみがえった。
二人で、デビューをはたしたいわ。



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