田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 28 ぼくらへの視線  麻屋与志夫

2012-11-20 12:07:06 | 超短編小説
28 ぼくらへの視線

「あの、ひと、おかしいよ。雨がふってないのに傘さしてる」
「あれはパラソル」
「パラソル?」
「日傘のこと。東京のオシャレな人は日に焼けるのをきらうのよ」

ホラ……またふりかえった。
あの女の人。
ほら、すごくふとっているおばあさん。
ぼくらのほうをまだみている。
ぼくらが、あまりにも似あいのカップルだから、目につくんだね。
仲良くふたりで歩いているひとなんか、いないものね。
目立つんだよな。
愛しているよ。トモ。
こんな田舎町までついてきてくれて。
ありがとうな。

ほら、ヨーカ堂のオートドアだよ。
あれ、また開かないの。
トモがあまり軽いからだよ。
あっそうか。
いまの自動扉は体重でなく、近赤外線タイプなんだよね。
暗い色の服をきているから、反応が鈍いのかも。
ほら、もう日陰だからパラソルから出て、ぼくの跡についてきてごらん。
開くだろう。
トモ。きみのソンザイガ薄くなっていく。
愛している。
いつまでも、ぼくのそばにいてよ。
さあなにを買おうか。
すきなものをカ―トのバスケットにいれてよ。
こんな少ししか、たべないの。
豆腐とか納豆とか、野菜だけでいいの。
ぼくは日光の和牛がいいな。

ほらまたみているひとがいる。
ぼくらがこうして仲睦まじく歩いているから、ジラシ―。
だよな。
痛いほど視線をかんじるのは、自意識過剰なのかな。

まだこの街に住むのになれていないから。
それがわかるのかな。
街の人にはぼくらがよそものだとわかるんだろうな。

みられたっていいさ。
嫉妬されたっていいさ。
そのうちに、お互いになれてくるよ。

ぼくのそばにいつもいてくれて、ありがとう。
うれしいよ。
でも、あまりムリしなくていいよ。
飲みたいものはのめばいいんだ。
あまり、ガマンしていると、からだがもたないよ。
菜食主義なんてトモにむいていないよ。
飲むときはぼくからはじめればいいさ。
好きになったときから、覚悟はできているから。
でも、ぼくの故郷に帰ってきたのは失敗だったかも。
だって街の名が〈日光〉だもの。
トモがいちばんきらいな言葉だものね。
だから、だんだん生気が失われていくんだね。

ほら郵便局だよ。
お金下していこう。
だいぶこのところ買い物をしたもの。
えっ。
動かない。
サドウシナイ。
タッチパネルを押しても動かない。
指の力がたりないからだよ。
どれかわろう。
いまのATMの画面は、そばでノゾカレナイようになっているんだ。
視野角を意図的に狭くする偏光フィルターが張られているんだ。
盗み見防止。
トモの隣にいたんでは、画面が見えないんだ。
ぼくらも、偏光フィルターをはったパラソルでも開発しようか。
外からはみえなくなるといいのに。
視線を気にしないで街をあるければいいのに――。

「あのひとおかしいよ。隣にだれもいないのに、話しかけている。となりにだれもいないのに、傘をさしかけている。まるで、相合傘であるいているみたい。雨もふっていないのに」
「あれは日傘。太陽の光をさえぎるものなの。あまりじろじろみては失礼よ」

ほら、また、ふりかえった。
まだふりかえって、じっとぼくらのあるきに視線を合わせている。
まるでぼくらの行動を監視しているみたいだ。

「あのひとへんだよ。隣にあるいているひといないのに、足並みをそろえているようだよ」

子どものつぶやきが、ぼくの耳までつたわってきた。

「飲むときは、てはじめに、あの親子からにするわ。それからジロジロふりかえっているひとたち……」
かすかなトモのつぶやき。

「そうだよ。元気がでてきたみたいだね」

そうだよ。トモ。いつまでもぼくのそばにいてよ。
愛している。
長生きできるよ。
この街のひとふとっているもの。
肥満している人は血液の量もおおめだとおもうよ。

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