田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 30 血染の柔道着/やりなおし  麻屋与志夫

2013-02-10 18:27:49 | 超短編小説
超短編 30 血染の柔道着/やりなおす

うららかな初春の陽射しが、都市伝説研究会の部室に射し込んでいた。
福島中央高校。
都市伝説研究会の部室。
短縮して都伝研。

遅れて入室した部長の高藤登がつぶやいた。

「校舎が揺れているような気がしないか」

そのつぶやきにすばやく反応したのは。
蒔田麗華だった。
麗華は推薦入学がきまった。
入学式はまだだが都伝研への入部は許可されていた。

高藤とは初対面だった。

「わたし……なにかこの学校の建物が戦慄しているようなの」
入部してはじめてのmeetingなのですこし硬くなっているらしい。
「旋律……」
「恐れおののくほうの戦慄です」
部長には丁寧な言葉で気配りをしている。
「あの、高藤センパイ。わたしなにか、マズイこといいました」
「いや。あんなことがあったあとだからな。校舎も嘆いて怖がっているのかもしれない」

高藤のいうあんなことというのは、柔道部の女生徒が屋上から投身自殺したことだった。
監督に乱暴されたという書置きが残されていた。
乱暴の内容については学校側はなにも発表しなかった。
いまや、学校のlegendと成りつつある。
その死体を高藤は見てしまった。
いや、まだ生きていた。
押さえこまれているのに、必死で起き上がろうとするような動きをしていた。
断末魔のモガキだったのかもしれない。
でも柔道着をきていたのでそう見えてしまったのだろう。

「そんなことないって。余震だよ」
副部長の安譲の陽気な声が沈みこんだ二人の会話をおわらせた。
なるほど、揺れているのは地面だ。
東北地震以来毎日のように余震が起こる。

「ほら、むかしから、地震、雷、火事、オヤジ、っていうじゃないか。
怖いものに序列があった。
地震はこの大地の奥深くに〈地竜〉が住んでいて、暴れるからだいわれていた。
津波だって、想像を絶する巨大な海の神ポセイドンが両腕を広げて海を叩いた。
地竜の動きに同調したから起きたんだよ」

安譲の発言はいかにもタワイがない。
だが、都伝研での発表としたらおもしろい。

でも――、高藤には校舎がどうしても揺れているように思えるのだ。
あれいらい、なにか学校で問題が生じると校舎が揺れている。
いや、そうぼくが感じるだけかもしれない。
学校は魔界なのだ。
思春期の不安な心に悪魔がしのびこんでワルサをする。
教師が、部活動の監督が悪魔の顔をしていることもある。
柔道着の胸元に耳をよせた。
クヤシイ。
彼女がそういったように高藤にはきこえた。
誰にも言っていないが、そうきけた。
この校舎には彼女の恨みがのこっている。
いままでにここで、悪魔の餌食となったものたちの怨念がただよっている。
下校時の夕暮れのなかに、廊下に、妖気が満ちみちている。
ドアにノックが。
「入っていいですか」
都伝研の扉が叩かれた。
聞きなれない声だ。
そうだ。
新入部員がくるはずだった。
めったなことでは、部員は増えない。
部長と副部長は期待を込めて「どうぞ」と明るく扉の向こうに声をかけた。
入ってきたのは……。血だらけの柔道着をきた……。
二人は仰天して床に倒れた。
ギャァと背後で悲鳴。
振り返ると、そこには麗華の姿がたがない。
高藤は不意に思い出した。
自殺した柔道部員の名前が、蒔田麗華だった。
どうしていままでそれに、気づかなかったのだ。
彼女はもういちど、やりなおしをしようとしている。
柔道部ではなく都伝研に入部しょうとしているのだ。
学生生活をリセットしょうとしているのだ。
広い部室でたったふたりきりの高藤と安譲は。
あらためて恐怖の叫び声をあげた。



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「もういちど同人誌やらないか」と声がかかる。  麻屋与志夫

2013-02-10 11:16:28 | ブログ
2月10日 日曜日

●黒田夏子さんが芥川賞をとった。

全国の文学G・G(爺と読まないでください――グランド・ジェネレーションという意味です)がムショウニ元気が出た。

若い作家だけを大切にする。

売れる作家だけを優遇する。

市場原理がどうしても優先するからしかたのないことだろうが。

永遠の文学青年だなどと寂しく嘯いていた世代にようやく光がさしてきた感じだ。

●むしは、苦節十年などといって、同人雑誌で苦労して作家になっていく人が多かった。

イオンでG・G世代のためのブランドを立ち上げた。と聞いている。

出版界でもぜひそうあってもらいたい。

●「もういちど、同人誌やらないか」

などとむかしの文学仲間から声がかかる。

みんな、ムダニ元気がいい。

元気のやり場に困っていたのだ。

お金のために売文業に精を出す必要がない。

好きな小説を好きなように書いていける世代が、ムダナ元気、ムダナ労力の向け場を発見したようだ。

でも、それはけっして無駄なことではない。

わたしたちの生きざまを次のつぎの世代、孫の世代に伝えていけるではないか。

●GGなどは、まだまだ、後継ぎの孫は2歳になったばかりだ。

これからあと30年は書き続けられる。

●楽しくなってきたぞ。


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