14
一回でもいいから、ぼくは父が生きている間に、怨念がはれるような言葉をあびせたかつた。
それもいまは虚しい。
最後の別れの時においてさえも、ただ無言で花弁を父の顔になげかけるだけだった。
棺にふたがされた。小石が釘の頭を打つ。火花が散った。ぼくはすでに、肉親の肉体を意識とてはいなかった。
薄暗がりから太い皺だらけの腕がのび釘を打つ手をおしとど、白い姉の手に手をかさね、押しのけ、棺の覗き窓を開け、花に埋もれた死に顔をまさぐり……だがそこまでだった。は
病人にしては重過ぎる、肉の袋を抱えるように母を寝床につれていった。どのようにして、父の棺までにじりよったのか。
母のあまりの重さによろけて棺の角でわき腹をうった。息がつまるような痛み。肉の重量。衝撃。が瞬時に脳天をつきぬけた。
寝巻ごしに、おおきな母の乳房が両手いっぱいに感じられ、その乳房のひっかかりがなかつたら、母を後ろからだきかかえることはできなかった。棺からひきはがすこともできなかった。
両手には母の乳房をまさぐった幼児体験がよみがえった。老いてありすぎる食欲のため、肉体の嵩をまし、すでに一人歩きすらできなくなっていた。それなのに、どうやって、父のところまでたどりついたのだろう。
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病人にしては重過ぎる、肉の袋を抱えるように母を寝床につれていった。どのようにして、父の棺までにじりよったのか。
母のあまりの重さによろけて棺の角でわき腹をうった。息がつまるような痛み。肉の重量。衝撃。が瞬時に脳天をつきぬけた。
寝巻ごしに、おおきな母の乳房が両手いっぱいに感じられ、その乳房のひっかかりがなかつたら、母を後ろからだきかかえることはできなかった。棺からひきはがすこともできなかった。
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