スーパー銭湯にて
先日近所にオープンしたスーパー銭湯に私は訪れた。来たことがある友人は私に思わせぶりな感想を述べた。人を選ぶと。私は興味を引かれてやってきたのだ。
銭湯から出てくる客はおしなべて疲れているように見えるのが気になった。
自動ドアが開き、建物内に入る。カウンターの若い女性スタッフと目が合った。私は度肝を抜かれた。カウンターの女性には白塗りの顔に隈取りの化粧がほどこされていた。
「いらっしゃいませ」
すべての店員はおそろいの隈取りの化粧だった。
「その化粧すごいですね」
私は思わず聞いた。
「ありがとうございます。スーパー銭湯のコンセプトを表したコスチュームになっております」
「コンセプト?」
「あら、もしかしてご存じありませんね。大丈夫かしら…」
「なにか問題でもあるのですか」
「実はこのスーパー銭湯は、スーパー歌舞伎をモチーフに世界観を構築しております」
「スーパー歌舞伎ですか。私、歌舞伎は嫌いじゃないから大丈夫ですよ(この店員さんは変わったことを聞くな)」
「そうですか。では、こちらの書類に住所、氏名、年齢、現在の健康状態を記入していただきますか」
「健康状態ですか」
「はい、念のためでございます。では入湯料をいただきましたので、これを手首にまいてください。さきほど記入していただいたデータを入力しましたので、万が一の時も安心です」
「万が一ですか?」
「はい、万が一です。ではこちらもお渡しいたします。ハーネスです。脱衣場に専門のスタッフがおりますので、後ほど、裸になられた後、着用させていただきます」
「ちょっと、待ってください。どうしてハーネスなんか付けるんですか」
「スーパー歌舞伎ご存じですよね」
「はい」
「スーパー歌舞伎と言えば宙釣り。スタッフが操作するクレーンで宙を舞い、次から次にめくるめく湯船を堪能していただきます」
「お若ぇの、お待ちなせえなし」