テイクアウトの闇
駐車場に停まるデリバリーカーの車内から売り子さんが道行く人に声をかけている。
売り子「本日、飲み物、飲み放題、七百円です。いかがですか」
通行人「どんな種類の飲み物がありますか」
売り子「それは言えません」
通行人「は?」
売り子「こちらの順番で飲み物を提供します。コース料理みたいなものです」
通行人「まあ、アイスコーヒーが飲みたいだけなのですが、じゃあ、一ついただけますか」
売り子「ありがとうございます。ワン・フォー・オール。オール・フォー・ワン。ワンワンセット、ワンプリーズ。オッケー・メルシー」
車内には売り子の女性が一人しかいない。
通行人「誰とやりとりしているのですか」
売り子「もう一人の私。そう私は一人じゃない。一人はみんなのため、みんなは一人のため……」
通行人「こいつはやばいやつに引っかかったな」
売り子「お待たせしました。まず第一の飲み物です。口を大きくあーんとしてください」
通行人「あーん」
通行人の開いた口めがけて売り子がホースを向けた。ご丁寧にホースの先を指先で潰している。
売り子「発射!」
水が通行人の口に吸い込まれる。顔面にも水が注がれる。
通行人「ガボガボ、ごぼごぼやめてください」
売り子「オーダーストップでございますね。ありがとうございました」
そう言った直後、売り子は運転席にダイブしエンジンを素早くかけた。通行人が制止する隙も与えず、デリバリーカーは走り去る。
水にしたたる通行人だけがその場に残されていた。