アツオの職業は特殊と言えるだろう。
秘密裏に、飲食店のサービス対応をチェックする調査員を生業にしている。
アツオは仕事を始める前に自分に気合いを入れる。
シンプルな塩ラーメンが売りのA店。
A店は、大手外食チェーン店が出店した店だ。
社長の話では、出店当初は売り上げも上々だったのに、最近は調子が悪い。味には絶大の自信を持っている。
何か原因があるのではないのかと思っている社長が、アツオに調査を依頼したのだった。
アツオは店の立地条件にまず驚く。
右を向くとB店、左を向くとC店。どれもラーメン屋。
しかも塩ラーメン。
どうしてここに塩ラーメンの店を出店したのか、アツオにはまったく理解出来なかった。
ひときわ大きな依頼主の店、A店に入る。
特に反応は無い。
しばし、静寂の時が過ぎる。
ここは飲食店なのかと、間違えるほどの無音だった。
仕方なく、アツオは手前のテーブルに座った。
ドン。
どこからか現れた店員が、グラスを乱暴に置く。
「らっしゃい」
ぼそぼそと覇気のない声が頭上から聞こえた。
アツオは顔を上げる。
アツオを見下すような茶髪の店員の視線と目が合った。
「塩らーめん、ください」
「あいっす」
厨房へと店員は消える。
(こいつはクビだな)
アツオは鞄から取り出したノートに素早くメモを書く。
店内の隅にはホコリがたまっている。
掃除はいつしたのだろうか。
(衛生面 ゼロポイント)
アツオはペンを走らす。
五分経過。
十五分経過。
いくらなんでも遅すぎる。
二十分後、ようやくラーメンが出てきた。
アツオはスープを一口飲む。
ぬるかった。
そして、ただ塩辛いだけの味しか感じない。
(スープ マイナス100ポイント。 あの社長が言っていた、自信の味とは、一体なんなのかとアツオは首をひねる。
麺をすする。
案の定、延びきっている。
アツオは無言で立ち上がるとレジに向かう。
先ほどの覇気の無い店員がレジにいた。
「お客さん、ウチのラーメンまずかったすか」
店員はアツオのほとんど食べなかったラーメンを見ている。
「まあね」
「お代は結構です。そして二度と来るな」
「お金は払います。あんた、客と喧嘩してもしょうがないでしょう」
アツオはぴったりのお金を出して、店を後にした。
客のいない店内で、店員と店長が話し出す。
「こんなんでいいんですかね」
「いいんだよこれで」
二人の間には微妙な緊張感があった。
店長と思われる人物がエプロンを脱ぎながら言った。
「もう、そろそろ潮時かもしれませんね。C店の店長さん」
店員だった人物もかぶっているユニフォームの帽子を脱いだ。
「そうかもしれませんね。B店の店長
。私たちの正体がばれる前に辞職届けを郵送で出して逃げちゃいましょう」
塩ラーメン激戦区で長年、B店とC店はしのぎを削っていた。
そこに突如やってきた大手チェーンのA店。
連日の長蛇の列に焦った二店は結託して、A店の悪い評判を流す努力に力を注いだ。
アツオの調査報告が社長に上がった。
A店の店長、店員には解雇指示が飛んだが、すでに二人は退職した後だった。
再び三店で戦う日々が始まったが、ここに四店目の塩ラーメンの店が出来るという噂を店長たちは聞きつけた。
A、B、C店の店長たちは履歴書を買いに走った。
秘密裏に、飲食店のサービス対応をチェックする調査員を生業にしている。
アツオは仕事を始める前に自分に気合いを入れる。
シンプルな塩ラーメンが売りのA店。
A店は、大手外食チェーン店が出店した店だ。
社長の話では、出店当初は売り上げも上々だったのに、最近は調子が悪い。味には絶大の自信を持っている。
何か原因があるのではないのかと思っている社長が、アツオに調査を依頼したのだった。
アツオは店の立地条件にまず驚く。
右を向くとB店、左を向くとC店。どれもラーメン屋。
しかも塩ラーメン。
どうしてここに塩ラーメンの店を出店したのか、アツオにはまったく理解出来なかった。
ひときわ大きな依頼主の店、A店に入る。
特に反応は無い。
しばし、静寂の時が過ぎる。
ここは飲食店なのかと、間違えるほどの無音だった。
仕方なく、アツオは手前のテーブルに座った。
ドン。
どこからか現れた店員が、グラスを乱暴に置く。
「らっしゃい」
ぼそぼそと覇気のない声が頭上から聞こえた。
アツオは顔を上げる。
アツオを見下すような茶髪の店員の視線と目が合った。
「塩らーめん、ください」
「あいっす」
厨房へと店員は消える。
(こいつはクビだな)
アツオは鞄から取り出したノートに素早くメモを書く。
店内の隅にはホコリがたまっている。
掃除はいつしたのだろうか。
(衛生面 ゼロポイント)
アツオはペンを走らす。
五分経過。
十五分経過。
いくらなんでも遅すぎる。
二十分後、ようやくラーメンが出てきた。
アツオはスープを一口飲む。
ぬるかった。
そして、ただ塩辛いだけの味しか感じない。
(スープ マイナス100ポイント。 あの社長が言っていた、自信の味とは、一体なんなのかとアツオは首をひねる。
麺をすする。
案の定、延びきっている。
アツオは無言で立ち上がるとレジに向かう。
先ほどの覇気の無い店員がレジにいた。
「お客さん、ウチのラーメンまずかったすか」
店員はアツオのほとんど食べなかったラーメンを見ている。
「まあね」
「お代は結構です。そして二度と来るな」
「お金は払います。あんた、客と喧嘩してもしょうがないでしょう」
アツオはぴったりのお金を出して、店を後にした。
客のいない店内で、店員と店長が話し出す。
「こんなんでいいんですかね」
「いいんだよこれで」
二人の間には微妙な緊張感があった。
店長と思われる人物がエプロンを脱ぎながら言った。
「もう、そろそろ潮時かもしれませんね。C店の店長さん」
店員だった人物もかぶっているユニフォームの帽子を脱いだ。
「そうかもしれませんね。B店の店長
。私たちの正体がばれる前に辞職届けを郵送で出して逃げちゃいましょう」
塩ラーメン激戦区で長年、B店とC店はしのぎを削っていた。
そこに突如やってきた大手チェーンのA店。
連日の長蛇の列に焦った二店は結託して、A店の悪い評判を流す努力に力を注いだ。
アツオの調査報告が社長に上がった。
A店の店長、店員には解雇指示が飛んだが、すでに二人は退職した後だった。
再び三店で戦う日々が始まったが、ここに四店目の塩ラーメンの店が出来るという噂を店長たちは聞きつけた。
A、B、C店の店長たちは履歴書を買いに走った。