カズオは何個目かの目覚まし時計を止めた。
意識が水の底からゆっくりと浮かび上がる感覚を感じる。
焦点の合わない目で時計を見た。
まずい時間だ。
会社に間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ。
またか…
カズオは己の運命じみた、ギリギリ体質を呪う。
未だ無遅刻なのが、カズオ自信にも不思議だった。
今はそんなことを考えている場合ではない。
毎朝こんな調子なので、カズオなりに作戦は立ててある。
寝間着は出勤ユニフォームであるスーツで寝ている。
皮靴をはいて即座に外に飛び出す。
自転車にまたがった。
最寄り駅まで十分はかかる。
幹線道路をまたぐ信号につかまるとさらに五分は余分に時間がかかる。
カズオはがむしゃらにペダルをこいだ。
目前の青信号が点滅する。
間に合うのか…
すんでの所で渡ることができた。
次の交差点にさしかかる。
またしても青信号が点滅を始めた。
行けるか…
ギリギリで渡りきる。
汗だくになり、駐輪場に自転車を投げ出すように止めた。
改札を走り抜け、ホームに駆け上がる。
発車ベルがけたたましく鳴る。
カズオが電車のドアに体を滑り込ませた瞬間、不機嫌そうにドアがしまる。
この電車に乗れたということは、目的駅から会社まで五分。
五分で約二キロを走り抜ける計算になる。
カズオにとっては余裕の時間だ。
いつもはこれよりさらに時間がない。
今日はこれでもラッキーだった。
時間が迫る中、外の景色を眺める余裕もカズオには出てきた。
早朝にはカラスもどこかに出勤するのか、車外を飛び回る姿を何羽も見た。
混み合う車内だったが、カズオの目の前に一人の老紳士がドアにもたれて立っていた。
突然、老紳士が胸を押さえてその場にうずくまる。
苦悶の表情が痛々しい。
カズオは思わず声をかける。
「大丈夫ですか」
「胸が苦しい。息ができない」
電車がスピードを緩めて、次の駅に停車した。
ドアが開いたのでカズオは老紳士を肩で持ち上げるようにして、一緒にホームに降りた。
一瞬にして周囲が困惑の雰囲気に包まれる。
カズオもどうしたら良いのか分からないが、現在の状況を伝えることしかできなかった。
「救急車を呼んでください。この方が胸の痛みと、呼吸困難を訴えています」
老紳士の顔色が見る間に血の気を失っていく。
カズオはしっかりしてくださいと声をかけ続けた。
救急隊が駆けつけ、老人は運ばれていった。
救急隊員の話では、一時的な体調不良で命に別状はないとのことだった。
カズオは安心した。
そして、自分の心配をする。
腕時計を見た。
会社は完全に始まっている時間だ。
俺のギリギリだが、遅刻は決してしない人生も終わったか。
そう思いながら、会社に電話をかける。
数回の呼び出しベルの後、同僚が電話にでた。
「はい、オフィス・会社でございます」
「あっ、お疲れさまです。カズオです」
「カズオ君、そっちは大変でしょう」
「えっ?何かご存じですか」
「ニュースでもやってるわ。停電で電車が止まったんでしょう。そんな調子だから、今日は会社に来れるようなら来てね。遅延届けは私の方で用意しておくからね。じゃあね」
電話が一方的に切れる。
今朝もまた、カズオはギリギリではあったが、遅刻ではなくなった。
意識が水の底からゆっくりと浮かび上がる感覚を感じる。
焦点の合わない目で時計を見た。
まずい時間だ。
会社に間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ。
またか…
カズオは己の運命じみた、ギリギリ体質を呪う。
未だ無遅刻なのが、カズオ自信にも不思議だった。
今はそんなことを考えている場合ではない。
毎朝こんな調子なので、カズオなりに作戦は立ててある。
寝間着は出勤ユニフォームであるスーツで寝ている。
皮靴をはいて即座に外に飛び出す。
自転車にまたがった。
最寄り駅まで十分はかかる。
幹線道路をまたぐ信号につかまるとさらに五分は余分に時間がかかる。
カズオはがむしゃらにペダルをこいだ。
目前の青信号が点滅する。
間に合うのか…
すんでの所で渡ることができた。
次の交差点にさしかかる。
またしても青信号が点滅を始めた。
行けるか…
ギリギリで渡りきる。
汗だくになり、駐輪場に自転車を投げ出すように止めた。
改札を走り抜け、ホームに駆け上がる。
発車ベルがけたたましく鳴る。
カズオが電車のドアに体を滑り込ませた瞬間、不機嫌そうにドアがしまる。
この電車に乗れたということは、目的駅から会社まで五分。
五分で約二キロを走り抜ける計算になる。
カズオにとっては余裕の時間だ。
いつもはこれよりさらに時間がない。
今日はこれでもラッキーだった。
時間が迫る中、外の景色を眺める余裕もカズオには出てきた。
早朝にはカラスもどこかに出勤するのか、車外を飛び回る姿を何羽も見た。
混み合う車内だったが、カズオの目の前に一人の老紳士がドアにもたれて立っていた。
突然、老紳士が胸を押さえてその場にうずくまる。
苦悶の表情が痛々しい。
カズオは思わず声をかける。
「大丈夫ですか」
「胸が苦しい。息ができない」
電車がスピードを緩めて、次の駅に停車した。
ドアが開いたのでカズオは老紳士を肩で持ち上げるようにして、一緒にホームに降りた。
一瞬にして周囲が困惑の雰囲気に包まれる。
カズオもどうしたら良いのか分からないが、現在の状況を伝えることしかできなかった。
「救急車を呼んでください。この方が胸の痛みと、呼吸困難を訴えています」
老紳士の顔色が見る間に血の気を失っていく。
カズオはしっかりしてくださいと声をかけ続けた。
救急隊が駆けつけ、老人は運ばれていった。
救急隊員の話では、一時的な体調不良で命に別状はないとのことだった。
カズオは安心した。
そして、自分の心配をする。
腕時計を見た。
会社は完全に始まっている時間だ。
俺のギリギリだが、遅刻は決してしない人生も終わったか。
そう思いながら、会社に電話をかける。
数回の呼び出しベルの後、同僚が電話にでた。
「はい、オフィス・会社でございます」
「あっ、お疲れさまです。カズオです」
「カズオ君、そっちは大変でしょう」
「えっ?何かご存じですか」
「ニュースでもやってるわ。停電で電車が止まったんでしょう。そんな調子だから、今日は会社に来れるようなら来てね。遅延届けは私の方で用意しておくからね。じゃあね」
電話が一方的に切れる。
今朝もまた、カズオはギリギリではあったが、遅刻ではなくなった。