日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の想像話「役人」

2020年08月13日 | ◎本日の想像話
 休日の朝、カズオはいつもより早く目を覚ました。
 背中を悪寒がはしる。こういうときに悪い予感が的中する不思議な癖がカズオにはあった。
 急いでスマホをみる。
 新着メッセージが何百とあった。
「おめでとう」
「これから大変だね」
「世界を代表してがんばって」
 メッセージが画面に並ぶ。
 だいたい同じ内容のコメントが並ぶ。
「カズオ様。今年度の世界健康大使はあなたです」
「うそでしょ」 
 カズオの口から思わず声が漏れた。
 誰かがドアを乱暴にたたく。
 インターホンが鳴る。
「おはようございます。お目覚めですね。早速ですが、世界健康大使就任おめでとうございます。今のお気持ちを一言いただけますか」
 カズオは自分の足下がぐらぐらして立っていられなかった。
 スマホが鳴る。
 会社のグループラインに新着メッセージが届いたようだ。
「今年一年間の仕事は免除になります。給料は国から保証されますので、安心して体調維持に努めてください」
 これから自分に起こる状況を想像したカズオは、急いでキッチンに走る。
 テーブルの上にあるタバコに火をつける。
 深く吸う。
 冷蔵庫から取り出した缶コーヒーを、立て続けに三本流し込む。
 その後、缶ビールを飲み干す。
 一呼吸ついた時に、ひときわ威圧的な声がインターホン越しに聞こえた。
「カズオさん。国家緊急事態回避省のものです。もうお聞きかと思いますが、あなたの身柄をこれより一年間、国家があずかり、管理します。これは強制力があります。先方の指示によりあなたが選ばれた以上しょうがない事案であるのは分かりますね。ドアを開けてください」
 カズオは画面に映る、スーツ姿の役人らしき人物を確認する。
 カズオは自分の考えを整理しようと努力はした。
 しかし、パニックになるばかりだった。
 仕方なくカズオは玄関ドアを開けて、役人を招き入れた。
「突然のことで申し訳ない。しかし、サンプルの発表自体が突然のことなのでね、これはどなたもしょうがないのです。あなたの健康状態を調べる日時は一年後です。あなたは、地球人を代表してやつらに健康を証明しなければなりません。おっと、やつらなどと口が滑りましたな」
 役人は胸ポケットからタバコを差し出し、カズオにすすめる。
 カズオは口にしたタバコに火をつけてもらう。
「カズオ様のことは昨夜ある程度調べました。サンプルとしては厳しい生活をなされてますね。酒、タバコ、不摂生、寝不足、高血圧、中年太り…これ、やばいですよ」
「はあ、わたしも任命されて背筋が凍る思いです」
「もしですよ、一年後の健康検査に引っかかった場合、どうなるのか、あなたご存じですか」
 役人は自らもタバコに火をつけてうまそうに吸った。
「いえ、具体的にどうなるのかは知りません」
「地球が宇宙人に征服されて何年経つのか…私たち地球人は宇宙に労働力を送り込む生活を強要されています。しかし、労働の対価として宇宙人は我々にありあまるお金を払っています」
「ええ、おかげで贅沢な暮らしをしています」
「そのかわり、やつらも、地球人の体調を特にチェックする。過去に地球人が持ち込んだ病原体で痛い目をみたことがあった。それを嫌った宇宙人がとった手段が世界健康大使ですよ」
 カズオの肩をがっしりとつかんで役人は熱く語っている。
「そうなんですね」
「そうなんですよ。奴らは無作為に選んだ地球人のサンプルを遺伝子レベルまで徹底的に解析するようになった。もしこのテストで不合格になった場合…」
「なった場合…?」
 カズオは息をのむ。
「地球人の生活待遇を一度リセットする。管理と監視を強いる。捕虜なみの生活までレベルを下げると奴らは言っている」
「責任重大ですね」
 カズオの全身が小刻みに震える。
「そうだ。責任重大だ。だから私も、あなたにつきあって、今日から禁煙するよ」
 役人はポケットからだした携帯灰皿でタバコの火を消す。 
「とりあえず、施設までいこうか」
「はい」
 カズオはとりあえずこいつらから逃げ出してみようと考えていた。 

コメント
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