倉庫の遙か上空からエンジンの出力をしぼる。車体は徐々に高度を下げていく。屋上に見張りの男が一人見えた。懐に手を差し入れてタバコの箱を取り出す。口元に一本くわえる。ライターの調子が悪く、なかなか火がつかない。いらいらする男に火を差し出すものがいた。
「どうも」
「どういたしまして」
火を点けてやったのはエアバイクにまたがったままのミツオだ。
「おまえ」
見張りの男が手に持つ短銃をミツオにむける。
ミツオは素早くアクセルをあおる。
車体がくるりと半回転する。
車体側面が見張りの男にぶち当たる。ミツオはバイクを屋上に下ろして、うずくまる男にとびかかった。手足を器用に持参したタイラップで縛り上げた。
屋内へと続くドアに向かう。
「どうも」
「どういたしまして」
火を点けてやったのはエアバイクにまたがったままのミツオだ。
「おまえ」
見張りの男が手に持つ短銃をミツオにむける。
ミツオは素早くアクセルをあおる。
車体がくるりと半回転する。
車体側面が見張りの男にぶち当たる。ミツオはバイクを屋上に下ろして、うずくまる男にとびかかった。手足を器用に持参したタイラップで縛り上げた。
屋内へと続くドアに向かう。
ミツオは一度遠回りをして海上に出る。波の音と磯の香りに支配される。ヘッドライトを消した状態で海上から倉庫を観察する。人の気配があるのはこの倉庫だけだ。漆黒の闇の中、ライトが煌々と点いている。ミツオには、ベランダに出てタバコを吸う男達が見て取れた。手には短銃が握られている。何かしらの情報が届いているとミツオは思った。ご丁寧にアンドロイド型ロボットも警備についている。戦闘に特化したタイプに見える。これだけの装備がここに集まっているのは政府が、関与している証明でもあった。
無性にタバコが吸いたくなったが、ここで火を灯すわけにはいかない。意を決して視線をあげる。アクセル全開で、上空に高く跳ね上がった。
無性にタバコが吸いたくなったが、ここで火を灯すわけにはいかない。意を決して視線をあげる。アクセル全開で、上空に高く跳ね上がった。
浮遊力を失ったバイクは自由落下を始める。後ろを向いているロボは何が起こったか分からずフリーズしている。ミツオは自分でやったことなので、こうなることは十分に分かっている。一瞬の隙をミツオは見逃さない。ハンドルをしっかりもったまま、体を左に傾ける。ハングオンの姿勢をつくる。バイクはくるりと回転しながら落ちていく。フリーズを起こしているロボをバイクから蹴落とし、ミツオはメインスイッチを入れる。即座に命を吹き返したバイクが浮遊力を回復した。地面に激突寸前だった。
バイクの性能を確かめつつミツオは地面を確認する。
ロボはうつ伏せのまま動かない。ミツオはアクセルを開けた。
霧の空を進む。空中の運転は慣れないが、出来ないこともない。埠頭の倉庫にハンドルを向ける。
バイクの性能を確かめつつミツオは地面を確認する。
ロボはうつ伏せのまま動かない。ミツオはアクセルを開けた。
霧の空を進む。空中の運転は慣れないが、出来ないこともない。埠頭の倉庫にハンドルを向ける。
ミツオはゴミための中を走る。酸性雨はあらゆる物を腐食させ、道に転がっている。身を隠しながらビルの階段を駆け上がる。10フロアーは登っただろうか、ミツオは息を整えながら階段に座り込む。
だめだ。
バイクは正確に、ミツオの後を追いかけてくる。ミツオが廊下の壁から階下を見る。ロボはこちらを見上げながらまっすぐ上昇してきた。ミツオは壁に手をかけ、自らの体を空中に投げ出す。真下にはホバーバイクがいる。ロボの背中に蹴りを入れながら、タンデムシートにミツオは収まった。地上10メートルの格闘。ロボの上半身がくるりと回転した。180度後ろ向きになり、ミツオと手四つになる。ミツオは思う。きっと格闘のプログラムがインストールされているに違いない。ロボは手を振りほどいて、銃口をミツオに向ける。ミツオはロボの胴体にタックルしながら自らの手を伸ばす。指先にあるのはバイクのメインスイッチ。ミツオはバイクの電源をオフにする。
だめだ。
バイクは正確に、ミツオの後を追いかけてくる。ミツオが廊下の壁から階下を見る。ロボはこちらを見上げながらまっすぐ上昇してきた。ミツオは壁に手をかけ、自らの体を空中に投げ出す。真下にはホバーバイクがいる。ロボの背中に蹴りを入れながら、タンデムシートにミツオは収まった。地上10メートルの格闘。ロボの上半身がくるりと回転した。180度後ろ向きになり、ミツオと手四つになる。ミツオは思う。きっと格闘のプログラムがインストールされているに違いない。ロボは手を振りほどいて、銃口をミツオに向ける。ミツオはロボの胴体にタックルしながら自らの手を伸ばす。指先にあるのはバイクのメインスイッチ。ミツオはバイクの電源をオフにする。
霧中の視界は、まるでミルクの中だ。感覚だけでミツオは走る。バイク2台は、ミツオの車にすぐに追いついた。両側に一台ずつ並ぶ。ミツオが首を振って左右を確認する。ホバーバイクを運転しているのはやはりロボットだった。ロボットはハンドルから片手を離す。腕をミツオの車に向ける。手のひらの中に銃口が見えた。直後に衝撃と共に車内にはガラスが散乱する。サイドとフロントのガラスが粉々に吹き飛んだ。奴らは躊躇なく発砲した。
「なるほど」
ミツオは静かにつぶやく。
ハンドルを左右に素早く切る。
バイクは車体の側面にぶつかりながらバランスを崩した。ハンドルを切り続け、バイクを車体とガードフェンスの間に挟みこむ。火花を散らしながらバイクは転倒した。
もう一台のエアバイクはたまらず上空に逃げる。天井に複数の弾痕が続けざまに開いた。急ブレーキを踏む。上空のエアバイクはミツオを追い抜いた後、Uターンしてくるのが見えた。ミツオは車外に飛び出した。
「なるほど」
ミツオは静かにつぶやく。
ハンドルを左右に素早く切る。
バイクは車体の側面にぶつかりながらバランスを崩した。ハンドルを切り続け、バイクを車体とガードフェンスの間に挟みこむ。火花を散らしながらバイクは転倒した。
もう一台のエアバイクはたまらず上空に逃げる。天井に複数の弾痕が続けざまに開いた。急ブレーキを踏む。上空のエアバイクはミツオを追い抜いた後、Uターンしてくるのが見えた。ミツオは車外に飛び出した。
意識がなくなる刹那、ロボがミツオの顔を擦り付けている物が何であるかが分かった。
ミツオは最後の力を振り絞って、ポケットからライターを取り出し。素早く着火する。ミツオの顔に埋もれている火災検知器をあぶった。コンマ5秒後、視界をうばう大量の水がスプリンクラーから降り注ぐ。
防水処理のされていなかった精密機器は、一発で昇天した。エラー音と共に機能は停止する。ミツオはロボの腕に足をかけて締め付ける腕を外し、やっと呪縛から解放される。水浸しの床にがっくりとうずくまった。のろのろと立ち上がり、ミツオは部屋を後にする。
なんとか建物の外にでたミツオは車のドアに手をかける。ずぶ濡れの体をシートに預けることに抵抗はあったが、そんなことを言っている場合ではない。
エンジンに火を入れて、一速にギアをたたき込む。バックミラーに、東方室Aの建物から、後輪をスライドさせて飛び出す数台のエアバイクが見えた。
ミツオは最後の力を振り絞って、ポケットからライターを取り出し。素早く着火する。ミツオの顔に埋もれている火災検知器をあぶった。コンマ5秒後、視界をうばう大量の水がスプリンクラーから降り注ぐ。
防水処理のされていなかった精密機器は、一発で昇天した。エラー音と共に機能は停止する。ミツオはロボの腕に足をかけて締め付ける腕を外し、やっと呪縛から解放される。水浸しの床にがっくりとうずくまった。のろのろと立ち上がり、ミツオは部屋を後にする。
なんとか建物の外にでたミツオは車のドアに手をかける。ずぶ濡れの体をシートに預けることに抵抗はあったが、そんなことを言っている場合ではない。
エンジンに火を入れて、一速にギアをたたき込む。バックミラーに、東方室Aの建物から、後輪をスライドさせて飛び出す数台のエアバイクが見えた。
「私にはどうしてもコードを見つけることはできなかった。権堂はここにいる。見つけ出して停止コードを入手してほしい」
エリーは埠頭の倉庫を示した地図を表示する。
「権堂はかくまわれているということか……」
ミツオは腕を組んだ。
その時、エリーの立体映像が乱れる。
「私の外部出力が阻害されます。ミツオさん。逃げてください。ここは東方室A。私を作った発注者の拠点です」
言い終わる前に映像は消失する。室内には受付ロボとミツオだけになった。
「おまえはどちらかというと俺の見方だよな」
ミツオは震える声で受付ロボに話しかける。ロボの瞳の発光が緑から赤に変化する。直後、モーター音が響き、ミツオとの距離をつめる。ミツオは何も出来なかった。首に痛みが襲う。
ミツオの首を締めるける腕が圧縮空気の音と共に真上に伸びる。持ち上げられたミツオはもがいた。天井に頭をぶつける。遠のく意識。視界がうすれていく。
エリーは埠頭の倉庫を示した地図を表示する。
「権堂はかくまわれているということか……」
ミツオは腕を組んだ。
その時、エリーの立体映像が乱れる。
「私の外部出力が阻害されます。ミツオさん。逃げてください。ここは東方室A。私を作った発注者の拠点です」
言い終わる前に映像は消失する。室内には受付ロボとミツオだけになった。
「おまえはどちらかというと俺の見方だよな」
ミツオは震える声で受付ロボに話しかける。ロボの瞳の発光が緑から赤に変化する。直後、モーター音が響き、ミツオとの距離をつめる。ミツオは何も出来なかった。首に痛みが襲う。
ミツオの首を締めるける腕が圧縮空気の音と共に真上に伸びる。持ち上げられたミツオはもがいた。天井に頭をぶつける。遠のく意識。視界がうすれていく。
「あなたが目にした私は、霧中に照射した実体のない映像。そして私は実体のないプログラムなのです」
エリーはミツオの目を見ている。ミツオは言葉を失う。
「私のプログラム母体は、レベルE。権堂達によって開発されました」
「あんたプログラムだったのか。驚いたな。そんなあんたがどうして権堂を俺に探させている」
「現在、レベルEが組み込まれていないパソコンは存在しない。問題は私。プログラム・エリーなのです」
エリーは視線をおとした。
「私は隠されたウイルスとして眠っています。しかし権堂がコードを入力すれば、たちまちすべてのシステムが乗っ取られてしまいます」
「おいおい」
ミツオは唖然とした。
エリーはミツオの目を見ている。ミツオは言葉を失う。
「私のプログラム母体は、レベルE。権堂達によって開発されました」
「あんたプログラムだったのか。驚いたな。そんなあんたがどうして権堂を俺に探させている」
「現在、レベルEが組み込まれていないパソコンは存在しない。問題は私。プログラム・エリーなのです」
エリーは視線をおとした。
「私は隠されたウイルスとして眠っています。しかし権堂がコードを入力すれば、たちまちすべてのシステムが乗っ取られてしまいます」
「おいおい」
ミツオは唖然とした。
次の日、ミツオは東方室Aに再び足を運んだ。無人のロビーを進む。先日の受付ロボがカウンターからすべるようにやってきた。
「本日はどういったご用件でしょうか」
ミツオは胸ポケットをまさぐる。
コードが印刷された名刺大のアクリル板をとりだす。受付ロボの前に差し出し、読み込ませる。
このアクリル板は、大家の元に息子の死後届いたものだ。生前に送付したものだろう。息子からの最後のメッセージだとミツオは直感した。
アクリル板を認識したロボの様子に変化が現れる。ミツオを促すようにロボが動き出した。あわてて後に続く。別室に案内され、ミツオが入室すると後ろでドアが閉まる。
ロボは顔を上げて、空間に映像を照射した。
ミツオは声を失う。
空間に現れたのはエリーだった。
「本日はどういったご用件でしょうか」
ミツオは胸ポケットをまさぐる。
コードが印刷された名刺大のアクリル板をとりだす。受付ロボの前に差し出し、読み込ませる。
このアクリル板は、大家の元に息子の死後届いたものだ。生前に送付したものだろう。息子からの最後のメッセージだとミツオは直感した。
アクリル板を認識したロボの様子に変化が現れる。ミツオを促すようにロボが動き出した。あわてて後に続く。別室に案内され、ミツオが入室すると後ろでドアが閉まる。
ロボは顔を上げて、空間に映像を照射した。
ミツオは声を失う。
空間に現れたのはエリーだった。