昨日、娘を初めての歯科検診に連れて行きました。歯磨きが大嫌いな娘がどれだけ抵抗するかと父親のほうがドキドキしてましたが、手馴れた小児歯科の先生が上手く対処してくれて、無事終了(もちろん泣きましたが)。優しそうな女性の先生だったのもよかったか。
こういう場面でよく問題になるのが、娘の名前。「楓」(かえで)という名ですが、米国籍ではもちろんアルファベット。日本のローマ字綴りに従って「Kaede」としました。ところがこれ、英語ネイティブのアメリカ人には「どう発音していいかわからない」らしいのです。悩んだ挙句、「ケイド[keid]?」とか「ケイディ[keidi:]?」のように発音して、「ごめんなさいね、どう発音するの?」と聞かれる(発音間違いは失礼、という考えがあるようです)。で、「かえで」と日本語式の発音を聞いてもらうと、まあなんとかできる。
名前を決めたときには、こんな単純な構造の、よくある音の連続が発音できないとは予想しませんでした。でもたとえば、Ninaばーちゃんは発音以前に処理できず、だから覚えられず、すぐ諦めてミドルネーム一辺倒に。「アメリカで生まれた記念に」と思って(アメリカ国籍にだけ)付けておいただけなのに、実際に使われることになるとは。
さて、昨日の小児歯科でも、呼び出しに来た助手さんが悩み、発音を聞いてきました。診察室で待っている間に書類をのぞくと、彼女が「かえで」を聞いて書き留めたらしい文字列発見。それがこれ。
K'y-ah-day
簡略IPAで書くと[kai ei dei]ってな感じでしょうか(アポストロフィの意味は不明)。それが彼らにとって、聞かされた日本語の音声にいちばん似てると。子音で終わらない音節が続くと、それぞれ二重母音にしないと発音しづらいもよう。2つ目の母音だけの音節はことに厄介なのかも。
実は以前にも似たことが。言語学科のある食事会で娘の名前の話になり、周りの英語ネイティブが、「Kaedeでは「かえで」とは読めない」と言い出しました。3人で合議の結果、これならそう読める、と見せてくれたのが、
Ky ai dey
上のとほぼ同じ変換システムが働いた結果のようです。こういうのが、音韻論でさかんな「loan-word phonology」が明らかにしたい、「他言語音声の知覚 → 母語音声・音韻システムへのマッピング」のメカニズム発動の一例でしょうか。でも今思うと、「言語学者なら、「かえで」をIPAで書いてみな。[kaede]になるでしょ」とか「KaedeをIPAだと思って発音してみな。俺が発音してるとおりになるから」とか言ってやればよかった。日本語の音声システムが類型的に見てより一般的であること、一方、英語の綴りがめっちゃくちゃ(というか歴史的推移が原因でねじれまくっている)ことを英語ネイティブに悟らせてやれる絶好のチャンスだったのに。「英語がヘンなんだよ」と。
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ところで、いとこに子供が生まれたそうで、名前を知らされました。よその子なので名前を書くのは差し控えますが.........読めない。知り合いにも、教わらないと想像つかない読みの名前、「おそらくこう読むんだろうけど、それは無理だろ」と思われる名前が多数。熟字訓をあてた漢字列をぶった切るとか。漢字には、常用漢字を定めたとき絞り込んだ以上にさまざまな訓よみがあるのは確かで、その漢字と訓とのルーズな関係のせいで、命名のための漢字使用の自由度がめちゃくちゃ高い。だから、こういうことができちゃう(それすら逸脱した「狼藉」もよく見るが)。まあ、好きにすればいいんだけど。。。
聞いた範囲から理解したところでは、まず音を決めて、当てる漢字を考える人が多い。その際に「平凡でない、かっこいい(かわいい)、漢字列」とか「画数の組み合わせがよい」とかいう条件にこだわるあまり、珍妙なものが出来上がるようです。珍しくはない名前であっても、音と漢字の対応に無理がなく、だから音を聞いても、漢字を見ても同じ意味がすっと浮かぶ名前のほうが、その名前に込められた意図も、つけた人の思慮もうかがえて感じがいい、と思うんですが・・・
こういう場面でよく問題になるのが、娘の名前。「楓」(かえで)という名ですが、米国籍ではもちろんアルファベット。日本のローマ字綴りに従って「Kaede」としました。ところがこれ、英語ネイティブのアメリカ人には「どう発音していいかわからない」らしいのです。悩んだ挙句、「ケイド[keid]?」とか「ケイディ[keidi:]?」のように発音して、「ごめんなさいね、どう発音するの?」と聞かれる(発音間違いは失礼、という考えがあるようです)。で、「かえで」と日本語式の発音を聞いてもらうと、まあなんとかできる。
名前を決めたときには、こんな単純な構造の、よくある音の連続が発音できないとは予想しませんでした。でもたとえば、Ninaばーちゃんは発音以前に処理できず、だから覚えられず、すぐ諦めてミドルネーム一辺倒に。「アメリカで生まれた記念に」と思って(アメリカ国籍にだけ)付けておいただけなのに、実際に使われることになるとは。
さて、昨日の小児歯科でも、呼び出しに来た助手さんが悩み、発音を聞いてきました。診察室で待っている間に書類をのぞくと、彼女が「かえで」を聞いて書き留めたらしい文字列発見。それがこれ。
K'y-ah-day
簡略IPAで書くと[kai ei dei]ってな感じでしょうか(アポストロフィの意味は不明)。それが彼らにとって、聞かされた日本語の音声にいちばん似てると。子音で終わらない音節が続くと、それぞれ二重母音にしないと発音しづらいもよう。2つ目の母音だけの音節はことに厄介なのかも。
実は以前にも似たことが。言語学科のある食事会で娘の名前の話になり、周りの英語ネイティブが、「Kaedeでは「かえで」とは読めない」と言い出しました。3人で合議の結果、これならそう読める、と見せてくれたのが、
Ky ai dey
上のとほぼ同じ変換システムが働いた結果のようです。こういうのが、音韻論でさかんな「loan-word phonology」が明らかにしたい、「他言語音声の知覚 → 母語音声・音韻システムへのマッピング」のメカニズム発動の一例でしょうか。でも今思うと、「言語学者なら、「かえで」をIPAで書いてみな。[kaede]になるでしょ」とか「KaedeをIPAだと思って発音してみな。俺が発音してるとおりになるから」とか言ってやればよかった。日本語の音声システムが類型的に見てより一般的であること、一方、英語の綴りがめっちゃくちゃ(というか歴史的推移が原因でねじれまくっている)ことを英語ネイティブに悟らせてやれる絶好のチャンスだったのに。「英語がヘンなんだよ」と。
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ところで、いとこに子供が生まれたそうで、名前を知らされました。よその子なので名前を書くのは差し控えますが.........読めない。知り合いにも、教わらないと想像つかない読みの名前、「おそらくこう読むんだろうけど、それは無理だろ」と思われる名前が多数。熟字訓をあてた漢字列をぶった切るとか。漢字には、常用漢字を定めたとき絞り込んだ以上にさまざまな訓よみがあるのは確かで、その漢字と訓とのルーズな関係のせいで、命名のための漢字使用の自由度がめちゃくちゃ高い。だから、こういうことができちゃう(それすら逸脱した「狼藉」もよく見るが)。まあ、好きにすればいいんだけど。。。
聞いた範囲から理解したところでは、まず音を決めて、当てる漢字を考える人が多い。その際に「平凡でない、かっこいい(かわいい)、漢字列」とか「画数の組み合わせがよい」とかいう条件にこだわるあまり、珍妙なものが出来上がるようです。珍しくはない名前であっても、音と漢字の対応に無理がなく、だから音を聞いても、漢字を見ても同じ意味がすっと浮かぶ名前のほうが、その名前に込められた意図も、つけた人の思慮もうかがえて感じがいい、と思うんですが・・・