Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

20才のシューベルト その6(No.1773)

2010-08-02 15:53:54 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
 本日は昨日の続きである。

ピアノソナタ ホ長調D459 は「1稿」しか残されていない1816年8月のソナタ


である。
 この点の指摘は全く見たことがない。

理由は、「自筆譜が第1楽章全てと第2楽章第142小節まで現存しているのに、印刷楽譜は第2楽章が第231小節まで完結している」から、別の原稿が存在した『はず』


と講釈されて来た。しかし

自筆譜と初版楽譜がこれほどまで一致しているソナタは珍しい = D459


なのだ。

第2楽章第142小節までは「ソナタ形式展開部終了」なので、再現部の補筆完成版を出版社クレムが作成・出版した


と考えると筋が通る。

  1. 第188小節(第46小節対応)で4度下げて、第2主題を主調で導く
  2. 第228小節から「4小節の短い目立たないコーダ」を補筆した

の2点のみ。シューベルトが作曲した再現部ならば、もう少しは変化がある、と考えるのが妥当。

ピアノソナタ ホ長調 D459/2 は「世界初」の補筆完成版! だった可能性が極めて大


である。

シューベルトはピアノソナタ作曲時、第1楽章 → 終楽章 の順に作曲することが多い(D459, D566, D571+D570, D613+D612)


 すると、中間楽章が最低で1楽章分は残されているはずだ。有力候補は実在し、「イ長調 D604」、1816年9月作曲「序曲 D470の草稿譜」と一緒に作曲されているので、作曲時期がピタリ合致する。

D459 1稿のみ



  1. 第1楽章 ホ長調 Allegro D459/1(完成)

  2. 第2楽章 イ長調(速度指示無し) D604(完成)

  3. 第3楽章 ホ長調 Allegro D459/2(ソナタ形式展開部終了まで完成。クレムが補筆完成)


と考えられる。

要点は D459/2 = 終楽章 であり、D459/2 ≠ スケルツォ楽章


である。クレムは「トリオのないスケルツォ」と勘違いしたようで、ベートーヴェン作曲ピアノソナタ第18番変ホ長調第2楽章スケルツォ を手本とした形に補筆完成版を作成したようだ。
 ちなみに「ソナタ第1番ホ長調 D157」も「ソナタ第2番ハ長調 D279」も「疑いなき完成した終楽章」は今のところ無いと考えられているので、シューベルトは「ソナタ第3番ホ長調 D459」まで全てのソナタで「終楽章で苦労」したことになる。


 出版社クレムが入手した楽譜は2系統あり

  1. Allegro patetico ホ長調
  2. Adagio ハ長調
  3. Scherzo : Allegro イ長調


  1. Allegro moderato ホ長調
  2. Allegro ホ長調(容易に補筆できる未完成稿)

だったと推測される。
 2系統共に(クレムの眼には)終楽章が欠けていた。「5つのピアノ小品」としてクレムが出版したのは1843年。この時に「出版されていたソナタ」は次の通り。

  1. イ短調ソナタ D845 作品42(1826出版)
  2. ニ長調ソナタ D850 作品53(1826出版)
  3. 変ホ長調ソナタ D568 作品122(1829出版)
  4. イ長調ソナタ D664 作品120(1829出版)
  5. ハ短調ソナタ D958(1838出版)
  6. イ長調ソナタ D959(1838出版)
  7. 変ロ長調ソナタ D960(1838出版)

 「ト長調ソナタ D894」は「幻想曲、、、作品78」として出版されていたし(爆

「ハ長調ソナタ D840 レリーク」は第2楽章のみが1839年に出版され、全曲出版は1861年


である。シューマンが絶賛した D840 でさえ、1843年には第1楽章すら出版されていないのが時代背景である。ちなみに

D157,D279,D557,D566,D571,D612,D625,D655 のソナタが出版されたのは、ブライトコプフ旧シューベルト全集が初


なのである。1888年と1897年。
 その半世紀も前に「終楽章の欠けた2曲のホ長調ソナタ(に見えた)の原稿を購入」したクレムは何とか売らないと元手が回収できない。

2曲のソナタ第1楽章の内、終楽章に廻しても違和感の少ない D459A/3 を終楽章に廻し、「ソナタ」の名称を外して出版した


と推測される。
 ハスリンガーが「幻想曲、、、作品78」で成功した話題は、ウィーン → ライプチヒにも噂話が伝わっていたことだろう。(クレムはライプチヒの出版社)
 私高本は

クレムが早い時期に、しかも非常に質の高い補筆完成版を出版し、「シューベルト音楽を広めた」ことに感謝する


 ユニヴァーサル社版シューベルトピアノソナタ全集全2巻の第1曲に D459+D459A が1953年に掲載されて以来、「5楽章ピアノソナタ」としてではあるが、演奏頻度の高い初期ソナタの1曲になったからである!!!
コメント
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