Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

「美しき水車屋の娘」作品25D795の『調性』問題(No.1912)

2011-08-08 21:57:29 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
 前号の続きである。

 1819年11月から「中期」に突入した シューベルト は、次々と「解決策の回答」を得る。「初期」にも「糸を紡ぐグレートヒェン」作品2D118 や 「魔王」作品1D326 などの超名作が続々あるのだが、

当時「現役作曲家のベートーヴェン」を越す = 規模の拡大 が必須


だった。後世ドイツリートの大作曲家の後輩となった ヴォルフ のような「作品体系」では シューベルト は満足できなかったのである。(ヴォルフの作品は短いが濃いぞ!)

 「私高本説のシューベルト中期」の作品について、多くの 音楽学者とヒョーロンカ は、弦楽四重奏曲第12番ハ短調「断章」D703 が重要、と書いているが、私高本は同意しない。

シューベルト中期(1819.11 - 1825.03)の代表作一覧



  1. ミサ曲第5番変イ長調D678(1819.11 - 1822.09)


  2. 交響曲第7番ロ短調「未完成」D759(1822.10.39 - 11)


  3. 「さすらい人」幻想曲ハ長調作品15D760(1822.11)


  4. ピアノ五重奏曲イ長調「ます」D667(1823夏)


  5. 「美しき水車屋の娘」作品25D795(1823.10 - 11)


  6. 弦楽四重奏曲第13番イ短調「ロザムンデ」作品29-1D804


  7. 弦楽四重奏曲第14番ニ短調「死と乙女」D810



 以上の7曲が「後期のシューベルト」を形作った、と思う。これに

  1. 「しぼんだ花」による変奏曲(1824.01)D802


  2. 8重奏曲ヘ長調D803(1824.02 - 03.03)



を加えても良いと思う。
 この中で「規模の拡大に寄与した名曲」は間違いなく「美しき水車屋の娘」である。まず、全体構想が(シューベルト自身だけでなく、ベートーヴェンやモーツァルトやハイドンと比べても)素晴らしい。

 この一覧をご覧になって気付いてほしいことがある。

「美しき水車屋の娘」作品25D795以外は全て『調性が決定している曲』である


ことを! ミサ曲で「ソプラノが風邪気味なので、半音下げて ト長調にしました」なんて演奏は絶対に無い(爆

 このような環境で シューベルト は、「ベートーヴェン並みの大作曲家への道」を歩んだ。大事な大事な シェーンシュタイン男爵 からの委嘱作品も(シェーンシュタイン男爵自身はバリトンなのに)「心の声」に従って「テノール用」に作曲した。シューベルト自身もバリトンだったのだが(苦笑


「美しき水車屋の娘」作品25D795の構成



  1. 第1~12番までは(第5曲唯1曲を除き)長調


  2. 第13番で「緑(grunen)」と言う言葉が出てくると、最終曲=第20番まで呪ったように「緑(grunen)」が付き纏い、主人公は死ぬ


  3. 第7番「焦燥」で、最高音=2点A が(1曲だけ)出る


  4. 第10曲「涙の雨」で、初めて「イ長調で開始されたのに、同主調=イ短調」で終曲する


  5. 第11曲「私のもの!」で、初めて「ff」が使用される


  6. 第17曲「嫌いな色」で、3曲目(にして最後の)「ff」が使用される


  7. 全体構成として、「第1楽章相当 = 第1~第3番」、「第2楽章相当 = 第4~第10番」、「第3楽章相当 = 第11~第12番」、「第4楽章相当 = 第13~第17番」、「コーダ相当 = 第18~第20番」


  8. 全20曲は「主調」または「同主調」で終結する



である。「緩徐楽章」をたっぷり聴かせるのが「シューベルトの特性の1つ」だが、「美しき水車屋の娘」から既に芽が出ているではないか!!!


・・・で、「調性の話題」である。この曲集を聴く時、私高本は「第2曲はト長調で無いと変」に感じる。多くの場合、ヘ長調で演奏されるのだが(涙

「シューベルトのト長調」は、「遅めのテンポ」で迷いながらも、明るく確立される!


が特徴。中期には確立しなかったが、弦楽四重奏曲D887 や ピアノソナタD894 や ドイツミサD872(この順の作曲だよ~ん!) で明らかになっていく。これがヘ長調やホ長調で「鳴る」と違和感大なのだ!

 第3曲「どこへ?」も、ハ長調でないと変。「明るく開放的で大規模な曲」の特徴。交響曲第8番「グレート」D944 とか 弦楽五重奏曲D956 とか 「さすらい人」幻想曲作品15D760 とか。これが変ロ長調とかイ長調で鳴ると調子が悪い。

 第10曲は特に「調性」について違和感が大きい曲の1つ。「明るいイ長調」から「暗闇のイ短調」での終曲へ。この落差は「ト長調 → ト短調」とかでは実現しない! この長い長い曲集でたった1回だけ「憧れの女性の肉声」が聴ける曲がこれ。その冷たい言葉は「イ短調」だからこそ、効果が上がる。
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「美しき水車屋の娘」作品25D795の『調性』問題(No.1911)

2011-08-05 21:19:09 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
 以前から薄々感じていたことが、「ヘンシェル+岡原慎也」で1997年末に聴いてから、14年経過して初めて私高本が自分の言葉で語れるようになった。これまで聴かせて頂いた全ての演奏家に感謝する。特に、岡原慎也、ヘンシェル、原田茂生、プライ、フィッシャー=ディースカウ、シュライヤー、エンドレス、エッシェンバッハ、シフ、ジョンソン、佐伯周子 にはとりわけ感謝する。


 「ヘンシェル+岡原慎也」に出会った1997年は「シューベルト生誕200周年」の記念年だったので、様々な「シューベルト企画物」が聴けた充実した年だった。前年の「Piano Music Japan」の前身の「Daily Classical Music Critique in Tokyo」を立ち上げていた私高本は、多くのシューベルト演奏を聴かせて頂いた。この年に最も印象に残ったのは

  1. ヘンシェル + 岡原慎也「冬の旅」(1997.12.07)


  2. プライ + エンドレス「シューベルティアーデ、全6回、3大歌曲集を含む」(1997.01.24-02.05)



の2つ。「ヘンシェル+岡原慎也の美しき水車屋の娘」は「芸大の授業」に(岡原慎也の好意で)もぐりこんで聴かせて頂いた。(芸大の皆様ごめんなさい!)
 1997年当初の私高本は(今よりも遥かに)無謀で、「美しき水車屋の娘」全曲演奏をピアノで試みることにした。1月から開始して12月7日までに第2曲まで到達していた。第2番までは簡単なんだがなあ(爆
 この調子だと「10年かかる」などと酒を呑んでほざいていたが、難曲が弾けるようになったとは到底思えない。そんな時に「ヘンシェル+岡原慎也」に出会い、プッツンとピアノ演奏は止めた。正解だった。「豊饒な音楽」がより深く楽しめるようになったからだ。


 「プライ+エンドレス」を聴いた時も、「ヘンシェル+岡原慎也」を聴いた時も、素晴らしい演奏であるにも関わらず「何か1枚奥歯にモノが挟まった感触」が残ったのだ > 「美しき水車屋の娘」
 「冬の旅」では、うっすらとしか感じなかったのだが、「美しき水車屋の娘」でははっきり感じた。何が原因だったか? よくわからなかった。今、私高本自身の言葉ではっきり言える。

シューベルト歌曲では「調性」を原調で歌うことが大切だ!


 ほとんど、誰も言わないことだ。「日本ドイツリート協会」の講習会や例会でも聞いたことがないし、フィッシャー=ディースカウの著書でも読んだことも無いし、原典版楽譜の注釈にも書いていない(爆


 プライでもヘンシェルでも感じていたことだが、最新の「フィッシャー=ディースカウのDVD」を聴いて、はっきり「私高本の違和感」が何だか特定できた。

シューベルトが細心を払って作曲した「原調」通りに歌われないと「原曲の最高のパフォーマンスが生まれない」


である。

「美しき水車屋の娘」作品25 は、シェーンシュタイン男爵(=バリトン)の委嘱作品であるにも関わらず(!)、「テノール用 = 高声用」に作曲され、出版された


 シェーンシュタイン男爵用に「低く移調された楽譜」が現存している。最高音=2点A のある第7曲も移調されているので、シェーンシュタイン男爵は 2点Gis 以下しか出せなかったようだ。おそらく 2点G までだろう(爆


 
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ニコライ・ペトロフ(ピアニスト)死去(No.1910)

2011-08-04 16:15:14 | その他
まだ68才だった。若い頃から太っていたので、「血管大丈夫かな?」と思っていたが、ベラルーシ公演旅行中に脳卒中で倒れ、そのまま死去。高血圧だった可能性が高い。


「圧倒的な超絶技巧! が歴代ピアニスト中最高」の可能性が高い = ペトロフ


である。ホロヴィッツ などよりも遥かに上。

リスト「パガニーニ練習曲1838年版」を含む『ニコライ・ペトロフの芸術』3CD


聴いて下さい。リストやムソルグスキーの圧倒的な超絶技巧の冴えを堪能できます。(シューベルトは私高本は体質が合わなかった)
 ご冥福をお祈りします。
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9月10&11日 堺シティオペラ「妖精ヴィッリ&ジャンニ・スキッキ」(No.1909)

2011-08-02 23:40:46 | 演奏会案内
 昨日&一昨日と、大阪に日本ドイツリート協会の催しを聴きに行った。「ゲーテ」についての講演(公演ではないよ!)が主で、演奏は補足のような形式だった。岡原慎也(p)も老田裕子(s)小玉晃(br)も素晴らしい演奏だったが、演奏時間が短かった。「もっと聴きたかった」が偽らざる感想。老田が歌ったヴォルフとシューマンは、シューベルトが同じゲーテの詩に付けた曲ばかり聴いていたので、「同じ詩の曲」と認識したのが、聴いた瞬間だった。あぁ、私高本の「猫頭」は何とかならんものか?


 さて、来月も大阪に行くことにした。

堺シティオペラ「プッチーニ:妖精ヴィッリ&ジャンニ・スキッキ」を両日ともに聴く


ことにした。リンクを貼っておくので、興味ある人は覗いて下さい。名前の通り、大阪府堺市の公演です。聴きに行く理由は、去年の「老田裕子の椿姫」を聴きに行って、「あまりの出来の良さ」にぶっ飛んだ、からである。実は「岡原慎也以外」で名古屋以西に演奏聴きに出かけるのは生まれて初めてだった公演(藁
 間違えないで頂きたいのは

  1. 老田裕子の「ヴィオレッタの出来」も抜群に良かっただけでなく


  2. オペラ公演全体の出来が極めて高い水準だったこと!



にある。実はヴェルディ「椿姫」は大好きな演目なので、随分と聴いた。高い席で聴いたり、安い席で聴いたり(爆

菊池彦典指揮 + 岩田達宗演出 ヴェルディ「椿姫」は、既に「藤原歌劇団」で聴いていたが、それを遥かに上回っていた!


これは、「カルチャーショック」だった。この公演を聴きに行く前から糖尿病管理が悪く、「両眼性複視」が出ていたのだが、暗い舞台を感動の余り凝視したせいか、公演終了直後に南海電鉄に乗った時には、「世界中が2つに見える」状態だった。シューベルト「冬の旅」末期の状況。あの人も糖尿病だったと思うよ(爆


 その後「老田裕子」を聴きに大阪に2度足を運んだ。「堺シティオペラ定期公演」も聴き逃したくない。「藤原歌劇団の椿姫」を越す、って(堺市の人にはピンと来ないかも知れないが)東京の聴衆には、「えっ、マジかよ?!」って感じだろう。(年明けには「糖尿病性両眼複視」は治ったのだが)批評は結局「落としてしまった」ことをここにお詫びします。明日死んでいても医者は誰も不審に思わない状態なので、お許しのほどを!

 9月の健康状態は確約できないが、8月初の状態が続けば良好(なハズ)。

プッチーニ「妖精ヴィッリ」は関西初演!


とのこと。関西の読者でオペラに興味ある人は是非是非聴いてほしい。(関西にブログ読者いるの?)

 1言だけ加えておけば

プッチーニの「完成したオペラ」の最初と最後!


になる。「妖精ヴィッリ」の『高い水準の公演』は、これを聴き逃したら、いつになるかは全くわからない、と正直思う。キャスティングに関しては全くわからない、ので両日聴くことにした。
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