新型コロナウイルスの感染拡大で、社会の人の動きが大きく変わりつつある。日本経済新聞が各種データを分析したところ、繁華街の夜の人出は半減し、オフィス街の昼間人口も2割減った。在宅勤務も急拡大している。企業はもともと東京五輪に向けて働き方改革の推進などを求められていた。感染拡大はその前倒しを迫った形で、業務改革が加速する可能性もある。
繁華街は閑散
4日午後9時。東京・銀座のある飲食店では170の席数に対し客は15人ほどだった。「この数週間で客足が明らかに減った。減り幅が予測できずスタッフ数を抑えることもできない」。店員は困惑の表情だった。
人通りの少ない東京・銀座(4日午後8時半すぎ)
日本経済新聞は米衛星情報会社オービタルインサイトのデータサービスを使い、東京・銀座と大阪・北新地の午前0時の人口を調べた。1月は前年とそれほど変わらなかったが、2月以降は両地区とも大きく前年を下回っていた。いずれも水曜日の今年2月26日と昨年2月27日を比べると銀座は47%減、北新地は46%減だった。
最大の要因は企業が飲み会や接待の自粛に動いていることだ。メガバンク勤務の40代男性は「自分たちから声がけしての業務関連の会食は禁止、誘われた会合も原則断る。私用でも6人以上の会は控えるよう会社から言われた」と話す。
飲食店への打撃は甚大だ。中・高価格帯の登録が多い予約サービス「テーブルチェック」では、通常9%程度のキャンセル率が2月末には20%を超えた。
北新地でクラブを営む女性は「2月は売上が前年同期比7~8割減り、開業から4年で初めて赤字となった。近接する京橋で感染者がでた影響などがありそうだ。例年なら送別会でかき入れ時にもかかわらず、大変厳しい」と語った。
中韓からの入国制限も追い打ちをかけそうだ。銀座のある免税店の男性従業員は「現状でも客数は9割減。今回の措置でついにゼロになるかもしれない」と嘆く。
人が消えたオフィス街
日中の働き方も大きく変化している。
新型コロナを機に在宅勤務を取り入れた電通や資生堂の本社がある東京・汐留地区。KDDIの携帯通信契約者のうち、個人を特定しない前提でデータ分析の対象にする同意を得ている数百万人分の位置情報データを解析してみた。安倍晋三首相が政府の対策本部でテレワークなどを呼び掛けた翌日の2月26日から28日の同地区の日中の勤務者人口は、前年同期より約20%も少なかった。
資生堂が従業員約8000人を対象に原則出社を禁止するなど、徹底した在宅勤務を求めたことが、昼間人口の大幅減としてはっきり表れた。
富士通は同地区に約4500人の社員が勤務する。一部導入済みだったテレワークを今回は全社的に奨励するようにした。以前は週2回、月8回までと定めていたが、新型コロナウイルスへの対応期間中は制限を取り払った。また、テレワークが難しい社員には時差通勤を促した。
実際、午前6時台は前年比9%のプラスだった一方、同8時台は2割以上減り、時差出勤が広がる現状も浮かんだ。同地区勤務で最近テレワークを始めた30代女性は「仕事に支障はない。今から思えば定時出社の意味は何だったのか」と振り返る。
汐留に勤める20代女性は「普段は8時過ぎに駅の改札を出ると通勤者でごった返していて、ぶつからないように立ち止まらないといけないこともある」と話す。だが「2月以降は会社の方向にすんなりと進めるようになった」。反対に、それより早い時間に毎日出勤するという40代男性は「以前よりかえって混雑するようになった」と明かす。感染のリスクを減らすため、満員電車を避ける時差出勤が広がっている現状も浮き彫りになった。
鉄道遅延は大幅改善
1月末から3月上旬までの首都圏のJRと地下鉄の主要路線の遅延記録にも、人の動きの変化が顕著に表れた。
3月5日の通勤時間帯に10分以上の遅延が発生したのは32路線中9路線。期間中最も多かった2月3日の27路線から大きく減った。一斉休校や在宅勤務で、乗降などにかかる時間が抑えられたためとみられる。
金融機関勤務の男性(53)は銀座線と丸ノ内線で通勤する。いつもは「痛勤」でスマートフォンを見るのも難しかったが「最近は全く問題ない」と驚く。
社会変化の芽も
東京五輪期間中の混雑などに対応するため、企業にはもともとテレワークの推進や、都心部の渋滞の緩和といった取り組みが求められていた。想定外の感染拡大はその前倒しを強く迫った形だ。
実際に在宅勤務や時差通勤が広がった結果、その効果を多くの人が実感しつつある。感染終息後も同様の取り組みが継続する可能性もある。
足元の企業業績には大きな打撃となる感染拡大だが、その陰では「コロナ後」を見据えた社会の変化の萌芽(ほうが)が生まれ始めているのかもしれない。
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