国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

日米欧三極による中国包囲網の形成と中国の反撃

2010年10月21日 | 中国
中国政府は尖閣事件以後対日レアアース輸出を停止しているが、10月18日以降欧米向けの輸出も停止されたようである。中国政府は10月20日に輸出停止との報道を否定したが、これは世界貿易機関(WTO)ルール違反との批判を回避するための方便に過ぎない。中国政府の目的は何だろうか? 表向きの目的は、貴重な戦略資源であるレアアースをこれまで安価で大量に輸出していたことを反省し、もっと高価で少量だけ輸出する方針に変更するというものだ。しかし、それならば急に輸出を停止する必要はなく、徐々に供給を絞れば良いだけのことである。かつて世界各国に存在したレアアースの鉱山は最近の中国政府による大量輸出による価格下落に耐えられずに次々と閉山し、埋蔵量では3割強に過ぎない中国が供給量では97%を占める異常な事態となっていた。このような急激な供給量の変動は需要側に大打撃を与えることは必至であり、特にレアアースの備蓄量が日本に比べて少ない欧米諸国のダメージは大きいと思われる。中国政府はこのダメージの大きさを理解した上で敢えて欧米向け輸出を停止しているのだ。そこには明白なメッセージが込められていると思われる。 そのメッセージとは、10月8日に服役中の中国人である劉暁波 (りゅう ぎょうは)氏にノーベル平和賞が与えられたことへの批判及び、尖閣問題で米国が日米安保条約を尖閣諸島に適応すると明言したことへの批判であると思われる。ノーベル平和賞は欧州諸国の総意と考えられ、欧州諸国首脳だけでなくダライラマやオバマ大統領も歓迎している。また、米国は尖閣諸島問題だけでなく南シナ海の南沙諸島領有権問題でも反中国の姿勢を鮮明にしている。事実上、日米欧三極による中国包囲網が形成された状態であり、輸出停止はこの包囲網への抗議の一環と見て間違いないだろう。 レアアースの価格上昇を受けて中国以外の諸国ではいったん閉山した鉱山の再開や新たな鉱山の開発、レアアース使用量を減らす技術の開発が始まっている。しかし、中国が供給の97%を占めているという現状を考えると、短期的には欧米諸国は大きな打撃を被ることは避けられない。特に打撃が大きいのは軍事用途であり、欧米の軍需産業に影響が出ると致命的である。今後は中国が輸出停止をいつまで継続するのかが焦点になるだろう。 . . . 本文を読む
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