この手の形のケロシン(灯油)ストーブは、以前日本ではラジュースと呼ばれました。
というのも、そのころ日本での圧倒的なシェアがあったのが、
RADIUS製のこの手のストーブであったから。
(詳しくは「ラジュース?プリムス?いえオプティマス!」を)
しかし世界的には、この手のストーブは「PRIMUS(プリムス)」と呼ばれております。
それは世界で最初に特許を取り販売したのがプリムス社であったから。
(本来プリムスはブランド名であり、それを所有する会社は「B・Aヨート社」から始まり、
最終的にオプティマス社となるのですが、ここでは便宜上プリムス社と表記します。)
時代でいうと、1892年(明治25年)のこと。
当時の火器は主に石炭木炭が燃料であったから、
そこに煙が出ず、点火も消火も迅速で安全なこのストーブはまさに画期的!
本国スウェーデンのあるヨーロッパのみならず、中東、アメリカ、
と文字通り世界中で爆発的にヒットしました。
(ただ日本だけは少し普及が遅れていたので、
後年PRIMUS社から分離したRADIUS社がそこに目をつけ積極的に営業をかけ、
そういうわけで、日本では「ラジュース」という呼び名が定着したのでした。)
ですので初期の製品のタンク側面には、このように数か国語で会社の所在地が刻まれております。
日本語でもちゃんと、
「瑞典(スエーデン)國 ストックホーム(ストックホルム)市 ビーエーヨート株式会社 正眞(本物)」
と、縦書きで!
(その他の国の言葉もあるので、詳しくは「インターナショナル」参照)
とはいえ、当初は家庭での使用が主目的であったため、
販売されたモデルも据え置きタイプの大きめのもので、
ゴトクもタンクに固定されたこのようなものでした。
PRIMUS №1(1926年製)
*とても良い色に変色しているので、只今レストアするのをためらっております。
そうして世界中に普及したプリムスタイプの灯油ストーブですが、
そうなると今度はそれらを屋外に持ち出して使用したいという家kんが多く出てきました。
そう、使用目的が家庭用からレジャー用(主に自転車ツーリング用)へと推移し始めたのです。
そうなると大型の据え置きタイプは何かと不便なのですが、
中にはこのように自転車を改造して積載可能にした方々もおられた様子。
搭載されている二つのストーブは大型の2パイント(1136ml)のタンクです。
なお、この自転車のオーナーさん(全英サイクル協会会長)に関する話はとても面白いので、
お時間があればぜひこちらを。
ですがさすがに、皆が皆このようなまねができるはずもないので、
そういう需要を受けたメーカー側は、より携行性を高めた製品を開発。
つまり、容易に分解可能でケースに収納でき、かつ小型化されたモデルが登場したのです。
その代表的なモデルが、以前ご紹介した№96と今回ご紹介する№210なのでありますが、
実はこれのモデルには前身モデルと言われる「ベビープリムス」(および№230)がありまして、
それらが初めて資料に出てくるのが、1905年から1906年頃。
その後いくつかの改良を加えられたのち1916年に№210としてデビューとなったのです。
(なお№96のデビューはそれより一年早い1915年)
そしてそれらは、またもや世界中で人気を博すこととなり、
タンク容量を従来の2パイントから1/2の1パイント(586ml)にした№210と、
同じく1/4(293ml)にした№96は、その後の小型ストーブの標準サイズになり、
世界各国の様々な会社から様々な類似品やコピー製品が製造販売されることとなったのです。
(オプティマス00、ラディウス21、バーモス21、ユーベル21 などなど…)
そういうわけで、特にサイクリング人気の高かったヨーロッパでは
このような面白い210もよく見受けられたようです。
ただいまこういう感じで電気ランプとして活躍中の210(1930年製)
その足元をよく見ると…
ワンタッチ着脱可能なホルダーが!
これはどうも純正部品ではないようですが、
フレームに着脱が楽にできるのでかなりポピュラーであった様子。
このようなアフターパーツが市場に出回るほどまでに、
ツーリングでの使用が人気だったようです。
そうそう、前述の日本で定着した「ラジュース」という呼び名が、
主に小型のポータブルタイプのことを指すのが多いことも、
実は日本での普及が遅れたため、主目的がレジャー用となっていたためなのです。
こちらはサイクリングではなく主に登山利用が主流でしたが。
さて、前置きが長くなりましたが、最初の画像の古びた210。
よく見ればそれもそのはず1929年製でありました。
ということは昭和4年なので、なんと、うちの店の創業と同じで今年で91歳だ!
デビュー後13年目の製品で初期のものと言えますので、やはりかなりの年代物。
ですので丁寧にレストア作業に入りましたが、
幸い程度がよく割と簡単に復活してくれました。
(そのざっとした内容は後ほどの動画でご覧ください。)
というわけで、
復活!
黒く塗られたケースの下地がうっすら見えるのですが、
この黒塗りもなかなか雰囲気があるので、これはこれでよいな~♪
ちなみに、PRIMUS社では、ケース付きの製品は、品番の後ろに「L」をつけることtなっているので、
これは正式には「№210 L」となります。
(ということは、ストーブ単体の販売もあったんですね。)
てなわけで、早速組み上げてみましたらば…
美しい~!
実はこのモデルはデビューの1916年から1980年代半ばまで、
おおよそ1世紀弱の長きにわたり生産され続けてはいたのですが、
タンクの形状などが微妙に変化してきており、それらは主にコストカットから来る変化であるため、
初期モデルだけがこういうエッジの効いたソリッド感を持つのです。
そういうわけで、組み上げたらもう火を入れるしかないですよね?
てなわけでいそいそと灯油をタンクに注いだのち、
焦る気持ちを押さえつつ、しっかりキッチリプレヒート。
そして、そこからの…
ファイヤ~!
ああ楽しい!
ああ嬉しい!
ひと作業終えたのちに見るこの炎!
その美しさとカッコ良さは本当に格別!
調理せずともこうして眺めるだけでもう大満足!
こうなるともはや主客転倒であるのは重々承知なのですが、
それでもやはり楽しいのだから仕方がない!
うんうんうん…
これだから、やっぱストーブいじりはやめられんなと、
ニヤニヤしながら91年ものの吐く炎に見とれる私なのでありました。
(=^^=)ゞ
**動画**
プリムス2101929年製)のレストア ~restore primus 210 made in 1929~
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