XVII
イジドール・フォルチュナ氏は一旦計画を心に決めたら、ぐずぐず引き延ばすような空想家ではなかった。これをやる、と自分に言いきかせたときには可能な限り迅速に事にかかった。次の日まで待たず、その夜のうちに。
ド・シャルース伯爵の何百万という遺産の相続人であるマダム・ダルジュレの息子を見つけ出すと決めると、彼はこの困難な仕事の補佐に適した部下を選び、早く会わなくてはと気が急いた。というわけで彼が帰宅後、一番に会計係に尋ねたのはヴィクール・シュパンの住所だった。
「フォーブール・サンドニですよ」と会計係は答えた。「番地は……」
「よろしい」とフォルチュナ氏は答えた。「夕食を終えたらすぐにそこに行く」
その言葉通り、コーヒーを飲み終えるや否や彼はドードラン夫人を呼び、外套を用意してくれと頼み、三十分後にはシュパンの家に着いていた。それは巨大なアパート群の一つで、ちょっとした郡の全住民がひしめき合って暮らせるほどの大きさだった。中庭が三つか四つ、建物は五、六棟あり、アルファベットの数ほど階段があった。管理人は住人の名前などは三カ月ごとの家賃の取り立て日か、新年の一日以外は覚えていなかった。が、フォルチュナ氏はツキに恵まれていたのか、xx号の管理人はシュパンの事を覚えていたばかりか、彼をよく知っており、ちょっとしたサービスまでしてくれた。つまり、シュパンの部屋までどう行けばいいかを教えてくれたのである。簡単ですよ、最初の中庭を横切って左のD階段を上るんです、七階まで行ったら正面にある階段を上り、云々。
この親切な指示により、フォルチュナ氏は五回ほどしか迷わずに済み、やがて小さな名刺が貼り付けてあるドアに辿り着いた。それには『ヴィクトール・シュパン、よろず交渉請負人』とあった。
ドアに沿って一本の紐がぶら下がり、先端に野兎の脚(魔除けとして用いられた)がついていた。フォルチュナ氏がそれを引っ張ると呼び鈴が鳴り、「お入り!」という声が聞こえた。彼は中に入った。その部屋は小さく、家具は質素だったが、隅々まで清潔で、そのこと自体がひとつの贅沢であった。タイル張りの床は鏡のように光っており、ワックスで磨かれていることが一目で分かった。家具もピカピカで、ベッドカバーやキャリコのカーテンは雪のように白かった。目に付いたのは溢れんばかりの細々した装飾品だった。石膏の小像、置時計の両側に置かれたちょっとした室内装飾品、殆どまぁまぁの版画が五、六枚、等。フォルチュナ氏が入ったとき、ヴィクトール・シュパンは上着を脱いだシャツ姿になり、小さなテーブルに向かい、安物のランプの光のもとで、一生懸命のあまり頬を真っ赤にしながら見事な書体を真似して書き写していた……フランス語の辞書を。12.23