エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XVIII-11

2022-02-16 09:28:52 | 地獄の生活

これらの青年たちと同じボックス席には二人の派手な化粧をした女性が同席していた。彼女たちは黄色い髪を猛烈な逆毛にしており、はしゃぎ、可能な限り動き回り、意味もなくにやにや笑ったり、金切り声を上げたりしていた。その唯一の目的は劇場中の注目を浴びすべてのオペラグラスを自分たちに向けさせることであった。そしてその術策は功を奏していた。

この他愛ない顰蹙を買う行為はド・コラルト氏の気には入らないようで、彼は出来るだけボックスの奥の陰の部分引っ込み、身を隠そうとしていた。しかしウィルキー氏の方は見るからに有頂天で、彼のボックスに向けられた注目を誇らしく思っている様子だった。彼は出来るだけ人々の視線を浴びようと前方に寄り掛かり、まるでクジャクが羽根を広げるように自分の肢体を伸ばし、見せびらかしていた。

 「それにしても」とシュパンは思っていた。「世の中にはアホな人間がいるもんだ。神様が知恵を与え損なったんだな……」

 これまでにも増してシュパンはウィルキーがマダム・リア・ダルジュレに面と向かって浴びせた侮辱を許せない気持ちになった。おそらくは彼の母親なのに……。

 演じられていた出し物については、シュパンはものの二十語も聴いていなかった。疲労の頂点に達していた彼はたちまち眠ってしまったからである。幕間になると騒音で目が覚めたが、それも束の間のことで、完全に目を覚ましたのは芝居が終わったときであった。

 彼の『お客さんたち』はまだボックス席に居た。あのウィルキーでさえ、立って同席の婦人たちに礼儀正しく肩掛けやコートを着せかけていた。

 「いよいよ家に帰るんだな」とシュパンは思った。

 どっこい、そうではなかった。劇場正面を飾る列柱回廊でウィルキーとド・コラルトは数人の青年たちに出会い、彼らは連れだって近くのカフェに入っていった。黄色い髪の女性たちも一緒だった。

 「まぁったく」とシュパンは不平の呻り声を上げた。「しょっちゅう喉が乾くように喉に塩でも擦りこんでるんじゃないのか、この連中ときたら! それとも、これが彼らの普通の生活なんだろうか?」

 しかし彼自身、夕食を大急ぎで取ったので喉が渇いていた。長いこと思案した挙句、節約よりも乾きの要求の方が勝利を収め、彼は外のテーブルの一つに座り、ビールの小ジョッキ(4分の1リットル)を注文し、満足の溜め息と共に唇を湿らせた。

 ちびちびと飲んでいたにも拘わらず、彼のジョッキが空になって相当時間が経っていた。それなのにウィルキーと彼の友人たちはずっと飲み続け、カフェから動こうとしなかった。2.16

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