二人が帰られた後、私はド・シャルース伯爵に叱られました。私のセンチメンタルな人生観は社交場での振る舞いにそぐわない、人生や世の中や結婚、義務についての私の考えは孤児院の影響を受けている、と。私が反駁しようとすると彼は私を遮り、改まった口調でド・ヴァロルセイ侯爵を褒め称え始めました。彼は素晴らしい人間であり、家柄も立派で、抵当に入っていない広大な土地を持ち、才気煥発でハンサムな青年で……特権階級の一人であり若い娘がみな憧れる結婚相手であると。そのとき私の目から鱗が落ちました。ド・ヴァロルセイ侯爵こそが大勢の中からド・シャルース伯爵が選んだ私の結婚相手だったのだと分かったのです。それが伯爵の計画だったのだと納得しました。大衆を惹きつける広告を掲げるようなやり方が……。伯爵が私のことを俗悪趣味の人間だと思っていたことに私は憤慨しました。ヴォロルセイ侯爵が描いてみせた愚かな歓楽の生活、下品な魔術幻灯に惑わされるような女だと思われていたとは。侯爵のことは最初から気に入りませんでしたが、ド・シャルース伯爵の財産の前に跪く彼を見た今となっては、軽蔑しかありませんでした。あの薄っぺらな弁舌に隠された彼の破廉恥な取引には疑いの余地がありませんでしたから。彼は私に自由を与えると言いましたが、それは私の持参金と引き換えに、なのです。それぐらいは許されると人は言うかもしれません。ある一定の額なら容認するというのであれば、その二倍、三倍の額であったなら一体どうなりますか? というのが私の考えたことでした。それでもこれは自分の思い違いかもしれないではないか、と自分の心に問いかけました。でも、その後引き続き起きたことが私の疑いに確証を与えました。
その翌々日、ド・ヴァロルセイ氏がやって来ました。そして伯爵と部屋に閉じこもり二時間以上も相談をしていました。侯爵が帰ってからド・シャルース伯爵の部屋に入ると、机の上に彼の所有地の不動産登記証書がすべて積んで置いてあるのが見えました。結婚すればどれくらいの財産を手にすることになるか彼が知りたがったので、見せなくてはならなかったのでしょう。次の週にまた話し合いです。このときは公証人が立ち会いました。ヴァロルセイ氏が法的な保証を得たのでしょう。
最終的な疑いはマダム・レオンからもたらされました。彼女はドア越しに聞き耳を立てるという習慣のおかげで、いつも非常に事情に通じていたのです
『貴女様は結婚なさるのですよ』と彼女が言いました。『私、この耳で聞きましたから』5.19
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