私は自分に課した掟を破ったのです、正直という。そのために私は厳しく罰せられることになります。私はこのことをド・シャルース伯爵に隠していました……言えなかったのです。自分の秘密が心苦しかったので、すべてを打ち明けようと何度も決心しました。でも来週、また来週と日延べを繰り返していました……。毎晩『明日こそ……』と自分に言い聞かせるのですが、次の日になると『もう一日だけ待ってみるわ……』となるのです。それというのも伯爵の貴族への偏愛をよく知っていましたし、私にどんな立派な結婚をさせたいと考えているかも分かっていましたから。伯爵は私の将来を決める人だったのです。一方パスカルはいつも私にこう繰り返していました。
『お願いだから、まだ何も話さないで……。僕の地位は徐々に上がって来ているのだから……。結果を出すにはただ一度のチャンスがあればいい。いつの日か僕は有名になってみせる。そのときになったら君の庇護者に会いに行くよ。だから、お願いだからもう少し待って!』と。私にはパスカルのこの懇願が理解できました。ド・シャルース伯爵の巨万の富が彼を威圧し、財産目当てだと思われるのではないかと怖れていることが私にはよく分かったのです。なので私は待ちました。幸福のさなかにあっても、これまでずっと不幸であった者が密かに持たずにいられないあの不安とともに。私は口をつぐんでいましたが、こんな綺麗な夢は自分のためのものである筈がないという猜疑心が私から離れませんでした。今に消え去るに違いないと……。そして、すぐにそうなりました。
ある朝、私は一台の馬車が家の門の前で停まる音を聞きました。そのすぐ後、ド・シャルース伯爵が姿を現しましたが、普段よりよそよそしく心配そうな様子でした。
「マルグリット、お前をド・シャルース邸に迎える準備が出来たよ。さぁおいで!」と彼は言いました。
彼は儀式ばって片手を差し出し、私は彼に従いました。パスカルに一言も知らせを残すことも出来ずに。というのは、このことはマダム・レオンにも隠していたからです。
ほんの僅かな希望が私を支えていました。ド・シャルース伯爵の用心深さが少しばかりこの闇を晴らしてくれるのでないか、伯爵がいつも怖れていた危険がどういうものか、私に少しは分かるようになるのではないかと思っていたのです。でも、そうはなりませんでした。彼は少なくとも表面的には非常に頑固に、使用人をすべて新しく雇い入れること、そして孤児院の助言に基づき未成年者解放(親権・後見からの解放という意味で、未成年者に成年者と同様の民事上の行為能力を付与する行為)を私に適用させることに拘っていました……」
治安判事は驚きの身振りをした。
「なんと!……貴女は未成年者解放を受けられたのか」と彼は言った。5.11
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