エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XIV-7

2025-02-19 11:09:01 | 地獄の生活
ウィルキー氏はある種の気詰まりをはっきりと感じていた。彼は自分が貴族らしい振る舞いをしなければならないと思っていたことを忘れ、もはやド・コラルト氏のこともド・ヴァロルセイ侯爵のことも頭から消えていた。マダム・ダルジュレが言葉を切ると、彼は座っていた姿勢からまっすぐ立ち上がり、少し茫然としながら言った。
「驚いたなぁ、いや、驚きました!」
しかしマダム・ダルジュレは先を続けていた。
「このように私はとんでもない、取り返しのつかない過ちを犯してしまったのです……。あなたには全てを包み隠さず、無益な正当化などせずに話しています。お聞きなさい、私の罰がどのようなものだったか……。
ル・アーブルに到着した次の日、アルチュール・ゴルドンは大変な失態を犯してしまったと私に打ち明けました。あまりに逃亡を急いだため、彼がパリで所有しているお金をかき集めてくる時間がなかった、と。それに彼が頼りにしていた街の金融業者にも断られてしまったので、ニューヨークまでの渡航費用がない、と言うのです。
この苦境に私はどうしていいか分かりませんでした。私の受けた教育は、私のような境遇の娘は誰でもそうだったけれど、馬鹿げたものでした。世間のことは何も知らず、生活することや、そのための苦労、貧乏がどんなに厳しく呵責のないものか、に全く無知でした。世の中に金持ちと貧乏人がいることを知らないわけではなかったし、お金は必要なもので、お金のない者はそれを手に入れるためにどんな卑しいことでもするということも知っていました……。でもそういったことはただ漠然と頭にあっただけで、お金をどれほど持っているか、が人生の重要な問題を左右するほどのものだとは思っていなかったのです。
そんな訳なので、アルチュール・ゴルドンのこの告白の後に続いてどんな要求がなされるのか、予想することも出来ませんでした。で、ついにアルチュールは明け透けに、いくらかお金を持っていないか、少なくとも何かお金に替えられる宝石などを持ってきていないか、と私に尋ねたのです。
私は身に着けていたすべてのものを彼に差し出しました。数ルイのお金が入っていたバッグ、指輪、それに綺麗なダイヤモンドの十字架の付いた首飾りを……。
たったそれだけだったので、忌々しさのあまり彼は酷い言葉を投げつけました。私は震えあがったのだけれど、彼の悪辣さのすべてを読み取ったのはずっと後になってからでした。
『恋人に会いに行く女というものは』と彼は怒鳴りました。『全財産を常に身に着けているべきだ……何があるか分からないだろう!』
お金がないため、私たちはル・アーブルで釘付け状態になりました。アルチュール・ゴルドンは街を歩き回っているとき港で彼の昔の仲間の一人に出くわしたのです。それは三本マストのアメリカ船の船長をしている人でした。アルチュールが苦境を話すと、その人は親切にも週末に出航する予定のその船に私たちをただで乗せてくれると言ってくれたのです。2.19

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