「おお、土壇場で俺は助かるのか」と彼は思っていた。「ここをうまくやれば……」
しかし彼の顔は殆ど無表情で、内心では喜びが彼を圧倒していたのに、それをなんとか隠した。出来る限りむっつりした態度を取り続け、しなをつくり、もったいをつけていた……。あまりにも素早く応じてしまえば、秘密を知られ、この男爵の使いの男の意のままに操られてしまうのではないか、と彼は恐れた。
「あなたのお申し出をお受けしようと思います、モーメジャンさん」と彼は言った。「もしも、そこに不都合な点がなければ……」
「たとえばどのような?」
「男爵が私にひどい仕打ちをしたとしても、その尻ぬぐいを彼の代理人にさせるのは、道に叶ったことでしょうかね?男爵に雇われている人間に……」
パスカルは昂然として相手の言葉を遮った。
「お言葉ですが、私は誰にも雇われておりません。私の依頼人は他にも三十人、四十人とおられますが、トリゴー様はそのうちのお一人に過ぎません。なにか厄介な問題に発展する可能性のあるデリケートな交渉事があると、私に依頼なさいますので、私は出来る限りのことをいたします。そこで氏は私に料金を支払い、それで我々の関係はおしまいです……」
「ああ、そういうことでしたか……」
公爵がパスカルをじろじろと上から下まで見る様子からは、彼の心になんらかの疑いが浮かんでいるかのようであったが、実際はそうではなかった。確かに奇妙で突飛ではあるが、全くあり得ないわけではない一つの考えが頭をよぎったのである。
「そうか!このモーメジャンが仲介となって俺に金を貸してくれる人間というのは、ひょっとして男爵自身ではないのか? あの男爵め、俺に親切がましくしておいて、その実、面と向かってはとても要求できないような高利を俺から毟り取ろう、と目論んだのではあるまいか?」
あり得ない話ではない! そのような前例はあるではないか! 誰でも知っている話としてこのようなものがある。かの厳格な仕事ぶりで知られる金融業者のN兄弟は友人のためだからといって便宜を図ることは決してしない。自分たちの父親には常に敬意を持って接しているが、仮にその父親が彼らに百エキュを一カ月貸してくれ、と頼んだとしても、彼らは他の人にするのと同じ返答をするであろう。『現在手元不如意ですので、代わりに我々の代理人B氏と話をしてください』と。このB氏というのは身代わりの藁人形として実に愛想よく次のように言う。『お父様であらせられるN様が十分な担保を御提示くださいますならば、他の場合と同じように十二から十四パーセントの仲介料と《ほんの気持ち程度の手数料》でご子息からお金をお借りいたします』と。
こういったことを頭の中で反芻した侯爵は、少なからず普段の落ち着きを取り戻した。
「では、そういうことに」と、ディマンシュ氏をあしらうドン・ジュアン(モリエールの「ドン・ジュアン」で不信心な放蕩者の主人公ドン・ジュアンは商人のディマンシュ氏から金を借りるが、返済を求められても応じない)のような軽い口調で彼は言った。「あなたのお申し出を喜んでお受けいたします……但し……」
「ああ、但し、が続くのですか!」
「いつでも、但し、はつきものですよ……あなたに前もって断っておかねばなりません。この二万五千フランを二か月以内に返済するのは難しい、ということです……」
二か月というのが、目的を達するのに必要と彼が見積もった時間であった。
「問題はありません。それよりもっと遅い期限でも大丈夫でございます」9.25
しかし彼の顔は殆ど無表情で、内心では喜びが彼を圧倒していたのに、それをなんとか隠した。出来る限りむっつりした態度を取り続け、しなをつくり、もったいをつけていた……。あまりにも素早く応じてしまえば、秘密を知られ、この男爵の使いの男の意のままに操られてしまうのではないか、と彼は恐れた。
「あなたのお申し出をお受けしようと思います、モーメジャンさん」と彼は言った。「もしも、そこに不都合な点がなければ……」
「たとえばどのような?」
「男爵が私にひどい仕打ちをしたとしても、その尻ぬぐいを彼の代理人にさせるのは、道に叶ったことでしょうかね?男爵に雇われている人間に……」
パスカルは昂然として相手の言葉を遮った。
「お言葉ですが、私は誰にも雇われておりません。私の依頼人は他にも三十人、四十人とおられますが、トリゴー様はそのうちのお一人に過ぎません。なにか厄介な問題に発展する可能性のあるデリケートな交渉事があると、私に依頼なさいますので、私は出来る限りのことをいたします。そこで氏は私に料金を支払い、それで我々の関係はおしまいです……」
「ああ、そういうことでしたか……」
公爵がパスカルをじろじろと上から下まで見る様子からは、彼の心になんらかの疑いが浮かんでいるかのようであったが、実際はそうではなかった。確かに奇妙で突飛ではあるが、全くあり得ないわけではない一つの考えが頭をよぎったのである。
「そうか!このモーメジャンが仲介となって俺に金を貸してくれる人間というのは、ひょっとして男爵自身ではないのか? あの男爵め、俺に親切がましくしておいて、その実、面と向かってはとても要求できないような高利を俺から毟り取ろう、と目論んだのではあるまいか?」
あり得ない話ではない! そのような前例はあるではないか! 誰でも知っている話としてこのようなものがある。かの厳格な仕事ぶりで知られる金融業者のN兄弟は友人のためだからといって便宜を図ることは決してしない。自分たちの父親には常に敬意を持って接しているが、仮にその父親が彼らに百エキュを一カ月貸してくれ、と頼んだとしても、彼らは他の人にするのと同じ返答をするであろう。『現在手元不如意ですので、代わりに我々の代理人B氏と話をしてください』と。このB氏というのは身代わりの藁人形として実に愛想よく次のように言う。『お父様であらせられるN様が十分な担保を御提示くださいますならば、他の場合と同じように十二から十四パーセントの仲介料と《ほんの気持ち程度の手数料》でご子息からお金をお借りいたします』と。
こういったことを頭の中で反芻した侯爵は、少なからず普段の落ち着きを取り戻した。
「では、そういうことに」と、ディマンシュ氏をあしらうドン・ジュアン(モリエールの「ドン・ジュアン」で不信心な放蕩者の主人公ドン・ジュアンは商人のディマンシュ氏から金を借りるが、返済を求められても応じない)のような軽い口調で彼は言った。「あなたのお申し出を喜んでお受けいたします……但し……」
「ああ、但し、が続くのですか!」
「いつでも、但し、はつきものですよ……あなたに前もって断っておかねばなりません。この二万五千フランを二か月以内に返済するのは難しい、ということです……」
二か月というのが、目的を達するのに必要と彼が見積もった時間であった。
「問題はありません。それよりもっと遅い期限でも大丈夫でございます」9.25
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