「ああ、頼りましたとも!何度も……」
「それでしたら……」
「最初に行ったときは、伯爵は会ってくださって、あたしの手に千フラン札を五枚握らせてくださいました」
フォルチュナ氏は、両手を高々と掲げた。
「五千フラン!」と彼は果てしない賛嘆の調子で繰り返した。「その伯爵というのは、よっぽどのお金持ちなんですな!」
「そりゃもう!あんまりお金がありすぎて、自分がどれくらい金持ちか分からないぐらいなんですよ。パリ中に一体何軒の家を持っているんだか。それ以外に、あらゆるところに城を持っているし、村を丸々いくつか、それに森も。それからシャベルを使わなくちゃならないほどの黄金だって持ってるんです」
自称執達吏の見習いは、目が眩んだかのように目を閉じた。
「あたしが二度目に伯爵を訪れたときは」とヴァントラッソン夫人は言葉を継いだ。「伯爵にお会いすることは出来ませんでしたけど、あたしに千フランを届けてくださいました。三度目と四度目は、戸口で二十フランを渡され、伯爵は旅行中だとのことでした……。で、あたしは、これでもう終わりだな、と見切りをつけました。それに、召使が全員入れ代わってたんですよ。なんでも、ある朝突然、理由は誰にも分からないけど、シャルース伯爵は屋敷中の人員整理をした、ってんですよ。門番に至るまで暇を出し、家政婦も取り換えたんですよ」
「奥方に助けを求められるとか、しても良いんじゃありませんか?」
「シャルース伯爵には奥方がいらっしゃらないんで。一度も結婚なすったことがないんですよ」
ヴァントラッソン夫人は、相手の口調から判断して彼が同情心に駆られ、なんとかして彼女のために金策を考えようとしてくれているのだと思ったことであろう。
「私でしたら」と彼は言った。「自分の窮状をご家族か、血縁関係の方に訴えようと考えるでしょう……」
「シャルース伯爵には親類縁者がいらっしゃらないんですよ」
「そんな、まさか!」
「言っても詮無いことですが、そうなんですよ。あたしが奉公していた十年間、あの方が仰るのを十回以上は聞きました。ご自分は一族の最後の生き残りで、ひとりぼっちだと……。それに、あの方があれほどお金持ちなのはその所為だなんて言う人たちもおりますよ」
こうなると、話に引き込まれているというフォルチュナ氏の態度は最早見せかけではなくなった。彼はいよいよここに来た真の目的である質問に取り掛かった。
「ご家族がいらっしゃらない……」彼は呟いた。「ではシャルース伯爵が亡くなられたとしたら、財産を相続するのは一体誰なんです?」
ヴァントラッソン夫人は、知るものか、という身振りをした。
「さあね」彼女は答えた。「すべて政府に行くんでしょう、きっと、少なくとも……ああ、でも、そうはなりませんわ!」8.15
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