エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-XIII-11

2024-12-30 11:00:08 | 地獄の生活
「しかし、こう考えてよろしいのですね、貴方がこの青年を助けてくださる、と?」
ド・ヴァロルセイ侯爵はしばらく瞑想にふけっていたが、その後ウィルキー氏に向かって言った。
「ええ、よろしいでしょう、貴方のお力になろうと思います……まず第一に、貴方の言い分に理があると思うからです。第二に、貴方がド・コラルト氏の友人だからです……ですが、私が協力するに当たっては一つ条件があります。それは、私の忠告に絶対的に従っていただくということで……」
若いウィルキー氏は片手を差し出し、努力をしてなんとかこう答えた。
「ど、どんなことであろうと貴方の仰ることに従います! 誓って! このとおりです……」
「お分かりのことと思いますがね」と侯爵は言葉を続けた。「私が介入するからには、事は成功させねばなりません。世間の目は私に注がれていますし、私には守るべき威信というものがある。私が貴方に与えようとしているのは大きな信頼の印です。いいですか、私が自分の社会的影響力を利用して貴方の後ろ盾になれば、私は言わば貴方の代父になるということです。そういった大きな責任を引き受けるわけですから、私が全面的な指揮権を持っているのでなければお引き受けすることは出来ません……」
「もちろん、その……」
「ということであれば、我々は今すぐ本日にも戦いを起こさねばなりません。大事なのは、貴方の父上の機先を制することです。貴方の母上が警告なさったという、その恐るべき男の」
「ああ、その通りですとも!」
「それでは私は早速正装をしてド・シャルース伯爵邸に赴くことにしましょう。あちらではどういう状況になっているか、知るためです。貴方はマダム・ダルジュレのもとへと急いでください。そして丁重に、だが断固たる態度で、貴方の権利を請求するのに必要な書類を渡して下さるよう、マダムにお願いするのです。もし彼女が同意してくれれば、万々歳! もし彼女が拒否すれば、法律の専門家に取るべき処置を尋ねに行くのです。いずれにせよ、ここで四時に落ち合いましょう」
しかし、ウィルキー氏にとってマダム・ダルジュレに再び会いに行くという考えは嬉しいものではなかった。
「そうですね……僕は手を渡しても全然構わないんですけど……。誰か他の者を代理に行かせることは出来ないもんでしょうか?」
ド・コラルト氏は幸いにもハッパの掛け方を知っていた。
「それじゃ君は怖いのかい?」
怖い? サイコロの角のようにきちっとして動じない自分のような男が怖いだと!
「まさか!そんなことはあり得ません!」
ウィルキー氏が帽子を目深にぐいっと被り、ドアをバタンと閉めて出て行く様子に彼の態度がよく表れていた。
「なんたるバカ!」とド・コラルト氏は呟いた。「しかもパリにはあれにそっくりな馬鹿が一万人はいるんですからね!」
ド・ヴァロルセイ侯爵は重々しく首を振った。12.30
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