計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

「10年に一度」の「最強寒波」

2023年01月30日 | 気象情報の現場から
 2023年1月下旬には非常に強い寒気が南下しました。この寒気を形容するために「10年に1度」や「最強寒波」というキーワードが多用されたようです。そこで、上空1500m付近の寒気について高層気象観測のデータを基に調べてみました。

 具体的には、高層気象観測(1991~2020年・09時と21時)を基に、輪島と秋田における「気温のヒストグラム(850hPa面・1月)」を作成しました(階級は3℃毎に設定しています)。その上で、今年(2023年)の「1月25日09時」の値を例に、ヒストグラム上の対応する階級を照合してみました。


 輪島と秋田における「2023年1月25日09時」の値は、いずれもヒストグラムの中でも最も左側(最も気温の低い階級)に対応していました。平年の期間(1991~2020年)の中でも「トップクラスの低温」ということであり、あらためて今回の寒気が顕著だったことが実感できます。

 ここで、蛇足ですが(受験ではお馴染みの)「偏差値」という概念を用いてみましょう。世間ではランキングを表す際に「○○偏差値」というワードを用いることがあります。そこで、上空の寒気の度合いを表す「偏差値」のようなものを考えてみます。

 N個の観測値からなる母集団について「平均値:m、標準偏差:σ」である場合、ある観測値xの「偏差値SS」は

 SS = 50 + 10×(x-m)/σ

 で表されます。 一般的にSSの値は「25~75」の範囲におさまると言われています。

 ここで、気温が低くなるほど偏差値が高くなるように修正すると

 SS = 50 + (-10)×(x-m)/σ

 となります。

秋田の場合は、
「x=-19.1,m=-9.6,σ=3.8」を適用して「SS=75.0

輪島の場合は、
「x=-16.7,m=-7.0,σ=3.8」を適用して「SS=75.5

 ここで、上記の秋田・輪島のSSは厳密に言えば「正確な偏差値」ではありません。なぜならば「xが母集団に含まれていない」からです。本来の偏差値は評価対象(x)の「母集団内における相対的な位置」を表す指標です。

 しかし、「平年」の期間(1991~2020年)を基準に評価した場合、偏差値75~76に「相当するレベル」とは言えるでしょう。少なくとも(漠然とした)「最強寒波」や「10年に一度の寒波」と言うよりも「インパクト」は伝わりそうな気がします。
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冬の中休み

2023年01月17日 | 気象情報の現場から
 2023年01月半ばの特徴をラフに描いてみました。この時期は偏西風の蛇行が大きく、日本付近はリッジ側に入りました。

 このため、一時的に気温が上がり、春のような陽気さえ感じられました。「梅雨(つゆ)の中休み」という言葉がありますが、この時期はさながら「冬(ふゆ)の中休み」と言った所でしょうか。

 しかし、この後は偏西風波動の位相が東にシフトすることで、強い寒気の南下も予想されます。気象情報に留意して、大雪などへの備えや体調管理にも注意しましょう。

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2022年12月の降雪傾向を振り返る

2023年01月05日 | 気象情報の現場から
 謹んで新春のお慶びを申し上げます 

 新春早々、山形県・新潟県の昨年(2022年)12月の積算降雪量を平年値(1991~2020年)と比較しました。

 山形県は昨年・平年共に朝日連峰で極大域となりましたが、極大域における昨年の値は平年値より1m近く増えています。12月18日~20日および12月23日の大雪の影響がうかがえます。



 また、新潟県の平年は山側ほど降雪量は増加しますが、昨年は中越北部~県央の降雪が顕著でした。特に魚沼付近では昨年の値が平年値より1m近く超過しました。こちらも12月18日~20日の大雪の影響がうかがえます。



 昨年(2022年)12月中旬は、北極付近に蓄積された寒気が中緯度地方に放出される「負の北極振動」の形となりました。さらに、ヨーロッパから日本付近にかけて偏西風が「谷ー峰ー谷」の波列となる「正のEUパターン」が加わり、日本付近では非常に強い寒気が南下しました。



(2023.01.05追記)
 また、輪島・秋田の高層気象観測を基に「850hPa面の風配図(12月)」を作成し「平年(1991~2020年)」と「昨年(2022年)」を比較しました。秋田では平年と昨年で同様の傾向を示した一方、輪島の昨年は平年に比べ西南西の風向が卓越しました。昨年12月の積算降雪量の分布にも両者の違いが現れたと考えられます。

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