計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

エネルギーと質量の等価性

2023年08月31日 | 物理学の基礎
 前回の記事では「ローレンツ変換」を導入しました。今回はその続編として「エネルギーと質量の等価性」を導いてみます。

 ここでも、前回と同様に2つの慣性系としてK系とK'系を導入し、それぞれに観測者A、Bが存在すると考えます。また、K系は静止する一方、K'系は(K系に対して)一定の速度vで運動する状況を想定しています。


【等速運動する慣性系における物体の衝突】

 今回は、等速運動する慣性系(K'系)の中で2つの物体を衝突させてみます。この2つの物体は同じ質量を持っており、互いに同じ速さ(向きは逆向き)で等速運動して衝突に至ります。



 この場合、K'系の観測者BとK系の観測者Aでは、現象の見え方(認識)が異なります。まず、観測者Bから見ると「同じ質量m'の物体が、同じ速さu'で逆向きに運動して正面衝突し、衝突直後は静止状態に至る」と認識します。

 一方、観測者Aから見ると「物体1と2は互いに同じ向きに、異なる速さu1,u2で等速運動しており(u1>u2)、物体1が物体2に追いつくように衝突し、衝突直後は(慣性系K'と同じ)速度vで運動する」と認識します。

 また、観測者Aから見ると、ローレンツ変換によってK'系内の時間と空間が変化しているので、2つの物体の質量m1,m2についても「互いに等しい」と認識できるとは限りません。



 そこで、K系の観測者Aの視点で、K'系内の2物体の運動量保存則、および各物体の速度のローレンツ変換の式と立て、2物体の質量比(m1/m2)を導きます。

 本来、2つの物体と同じ慣性系に存在する観測者(この場合はB)から見れば、質量比は「もちろん1」となるのですが、異なる慣性系の観測者(この場合はA)から見ると「必ずしも1とは限らない」と考えるのです。


 ここで、この質量比(m1/m2)2の式は、運動量保存則とローレンツ変換の式から「u'とvを消去する」ことで導かれるのですが(教科書には「この記述」しかなかった)、このやり方には「コツ」があります。当初、独力ではなかなか導けなかったので、ネットで調べて漸くそのテクニックを見つけました。


 (※予め「1-u12/c2」と「1-u22/c2」を計算しておいて、後からまとめて代入するのです。)


【相対論的質量】

 続いて、K系とK'系のそれぞれに物体を置いた場合を考えてみます。今度は、物体1はK'系において静止状態にあり、物体2はK系において静止状態にある状況を考えます。

 この場合、観測者Bから見ると物体1は静止状態として認識されます。一方、観測者Aから見ると物体1は(K'系と同じ速度)vで等速運動していると認識されます。



 さて、そもそもの前提として、物体1と物体2は同じ慣性系においては同じ質量を持っています。そこで、物体2を物体の本来の質量m0、物体1をK'系において変化したかも知れない質量mと考えて、質量比(m1/m2)を求めてみます。


 この結果、K'系内における質量はmは、本来の質量m0のγ倍に変化していることが判りました。この変化した質量mを「相対論的質量」と言います。


【相対論的力学】

 古典力学における「運動量」は質量と速度の積で定義されます。また、「ニュートンの運動方程式」は、「運動量の時間微分が外力に等しい」という形で表されます。

 これを踏まえて、相対論的質量と速度の積を「相対論的運動量」と言います。また、「相対論的運動量の時間微分が外力に等しい」という形で表される方程式を「相対論的運動方程式」と言います(次の式では速度と外力をベクトルで表記しています)。



 ここで、エネルギーの変化は外力による仕事によってもたらされると考えると、エネルギーの微小変化(dE)は微小仕事(F・dr)で表されます。後はひたすら数学の問題です。



 両辺を速度0からvまで積分すると、エネルギーの変化と質量の変化の関係(エネルギーと質量の等価性)が導かれます。



 ここで「右辺」の積分には、これまたちょっとした「コツ」が必要となります。こちらもネットで調べて漸くそのテクニックを見つけました。


 (※要は「(1-v2/c2)-3/2=(d/dv)(1-v2/c2)」を発想できるかどうかがポイントです。)
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ガリレイ変換とローレンツ変換

2023年08月31日 | 物理学の基礎
 先日の記事でも述べましたが、この夏の暑さは異常です。外に出るのも儘ならず、インドアで過ごすことが多くなりました。

 そこで、この8月中はスキマ時間に「特殊相対性理論」の解説を読み返しておりました。工学部(機械系)で特殊相対性理論を履修したのは、約四半世紀前の大学1年(教養部)の頃です。使用された物理学の教科書では僅か「10ページ前後」の記述でしたが、なかなか難解でした。あらためて理解したイメージを「メモ書き」として記事に残しておきます。


【異なる2つの空間(K系とK'系)】

 まずは一連の話の前提として、異なる2つの空間を導入します。一方の空間をK系、もう一方の空間をK'系と呼ぶことにしましょう。

 K系は静止状態にあり、この中には観測者Aが存在します。また、K'系は一定の速度で動いており、この中には観測者Bが存在します。K系が駅のホームだとすると、K'系はホームを通過する新幹線のようなイメージです。



【慣性系】

 ここで、K系とK'系のそれぞれに座標を設定します。これらの座標系は「慣性系」と呼ばれます。慣性系とは、慣性の法則が成立する座標系の事です。慣性の法則は「静止している物体は静止し続け、運動している物体は一定の速度を保ちながら運動を続ける」と言う法則です。

 つまり、座標系は静止しているか等速運動をしているため、その加速度は常にゼロであり続けます



【ガリレイ変換】

 K'系内における点Pに着目し、この点Pの位置を観測者A、Bのそれぞれから見た場合の見え方について考えてみます。点Pの位置(座標は)は、観測者Aからはxの位置に見えます。そして、この位置xは時々刻々変化します

 一方、観測者Bからはx'の位置に静止しているように見えます。観測者Aの立場から言えば「観測者Bもまた点Pと共に同じ速度で動いている」のです。

 この関係を等式で表し、時間微分を施すと、位置の関係から、速度や加速度が導かれます。その結果、運動方程式はK系、K'系で同じ形となります。


 すなわち、一つの座標(慣性系)で成立する力学の原理は、これと等速運動する他の座標系(慣性系)についても成立します。従って、力学現象の基礎として絶対速度を測定する方法は無く、ただ相対速度のみが測定できる、と言うことです。これを「ガリレイの相対論」と言います。


【非慣性系と慣性力】

 ここで、もしK'系が慣性系ではなかった場合を考えてみましょう。つまり、K'系が一定の「加速度」を持って運動している状況です。この場合、K'系は「非慣性系」と呼ばれます。



 先ほどのガリレイ変換と同様に、K'系内における点Pに着目し、この点Pの位置を観測者A、Bのそれぞれからの見え方(位置)について式を立ててみます。時間微分を施すと、位置の関係から、速度や加速度が導かれます。


 その結果、K'系の運動方程式の中に「-ma」と言う項(慣性力)が現れました。非慣性系の運動では、座標系自身の加速度に伴う「みかけの力」が新たに加わります。


【K'系における光の往復(1)】

 ニュートンの運動方程式と慣性系の関係を概観した後は、マクスウェルの電磁方程式と慣性系の関係を見てみましょう。ここでは、運動する座標系(K'系)の中で光(電磁波)を往復させ、その様子を外部の静止系(K系)の観測者Aの目線で考察してみます。

 まずはK'系の中で、光を(K'系の)進行方向に沿って、距離lだけ往復させてみます。



 K'系では「光源から反射板までの光の速度はcであり、また反射板から反射される光の速度もcと認識される」と考えられます。

 一方、K系では、K'系自体の速度vも加わるため、「光源から反射板までの光の(相対)速度はc+vであり、また反射板から反射される光の(相対)速度もc-vと認識される」と考えられます。

 この結果、K系の観測者Aから見た場合の光の往復に要する時間t1が求められます。



【K'系における光の往復(2)】

 続いて、K'系の中で、光を(K'系の)進行方向とは垂直に、距離lだけ往復させてみます。

 K'系では「光源から反射板までの光の速度はcであり、また反射板から反射される光の速度もcと認識される」と考えられます。

 一方、K系でも「光源から反射板までの光の速度はcであり、また反射板から反射される光の速度もcと認識される」と考えられます。


 ただし、K'系自体の速度vの影響で、「光の進み方は『真っ直ぐ』ではなく『斜めに傾く』と認識される」と考えられます。

 この結果、K系の観測者Aから見た場合の光の往復に要する時間t2が求められます。



【2種類の光を合わせると】

 ここで、上記の2つの光(1)(2)を合わせた場合を考えてみます。

(1) K'系の進行方向に沿った方向(往復時間:t1)
(2) K'系の進行方向に垂直な方向(往復時間:t2)

 当初、2つの光は時間差「Δt = t1 - t2」に相当する干渉を生じる(時間差がある=光路差がある)と考えられました。しかし、実際には観測されなかったのです(あれっ?)。

 K系とK'系との間で「ニュートンの運動方程式」は変わらず適用できますが、「マクスウェルの電磁方程式」の場合はちょっと勝手が違うようです。そこで、次のような要請(アインシュタインの要請)が基本原理に組み込れました。

(1)1つの慣性系で成立する物理法則は、これと等速運動する他の座標系(慣性系)に対しても同じ形で成立する。
(2)真空中の光の速度は、光源および観測者の運動とは無関係に、常に一定である(光速不変の原理)。

 つまり、光速が変化するのではなく、K'系の空間が歪む(縮む)ことで「Δt = t1 - t2 = 0」、つまり「t1 = t2」となる(←辻褄が合う)と考えます。この時、K'系の空間は元の長さlからl'に変化すると考えます。この結果、「t1 = t2」が実現すると考えると、次のような式が得られます。


 このように、慣性系の速度に応じて内部の空間が縮むことを「ローレンツ収縮」と言います。


【ローレンツ変換】

 ローレンツ収縮の概念を拡張してみます。 

 改めて、K系(静止)に光源を設置し、K'系(運動)の中にある点Pに向かって光を発射する状況を考えてみます。

 ここで、K系とK'系の時刻をそれぞれt,t'と表すことにします。また、K系とK'系の座標をそれぞれx,x'と表すことにします。

 初期状態(t = t' = 0)の時、K系とK'系は重なっており、この瞬間にK系の光源(x = 0)から光を発し、同時にK'系は速度vで動き出すものとします。



 ある程度の時間(K系ではt、K'系ではt')が経過した後の様子を考えてみます。ここからは、座標系の取り方とは無関係に一様に流れる「絶対時間」という考え方を捨てて、各慣性系毎に異なる時間を考えます。

 改めて、光の経路上に点P1、点P2、点P3を置いて考えてみます。P1~P2間はK系のみ、P2~P3間はK系とK'系が重なっている区間となります。



 ここで、K系に固定された光源(点P1)から発せられた光は、点P2を経てK'系内に入り、点P3に到達したとします。

 観測者Aの視点に立って、P1~P3間の距離を考えてみると、P1~P2間の距離は「時間tにおけるK'系の移動距離」であり、P2~P3間の距離は「K'系内を通過した距離」となります。

 一方、観測者Bの視点に立って、P2~P3間の距離を考えると、やはり「K'系内を通過した距離」となります。

 ここで、P2~P3間の距離について、2人の観測者の認識が異なります。観測者BはP2~P3間の距離をx'と認識しています。しかし、観測者Aはx'からローレンツ収縮した長さを認識しています。K'系内は空間そのものが収縮しているので、観測者Bも一緒に収縮していることになります。もちろん、観測者Bは自らの収縮を認識できません。

 従って、観測者Aの認識をベースに、観測者Bが認識する空間x'と時間t'を表現すると、次のようになります。


 つまり、K系とK'系では「空間の大きさが変わるのと同時に、時間の長さも変わる」ということです。この変換を「ローレンツ変換」と言います。また、この逆変換は次のようになります。



 ここで、ローレンツ変換の式を基に、空間と時間の微小変化を考えてみましょう。



 時間と空間の微小変化を基にして、速度成分のローレンツ変換の式を導くことができます。



 この続きとなる「エネルギーと質量の等価性」は、こちらです。

 ちなみに、現実の世界で身近な物理現象を考える際は、運動速度vは光速cよりも圧倒的に小さく「古典力学(ニュートン力学)」で十分対応できます。ローレンツ変換の式で「(v/c)→0」の極限を取ると、ガリレイ変換の式と一致します。

 一方、「光速に近い速度で運動する、または天体のような巨大な質量を扱う」ような物理現象を扱う際には、この知識は必要になると学びました。今後の人生において、そのような現象を扱うことが「全く無い」とは言い切れないので、念のため勉強しておきます。
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今年(2023年)の猛暑を甘く見てはいけない

2023年08月25日 | 気になるニュース
【2023年08月25日(TUY / Yahoo!ニュース)】
救急車到着後も練習継続 体育祭の練習中に熱中症で中学生13人搬送

 先日、同じ山形県の米沢市で悲しい出来事があったばかりです。その教訓が全く活かされていないようです。

 山形市における8月の日最高気温の推移(1976~2023年)を調べました。日最高気温は「猛暑日」「真夏日」「夏日」「夏日未満」の4階級に分け、各々の出現回数を表示しています。今年(2023年)は24日までの集計ですが、「猛暑日が14日、真夏日が9日、夏日が1日」と、特に「猛暑日」が多く現れています。


 続いて、山形市における8月の降水量の推移(1976~2023年)を調べました。年毎にバラツキはありますが、平年の月降水量「153mm」に対し、今年の降水量は24日までで「60.5mm」(平年の4割程度)に留まっています。ちなみに、新潟県新潟市(観測・新潟)では24日までの時点で「0mm」の状況です(図略)。


 山形では1933年7月25日に最高気温「40.8℃」が観測され、その後「2007年8月16日」に更新されるまで、実に「74年」もの長きに渡って「国内最高気温」の記録を守り続けました。幾ら「北日本」と言えども、ひとたび「フェーン現象」が牙を剥くと気温の上昇は顕著となります。

 先日の記事でも言及しましたが、今年(2023年)の夏は「暑さが際立ちやすい」状況となっています。学校関係者各位が中学生だった頃の「昔の夏」の感覚とは(少なくとも今年の夏は)「別物」であると言えるでしょう。「意識」のアップデートが必要です。

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猛暑日が目立つ夏

2023年08月23日 | 気象情報の現場から
 この夏は(2023年)、いつもにも増して「暑さが際立っている」ように感じます。

 まずは、8月14日の14時30分時点での新潟県内の気温と風の様子です。台風7号の北上の影響で(図略)、北陸地方では南東の風に伴うフェーン現象が顕著に現れました。この夏は、このような高温の日が多いのが特徴です。




 そこで、新潟県内4地点の8月の日最高気温の推移(1976~2023年)を調べてみました。日最高気温は「猛暑日」「真夏日」「夏日」「夏日未満」の4階級に分け、各々の出現回数を表示しています。今年(2023年)は20日までの集計ですが、「真夏日」と「猛暑日」しかありません。また、「猛暑日」の出現回数が顕著です。






 さらに、上空の天気図を見ていると、「いつもの夏とはちょっと違う」と感じることがあります。一般的に、太平洋高気圧の目安としては500hPa面の「5880m」等高度線(ジオポテンシャル高度)に着目します。

 しかし、最近の数値予報図で暖湿気(高相当温位)の流れを見ていると、「5880m」等高度線の縁辺ではなく、むしろ「5910m」等高度線の縁辺を回り込んでいるように見受けられます。つまり、ここ最近については、太平洋高気圧の目安として「5880m」よりも「5910m」を見た方が良さそう(要は、高気圧の指標が平年よりも高め)と言うことです。

 次の図は2023年8月18日の模式図です。



 これら一連の背景を理解するために、最近(2023年8月中旬)の特徴をラフに描きました。南の活発な対流に伴って、偏西風や太平洋高気圧は北に偏り、日本付近における高温域の広がり(気温の底上げ)を招きました。

 また、偏西風の峰(リッジ)に伴い、高気圧の中心も東に偏り、日本付近では南風が目立ちました。この南風に伴うフェーン(風炎)現象が日本海側の高温に拍車を掛けた(さらに気温が上がる)ため、猛暑日の日数が増加したと考えられます。

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7月の日最高気温の推移

2023年08月03日 | 山形県の局地気象
 今年(2023年)は梅雨明けしてから、非常に厳しい暑さが続いております。その背景については、グローバルな視点から前回の記事でも触れました。

 フィリピン付近の対流が活発で太平洋高気圧が強まりやすい傾向(正のPJパターン?)であり、さらに台風などの影響も加わって、特に「暑さ」が増す傾向にあります。

 そこで今回はローカルの視点で、山形県内4地点(酒田・新庄・山形・米沢)の7月の日最高気温の推移(1976~2023年)を調べてみました。グラフでは、日最高気温を「猛暑日」「真夏日」「夏日」「夏日未満」の4階級に分け、各々の出現比率(100%が31日に相当)を表示しています。

 この結果、「夏日未満」の出現比率(日数)は年を追って減少する傾向がある一方、近年は「猛暑日」がより現れやすくなっている様子が窺えます。




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