今回は「
連続体力学」の話題です。固体も流体も、力学的には「
連続体」として統一的に扱うことができます。なお、この記事では「専門書」のような厳密かつ精密な理論展開ではなく、ざっくりとした「思考の流れ」を扱います。
まずは、
ある物質の塊を考えてみます。さらにこの塊に外から力(
外力・
荷重)Fを加えてみた所、変形しました。そんな状況をイメージしてみましょう。
この変形した塊の内部では、外力Fとは異なる力(
内力)が分布しています。塊を仮想的に切断してみると、その切断面上では様々な内力Pが分布しています。
この中のほんの一部(ΔA)に着目すると、このわずかな面積に対してわずかな内力(ΔP)が作用しています。この時の「面積に対する内力」のことを
応力と言います。もう少し詳しく見てみましょう。
微小面積ΔAに対する微小内力ΔPの向き(角度)は、切断面の取り方によって変わります。そこで、微小内力ΔPを成分分解します。つまり、微小面積ΔAに対して垂直な方向(
法線方向)と切断面に沿う方向(
接線方向)です。
この各成分ΔP
nとΔP
tをΔAで割り、ΔA→0の極限をとったものが、
垂直応力σn、および
せん断応力σtとなります。
この概念をもう少し拡張して考えてみましょう。塊全体を考えるに当たって、まずはそのごく一部だけを取り出して考えることにします。この取り出した部分を「
微小片」と言います。
微小片に対して、
座標系を設定します。ここでは「x軸、y軸」に替えて「
x1軸、x2軸」を使用します(便宜上)。また、簡単のため「
2次元問題」として考えてみます。従って、奥行の大きさは一律で「
1」(
単位長さ)とします。
微小片に働く
応力を考えてみます。応力は微小片の外周(切断面)上に作用するものと考えます。また、応力には
垂直応力と
せん断応力の2種類が存在します。ここで、応力は「
σij」の形で表記されます。
i軸をぶった切る方向の面に対してj軸の方向に作用する応力という意味です。
垂直応力(σ
11、σ
22)は各面に対して垂直に作用する一方、
せん断応力(σ
12、σ
21)は各面を擦る(または、滑る)ように作用します。図中の「
×」が作用点です。
ここで、微小片が勝手に回転することは無いので、
せん断応力σ12とσ21は等しくなります(せん断応力σ
12とσ
21に伴うモーメントは常に釣り合います)。
また、これらの応力に伴って、微小片に働くx
1軸とx
2軸方向の
力(=
応力×面積)を右側の青枠に記載しました。いきなり微分記号(∂)が登場していますが、これは下記の近似を使用したためです。
続いては、「
ひずみ」について考えてみます。微小片に応力が働くと変形を生じます。そこで、「元の長さ」に対する「長さの変化」の割合を「ひずみ」と言います。
まずは
垂直ひずみを考えてみましょう。
垂直応力σ
11が働くことで、x
1軸方向の長さがΔu
1だけ変化します。また、垂直応力σ
22が働くことで、x
2軸方向の長さがΔu
2だけ変化します。
それぞれ、元の長さに対する変化の割合(さらに元長さ→0の極限)を求めて、ε
11とε
22が決まります(右側青枠)。
続いて、
せん断ひずみを考えてみましょう。
せん断応力σ
21が働くことで、x
1軸方向の面がΔu
1だけシフトします。これに伴い、元長さΔx
2の面が角度θ
1だけ傾きます。
また、せん断応力σ
12が働くことで、x
2軸方向の面がΔu
2だけシフトします。これに伴い、元長さΔx
1の面が角度θ
2だけ傾きます。
それぞれ、元の長さに対するシフト長さの割合(さらに元長さ→0の極限)を求めて、角度θ
1とθ
2が決まります。θ
1とθ
2を足して2で割ったものとして、ε
21とε
12は定義されます(図中青枠)。
ここで、
2つの変位(Δu
1とΔu
2)から
3つのひずみ(ε
11、ε
22、ε
21=ε
12)が決まります。と、言うことは
3つのひずみの間には何らかの関係があるはずです。
そこで、せん断ひずみε
12の式を、x
1とx
2で順次微分してみます。
こうして、3つのひずみの関係が明らかになりました(図中青枠)。この関係を「
ひずみの適合条件式」と言います。
微小片に働く力(
応力)と変形(
ひずみ)について考えてきましたので、今度は移動(
速度・加速度)について考えてみましょう。速度は
変位の時間変化で定義されます。また、速度は
位置(x
1、x
2)と
時間(t)の関数です。
上の図のように、時間Δtの間に点Aが点A’まで移動する場合を考えてみます。速度が時間Δtでの変化量、すなわち
加速度を求めてみましょう。
速度が位置(x1、x2)と時間(t)の関数であることに着目すると、加速度は
時間微分項に
非線形項が加わった形で表されます。但し、
速度が遅い場合、また変位勾配が小さい場合には
非線形項は無視できる程度に小さいと近似することができます。
最後に、塊全体を取り巻く
環境条件を考慮することを考えましょう。例えば、重力場における重力、電磁場における電磁力などの影響です。このような環境(外界)の影響によって作用する力を、単位体積当たりに働く力として考慮し、これを
体積力(
物体力)と言います。
ここまでの結果を用いて、x
1軸方向、およびx
2軸方向の
運動方程式を立ててみましょう。
以上の内容を、
アインシュタインの縮約記法(総和規約)を用いて
一般化すると次のように表されます。記事の中では2次元問題として扱いましたが、一般化することで3次元問題への適用も容易になります。
さて、ここまで微小片に働く力(応力)と変形(ひずみ)、移動(速度・加速度)を考察し、運動方程式を導出してきました。しかし、ここまで「
この塊」が「
固体」であるか「
流体」であるかについては明確にしてきませんでした。つまり、ここまでの内容は
固体・流体を問わず適用可能と言うことです。
それでは、「固体」と「流体」の性質はどのように反映させるのでしょうか。実は「固体」と「流体」の性質を決める方程式は、また別に存在します。それは
応力と
ひずみを結びつける「
構成方程式」です。
例えば、「
固体」の場合は次のような構成方程式を適用します。
これを応用することで、「
弾性体の変形解析」を行うことができます。
また、「
流体」の場合は次のような構成方程式を適用します。
上記の応力で表示した運動方程式に、こちらの構成方程式と連続の式を適用すると、粘性流体の運動方程式である「ナビエ・ストークス方程式」が導出されます。これを応用することで、例えば「
建造物の通風・換気シミュレーション」を行うことができます。
このような技術が、さらに「
地域気象の計算シミュレーション」にまで発展します。