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海自の階級~護衛艦「さみだれ」乗艦記

2012-07-05 | 自衛隊

「さみだれ」見学が終わり、「さみだれ」から「いなづま」に移るラッタル(というのかな)を、
真っ先に降りたエリス中尉。
自衛官の皆さんがこうやって敬礼しているところを写真に撮るためです。

いちばん向こう側にいるのがが「さみだれ」艦長。
一度説明しましたが、二佐(中佐)です。

ここで、写真を拡大してみましょう。



まん中の方は同じ肩章に見えますが、制帽にあの「スクランブルドエッグ」が付いていません。
この方は三等海佐、ルテナン・コマンダー即ち旧軍の少佐です。
肩章はよく見ると、三本線の真ん中が細いでしょう?
少佐は砲雷長、機関長、飛行長などの「長のつく仕事」。

呉を案内して下さった元艦長氏は、掃海艇の艦長であったので、この三佐で退官したようです。
艦長氏は防衛大学卒でではなく、下士官からの叩き上げでここまで昇進したのでしょう。
(このあたりのことは聞かなかったので、状況から推理)

この写真の三佐は、これも状況推理ですが、もしかしたら「さみだれ」副長?
そして、いちばん手前の肩章の無い方は、海曹(旧下士官)であるとおもわれます。
ちょうど腕章で隠れていますが、海曹の階級は左腕にあります。
ちらっと見える階級章から、おそらく二曹(伍長)か三曹(兵長)で、腕章は当直海曹の印かと。


・・・・・というような面々の敬礼に見送られて下艦したわけです。

今回、このような敬礼が行われている様子を何度となく見る機会がありました。
当ブログ「省エネ・省スペース」という稿で、海軍式敬礼、つまり

右手を右斜め前方から上に曲げ
揃えた指の食指と中指の中間が、帽子のひさしの中央から幾分右寄りのところに、
水兵帽であってもペンネントの下線の同じ位置に当たるところに挙げ、
掌(たなごころ)は内側に向けて相手に見えないようにする


というやり方を説明したこともあるエリス中尉が、これら「本物」の敬礼を注視しないわけがあろうか。
これも写真を見ていただくと分かりやすいですが、今から敬礼をしようとしている艦長、
既に敬礼している二人とも、掌が内側を向いているでしょう?

これも「省エネ・省スペース」でお話したように、海軍では狭いフネの中が基本行動の場なので、
このように肘を張らない敬礼になったわけです。

肘を張る陸軍式を海軍がやってしまっていても、相手が大俳優や気難しい俳優で注意できず
そのままになっていると思われる映画がしばしば存在するわけですが、
戦争映画にかかわる方たちは、どんな事情があっても、きっちりと、妥協せず、敬礼だけは
「海軍式」を守っていただきたい、と切にお願いします。


さすがに本物の海軍さんたちは、上は艦長から、下は教育隊の学生に至るまで、
一人の例外もなく正しい海軍式敬礼をしていたわけですが、
それをいちいち、目を皿のようにして確認する見学者というのもあまりないと思われます。

 

前回冒頭写真の、東郷平八郎の書に自衛隊旗をバックに写された「さみだれ」上層部の写真。

上は艦長。
右下は副長で、左下は海曹長。一曹の上、つまり兵曹長です。

この写真で分かったのですが、「さみだれ」は副長も二佐でいらっしゃいます。
そういえば冒頭写真のまん中の方は、この写真の二佐ではありませんね。
まん中の方は「船務長」といったところかもしれません。


「何か質問はありませんか?」

説明会が終わって、艦長が我々にこう聞いて下さったとき、質問がとっさには思い浮かばず
「ありませんか、それではこのへんで」
とお開きムードになったのですが、立ちあがった瞬間、エリス中尉、

「この間、バトルシップって言う映画を観たのですが・・・・」

うわあああっ!何を言い出すつもりだエリス中尉!
よりによって本物の護衛艦艦長に何を聞く気だ?

しかし、とにかく、この機会に何でもいいから何か聞きたいということしか考えていないため、
質問を考える前に脊髄反射でこの口が動いていたのでございます。

「ご覧になりました?あの映画」
「いえ・・・・・・」

皆さん、すくなくとも護衛艦「さみだれ」艦長は「バトルシップ」を観ていないことだけは判明しました!
隣のイケメン・エンスンはデートでこの映画を観に行ったりしなかったのかしら。
黙っていたのは「サイレント・ネイビー」だから?
それとも上官の話には口を挟まないという軍隊社会の規律?

「あの映画で『みょうこう』と自衛官が登場していたのですが。」
「はあ」
「あの映画で『みょうこう』の艦長は若すぎるのではないかと思ったのですが、
イージス艦の艦長の階級は普通何なんでしょうか」
「イージス艦も二佐ですね」
「何歳くらいから二佐にはなれるものですか」
「早い者で、40歳くらいから二佐はいますね」

じゃやっぱり『みょうこう』の艦長が浅野忠信というのは若すぎってこと?
少なくとも殴り合いをするような血気盛んな年代では無理、というのは確実のようです。
もっとも、殴り合いをすること自体、自衛官としてもうすでにアウトとも言えます。

このときの艦長のお話によると、二佐はだいたい40歳から48歳くらいの幅があるそうで、
防衛大学、一般大学卒の幹部自衛官は取りあえずここまでは必ず昇進できるそうです。
このH艦長はお見かけしたところ40代半ば、まずは順調な昇進スピードなのではと思われました。

それにしても、予想していなかった展開で、質問を用意していなかったのが悔やまれます。
日頃何のためにこういうブログをやっているんだか。
おなじ映画「バトルシップ」についてでも、
「『みょうこう』がやられてしまうのを今回自衛隊がOKしたのは、なぜだと思いますか?」
くらいのことを聞けばよかった、と後で悔やむことしきり。
まあ、「さみだれ」艦長に答えられる問題であるとも思えませんが。

それから、海自でも同期のことを「貴様」と呼びあっているのか、聞くの忘れた・・・。
「海上自衛隊」というグラフ雑誌で「貴様!」と呼んでいるようなことが書いてあったのですが。
誰かご存じの方、おられますか?



因みに、二佐には幹部自衛官は全員昇進しますが、一佐になれるのは同期のうち半分弱。
すでにここで半分がふるい落とされます。
そして、海将補、旧軍の少将になれるのはクラスの数人のみ。
つまり旧軍で言うところの「恩賜の短剣組」くらいしか海将補にもなれない、ということでしょうか。

そして海将、旧軍の中将も、昔と同じくここまでいけるのはその中でも一握り。
何しろ海上自衛隊全体(4万5千人)の中で海将は16人しかいないのですから。
せいぜいクラスヘッドと次席、
漫画「ジパング」の52期で言うと滝栄一郎と草加拓海しかここまでこれません。

海上自衛隊の階級はこの海将が一番上です。
旧軍の「大将」に相当するのが「海上幕僚長」。
これは大将のように階級ではありません。
幕僚長は「海将」という階級のままで、海上自衛隊4万5千人のトップです。

第11代海上幕僚長である中村悌次は兵学校67期のクラスヘッドですが、
国内外にも、その将器、人格を高く評価された名幕僚長であったと言われています。




見学が終わってから、この士官がまたお迎えにきてくれたので、話をしながら、
この通路を逆に戻って帰りました。

どうしても話は「自衛隊そのものが政治的に圧迫を受けている話」になっていきました(笑)
国防ということについて、いつもこんなことでいいのか?と憂慮しているエリス中尉は、

「わたしがもし絶対的な権力を持っていたら、国防と防諜にもっと予算をつぎ込みますよ」
ついには
「自衛隊はちゃんと軍という組織になるべきだと思います」

ついつい雑談に紛らせてこんなことを言ってしまいました。
士官さんは、勿論そうだともそうでないとも言わず、黙っておられました。

まあ、これも自衛官の立場としては一般人に考えを言うべき問題ではないでしょうね。
そういう反応が必ずあると分かっていたけど、一応こんな一般人もいる、
という表明として言ってみた、というところです。

現実には、今の日本において組織がドラスティックに変わる可能性はあまりなく、
「憲法改正」と同じくらい、あるいはそれ以上に、一般に変化を好まない日本人には
高いハードルを超えた向こうにあるものであることは百も承知の上ですが。


しかしこんなことを、しかも子連れの女性に言われて、きっとこの士官さん、面食らっただろうな。