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映画「俺たちの星条旗」~American Pastime 「Let it go!」

2014-12-12 | 映画

サンノゼの日系アメリカ人博物館の見学記を連載しましたが、
その総仕上げ?として、映画「アメリカン・パスタイム」を観ました。

「俺たちの星条旗」というのが邦題なのですが、これはどう考えても
出演している中村雅俊の往年のヒットTVドラマ「俺たちの旅」から
題を決めたというかんじで、内容との違和感が否めません。

やはりここは原題の「アメリカン・パスタイム」で行ってほしい。

ところでこの「パスタイム」ですが、語源はフランス語。
「passe-temps」(気晴らし、暇つぶし、娯楽)を英語に直訳したものです。 

「アメリカの娯楽」とは何ぞや?

そう、このころは映画、そしてジャズと野球ですね。
アメリカの典型的な娯楽を副題に、ストーリーは展開します。
 

今までこのブログでは、何回かに亘って日系米人の
強制収容に至るまでの事情をお話ししてきましたので
詳細はそちらを見て頂くとして・・。

真珠湾攻撃の2ヶ月半のち、ルーズベルトのサインによって
「日本の血を持つ国民も(alien)非国民(non-alien)も」、
全ての日系人は決められたエリアに住むことが決まります。

日系人の強制排除が始まったのです。 

 

全ての日系人はセンターにまず集められたのち、強制収容所に移されました。
「黄禍論」などで日系人に反感を持っていた白人たちは
ここぞと息も荒くそれに賛同しました。

しかし、たとえばこんな写真の人とか、黒人女性が初めて大学に入った時、
入学者第一号者の後ろを罵声を浴びせながら歩いている女性なんかは、
そういう自分の姿が、差別の時代の証拠記録として未来永劫残ることについて、
後年どのように思ったのでしょうか。



舞台はユタ州にあったトパーズ強制主要所。
ここに収容された日系アメリカ人の家族、ノムラ一家が主人公です。

ノムラ家の家長、カズ(中村雅俊)は
2歳のときに両親にアメリカに連れて来られた一世です。
妻のエミ(ジュディ・オング)も、その名前から一世でしょう。
二人の息子、レーンとライルはロスアンジェルスで生まれ、
どちらも野球とジャズを愛する二世です。



収容所の中は男女が一緒くたの生活です。
連れて来られるなり着替えに戸惑う日系人たち。
取りあえず男女別の方向を向いて着替えていると・・・

 

おかまいなしに収容所の看守がやってきます。
収容所所長ワトソンは、実際にモデルがいたのかもしれませんが、

「お互いに協力していこう。ゆっくり休んでくれ」


などと極めて穏やかな、友好的な態度です。

わずかながらも、ほっとする収監者たち。



看守の一人、軍曹でもあるビリー・バレル。

彼は地元のマイナーリーグの捕手で、中心選手です。
昔からメジャー候補といわれつつも、すっかり盛りを過ぎ、
今ではすっかりあきらめモードですが、
それなりにマイナーでは活躍中。


 

房のリーダーとなったノムラは、

「ここをもっと住み良くしたいので皆で協力し合おう」

バラックに手を加えたり、お金を出し合って
買い物し、生活を改善することを提案します。

 

ビリーともう一人の看守、マックが、街のグロサリーに
ノムラ親子を買い物させに連れてきます。
ここの店主、ジョー(左)は温厚な人物ですが、床屋のおっさんは
日系人にあからさまな敵意を隠しません。

「奴らに金をやっているのか!」

憎々しげに言い放つ床屋のおっさん。
彼は嫌悪のあまり決して面と向かって話そうともしないのです。

「自分たちの貯金を下ろしてきたんだ」

あくまでも穏やかに相手に説明するノムラ。



「ギンガム」という単語が読めなかった、しかし気のいいジョーは、
面と向かって彼らに敵意は見せませんが、店にはさり気なく
日本人排除のポスターがあります。
(もしかしたら床屋のおっさんが貼ったのでは)
そこにはこう書かれています。

「ジャップ狩り許可証 売り切れ 無料サービス!」

観念での差別意識を持ち、日系人は追い出すべきだ、と思っていても、
いざ付き合うと全くそれとは別に、目の前の人間を個人として見るタイプ。
特に日本人はこちらのタイプが殆どで、床屋のおっさんのように
態度にまで表わしある意味「ブレない」人間は少数派かもしれません。

 

「我々は何か法律を犯したのか?憲法は?
ドイツ人やイタリア人はどこだ?回答を求める!」

日の丸の鉢巻きをし、所内をアジ演説してまわる一派。
これもお話ししたことがありますが、収容所内の最右翼
(アメリカから見ると右翼とは呼びませんが)であった「祖国派」、
WRAという組織です。

WRAというのは元々

War Relocation Authority (WRA)

戦時強制収容所委員会とでもいうべき管轄の略称の筈ですが、

それをもじったのか、彼らは自分たちをこのように称していたようです。
残念ながら何の略かはわかりませんでした。

実際の収容所でもそうであったのですが、
収監者たちは彼らにどちらかというと非難と嫌悪の目を向けます。

確かに彼らの主張は間違ってはいまいが、
だからといってここでそんなことを主張してどうなる?
そもそも戦争を起こしてきたのは日本じゃないか?
余計なことをして我々の立場を悪くしないでほしい。

彼らを白い目で見る日系人の心理はこんなところでしょう。
良くも悪くも、日本人のメンタリティを強く感じる話です。

彼らは翌朝、トラックで何処へともなく連れ去られていきます。
実際は監視の厳しいツールレイク収容所に送られたのですが、
残された者は

「何処に連れて行かれるんだ」
「腐ったリンゴを集めてアップルサイダーを作るのさ」

などと会話します。



収容所内では酒の密造、賭けも頻繁に行われました。
所内には「カジノ」がこっそりと開設されたといいます。
日系人部隊のモットーになった「Go for broke!」はピジン原語
即ち接触原語の類いで、日系人たちのなかでのみ通じる言葉です。

ブロークとは「破産」を意味し、主にハワイの日系人たちが
賭けをするときに「全財産突っ込め!」という意味で使っていました。




ノムラ家の長男と次男、レーンとライル。

この二人、本当に兄弟といわれても信じられるくらい似ています。
ただ二人とも、特に兄役のレオナルド・ナムなどはその容貌のせいか、
何を言っているときにも無表情に見える大根演技が困りもの。

総じてこの二人の主人公の容姿が日本人らしくなさすぎる
(二人とも韓国系アメリカ人)のが、日本人的には残念な映画です。 

監督のデズモンド・ナカノはまぎれもない日系人で、
映画で追悼されているレーン・ナカノは(長男の名前は彼へのオマージュ)
前にもお話しした映画「日系部隊」に出演した俳優です。

日系アメリカ人の人口自体が少ないアメリカでは、
ネイティブ並みの英語を話せる日系人俳優がいなかったため
このようなことになったのかと思われます。 



父親に中村雅俊を起用したのは、一世であれば英語が訛っていても

不自然ではないし、むしろ日本語がしゃべれることが必須だったからです。
それは母親役のジュディ・オングも同じで、ただしこの二人は
英語に堪能であったことでキャスティングされたようです。

中村はボーナストラックで、英語のインタビューに答えています。



次男のライルは兄と違って大学に進学し、野球で奨学金を取りました。

サンフランシスコ州立大学に行った、と本人が冒頭説明します。
我が家がサンフランシスコ在住のときには隣の敷地がこの大学で、
住人には学生がルームシェアなどで住んでいました。

そして、趣味以上の熱意を注いでいるのが、サックスです。




ピアノをやっていてボランティアで収容所内の
子供たちを相手に演奏をする、ビリーの娘、ケイティ。



ライルが彼女の演奏中にちょっかいをかけます。
彼女は腹を立てながらも彼に惹かれるものを感じ・・。

(ありがち)



ケイティの両親。
多くの野球選手が招集されていくというニュースを見て
妻は夫にメジャーへの可能性を焚き付けます。

「チャンスよ!戦争で変わったわ」



収容所ではかつて独立リーグの選手で、ゲーリックや

ベーブルースとも試合をしたことのあるノムラが主導し
野球チームが作られます。



ウクレレをバッターのように振りながら登場、

ハワイから来たバンビーノ・ヒロセ。(リロイ・ブッダヘッド・テオ)
アフリカ系ですが、日系の妻がいるためここに送られてきました。



収容所で行われたダンスパーティのステージに

ライルに引っ張り上げられて演奏するケイティ。
クラシックピアノのお嬢さんにこれは普通無理という奴ですぜ。

しかしさすがは映画、ライルがサックスでリードすると、
たちまち彼女はアドリブソロが取れるようになってきます。

ありえねー。

 

ここで事件発生。
自由時間に野球をしていたビリーと看守のマック。
転がった野球のボールを捕虜に投げさせたら、中継越えのどストライク。

驚いた看守Aは「ビリーを三振させたら5ドル」の賭けをもちかけます。

 

収容所内でサックスを吹くライルにいきなり悪態をついたオヤジ。
今ではいつの間にかライルの師匠のようになっています。

「ボールを取ってくれ」

とビリーに言われても

「わたし英語分かりませーん」

と嘯いたくせに、ライルが最初のストライクを取ると

「いいぞライル!こいつは野球で奨学金を取ったんだぞ!ハッハー」

とペラペラしゃべり、ビリーに

「もう英語を覚えたのか、”トージョー”?」

(この”トウジョウ”は翻訳されていない)
と突っ込まれて

「スコシ。じゃすたーりーーとぅびー!」





いきなり2球続けてストライク取った後、
続く見逃しの2球をボールだと言い張るアメリカ人二人。

「じゃすたーりーるびーはーい!」「りーるびーはーい!」

とモリタの発音を真似しながら馬鹿にします。



その様子を上の監視所から見ている、もう一人の看守B。
(伏線)



結局勝負はアメリカ人がストライクを認めなかったため

ライルの負けとなりました。

「やめろ」(日本語で)

ライルに何も言わせず、すたすたと歩いていって、アメリカ人に
2倍になった掛け金の10ドルをわたすモリタ。

「見事な腕とスポーツマンシップの披露、ありがとう」

痛烈な皮肉です。

そしてお辞儀をしながら

「我々の国ではこれをこういう。マルメノアホウサマ」
(丸目の阿呆様?) 

鼻白むアメリカ人たち。
このあとモリタはライルに向かって二回こういいます。

「Let it go. Let it go.」 

・・・・・誰ですか?節をつけてしまったのは。
 
そう、わたしが「レリゴー」のあれを「ありのままの」
と訳すのは変じゃないか、というのは、こういうときに
使うのが正しい用法だからなんですね。

この場合のレリゴーは

「ほっとけ」「あきらめろ」

というニュアンスなんです。 

まあ、迂回していけば

「仕方がない」→「あきらめる」→「このままにしておく」
「ありのーままのー♪」

となるので大間違いではないんですが、意識の方向性という点では
まるで逆なんではないかと、映画のヒット以来わたしは思ってます。 



親と対決したと思ったら今度は娘(笑)。

クラシック畑のケイティにジャズピアノの弾き方を教えるライル。

上手く弾けない彼女の手を取って曲調はアップテンポから
いつのまにかバラードへと。そして・・・・(ありがち)

 

そんなおり、ソロモンに出征しているビリーの息子、

ケイティの兄が戦死したという知らせが届きます。

ビリー、怒りのドラム缶バットで100発。

 

不気味なキモノ3人娘(着付けがヘン)が

クリスマスソングを歌うパーティ席上、ノムラ家の長男レーンが
陸軍に志願したことを両親に告げます。

「もうここにはいたくない。
みんなと同じアメリカ人であることを証明できる」

ほとんどの日系軍人が全く同じ理由で陸軍に志願しました。

ついでに彼は


「みんな何かしら失っているが泣いたり文句を言ったりしない。
お前以外は」

と弟の態度をなじります。

 

収容所の母親たちが赤い糸をつないだ千人針。

それを出征に際し受け取ったレーンは父親と

「一番!」
「おかげさまで」

という謎の日本語でのやりとりの後出発していきます。

息子を送り出した夫婦は、鉄格子の見える広場でお弁当を広げ、
どちらからともなく歌を口ずさみます。

♪ しゃぼんだま とんだ やねまで とんだ ♪

そ、その歌は・・・・・。

野口雨情が流産してしまった子供を思って作った
といわれるこの曲。
「シャボン玉」は早世した子供の象徴でもあるのですが、
そのことをこの夫婦は、というか、
日系人監督ナカノはそのことを知っていたのでしょうか?


後半に続く。