去年の春と秋、練習艦隊の出港と帰国を晴海埠頭に見届けたときの
練習艦「せとゆき」の東良子艦長が、1月1日付で1佐に昇進されたそうです。
おめでとうございます。
女性では初めての1選抜での1佐昇任となり、もしかしたら女性初の将補も可能性も見えてきました。
他人事ながらなんとか頑張って女性海将まで行って欲しいものですが、
ここから先、競争相手は精鋭ばかり。さぞや険しい道であろうとご推察します。
というところでいきなり寄り道して、雷蔵さんのレクチャーで仕入れたばかりの知識ですが、
自衛官の昇進についてお話しします。
これから海上自衛官を目指す方、特にどなたとは言いませんが、どうぞご参考になさってください。
防衛大学校と一般大学卒業者からなる一般幹部候補生は全部で150名。
防大が毎年100人、一般大が50人です。
尉官のうちは、つまり3尉、2尉から1尉昇任までは、重大な病気かよっぽどの規律違反がない限り、
同じ日に揃って昇任します。
世界のどの海軍にも階級順に名前が記された「幹部(士官)名簿」というものがあるものですが、
海上自衛隊では2尉まではアイウエオ順です。
つまり中尉までは自分がどの位置にいるかわからないままなのです。
卒業の時に自分の順位がわかっているので、防大卒はそれでだいたいの判断ができるとはいえ、
一般大卒が加わるのでそこからさらに落ちる可能性もあるというわけです。
で、1尉になるとき、初めて名簿は成績順に並ぶようになります。
この段階で自分の自衛官人生がだいたい見えてしまうということでもあるんですね。
旧海軍のハンモックナンバー偏重主義は戦後否定的に評価されており、
それが負けた原因だなどと極論をいう人すらいるわけですが(違うと思いますけど)、
大学卒業の時の成績がそうものを言わないとはいえ、このように序列が20代のうちから
はっきりと見えてしまう職場というのも珍しいといえば珍しいものですよね。
当ブログでも何度もご紹介している、兵学校の最後の在学生となった76期生徒のSさんなど、
自分がハンモックナンバー5番で、しかもそれが結構ご自慢であるのにもかかわらず、
「あれはいけません。海軍の弊害というかダメなところですよ」
とこんな話をしてくれました。
76期卒業生で「最後の海軍軍人出身海幕長」と言われた長田海将と「いなづま」の
艦長の話をこのブログでもしたことがありますが、その長田海将と、
同期、つまり76期出身で海将になった者が海幕長候補に挙がったとき、
ハンモックナンバーが決め手になって長田海将が海幕長になった、ということが
76期同期生の間でささやかれてきたという話です。
言っておきますが、この76期は、2号生徒の時に終戦を迎えていますから、
この海幕長を決めたハンモックナンバーというのも3号(1年生)終了後の成績なのです。
「卒業時にハンモックナンバーなんて全く変わっている可能性もあったのに」
とS氏はつまりその結論にあまり納得していないようでしたが、わたしは
「いえ、実は長田海幕長には若い時にこんな話がありまして」
と膝を乗り出さんばかりにして「いなづま」航海士だったときの話をさせていただきました。
(ここでそのことを書いた直後だったもんで)
一般に艦長の時「つっかける」と海自内の言葉で言う軽微な事故、定置網に気付かず突っ込んだとか、
小さな漁船に接触する事故などを起こしてしまうと、それだけで昇進が足踏みするのに、
人が何人も亡くなるような事故のとき航海長でいながら、海幕長に選ばれたということは、
「(長田氏は)ハンモックナンバーだけでなく実際にも評価が高かったのではないでしょうか」
わたしがこういうと、S氏は、
「そうかもしれないですねえ」
と少し驚いておられるようでした。
戦後そちら方面には極力関心を持たず、同期会で仕入れた断片的な噂話が情報元だったので、
こういう海自のリベラルな部分や雅量とでもいうべき部分については
知ることなく今日まで来てしまったのかもしれません。
さて、冒頭に東良子2佐は「1選抜で」と書きましたが、この1選抜とは、
同期の中から真っ先に上級に昇進することのできる選抜メンバーをいいます。
防衛大学校を出ていれば、最低2佐まではいける、という話を聞いたことがありますが、
ここで1選抜となった同期はどんどんと先に行ってしまうわけですね。
実にシビアな方式で、わたしなどは驚いてしまったのですが、この1選抜は
3佐に1選抜される人数→150名のうち50名(3分の1)
2佐に1選抜される人数→50名のうち25名(2分の1)
1佐に1選抜される人数→25名のうち5名(5分の1)
これは、旧軍のハンモックナンバーではなく、その地位にあった時の「実績」に
よるものですから、たとえ防大を首席で卒業したとしても、その人の能力によっては
1選抜に漏れるということも起こりうるということになります。
そして東さんはこの5人に入ったということなのです。(/^ー^)/"""パチパチ
で、この先ですが、将補以上は各クラス10人ずつ、内訳は海将が3~4人、海将補が6~7人出ます。
1佐から初回で将補に昇任するのは、4年半後なので、海上自衛隊初の女性海将補が
もし生まれる可能性があるとすれば、そのときということになりますね。
閑話休題。
って、最初から全く写真とは関係ない話に紙幅ならぬブログ幅を費やしてしまいました。
どうして東1佐の話を冒頭に持ってきたかというと、今日はアメリカのアラメダで見学した
ホーネット博物館の艦内展示から、女性海軍軍人のコーナーのお話をするための前振りです。
海上自衛隊の女性隊員のことをWAVEという、ということにわたしは比較的最近気づいたのですが(笑)、
アメリカ海軍ではちゃんとSをつけてWAVESと称します。
なんの略かと言いますと、
Woman Accepted for Volunteer Emergency Service
( 緊急時任務に志願することを認められた女性)
直訳するとこうなります。
アメリカ海軍がこう言って女性を集めたのでこれが名称となり、
アメリカ式名称を直輸入した自衛隊が、何の疑問もなく?
この名称を使用しているのですが、なんか変ですよね。
自衛隊で「イマージェンシー」というのは名称に含む必要があるのかとか、
なぜ肝心の「サービス」の「S」を自衛隊では削ってしまって、「WAVE」なのかとか。
単にウェーブスだといいにくいから?
WAVEで波=海上でいいんじゃね?ってこと?
うーん、たった今気づいたけど、これは ・・・・・・・。
と相変わらずどうでもいいことが気になって仕方がないわたしであった。
ついでに自衛隊の場合、
「ワック」WAC=Woman’s Army Corps=女性陸上自衛官
「ワフ」=WAF=Woman in the Air Force=航空自衛隊
で、これらも米軍の名称をそのまま受け継いでいます。
陸自と空自はすっきりと「女性の陸軍」並びに「空軍の女性」なのに、
なんだって海自だけがこういうわけわかめな名称なのか。
どなたかご存知の方おられますか。
もうひとつついでに、Army Corpsは「アーミーコーア」と読んでね。
語源はフランス語なので語尾の子音発音しないんですよ。
さて、とにかく前に進みましょう。
あれは確か1年半前、ホーネットの見学を行ったわけですが、
その時撮りっぱなしになっていた写真のことを突如思い出したのです。
空母ホーネットは日本軍に沈められたのですが、ちょうどそのとき
「キアサージ」となる予定だったこの空母を、アメリカは瞬時にして
『ホーネット」として竣工してしまったのでした。
「日本に沈められた」という情報が世間に広まるのを抑えるためだったに違いありません。
戦後ホーネットはアポロ13号の乗員の回収を行ったりして退役し、
余生を博物館として送っているのですが、体験型博物館として、艦内で宿泊したり
ナイトツァーを行うなどもしています。
写真は細かいバルブとスイッチ、そしてメーター。
これなんですか?(早速お手上げ)
本題に入る前にもうひとつ未発表写真を投入。
キャニスター(蓋付き容器)とか延長線などが収納されている、
ということですが、これも何のためのロッカーかはわかりません。
ただ、ロッカー側壁に赤で書かれているOBAというのは、
oxygen breathing apparatus(酸素吸入装置)
という意味なので、非常用のセットであることはまず間違いありません。
上に置いてある赤いヘルメットが凹んでいるのは(これにもOBA表記あり)
何かシリアスな状況に使われたことがあったということでしょうか。
というわけでやっとこさWAVESコーナーです。
やはり女性軍人についてのコーナーですので、展示はお洋服から。
左の紺色スーツは下士官のもので、後ろには現行の士官用がありますが、
手前のブルーのシャツにブルーラインの制服はわかりません。
これが「Sea Service Woman」のものでしょうか。
でも「Sea Service」って、航海勤務のことだしなあ・・。
白っぽいドレスは1940年代のものであることは確か。
左のブルーは水兵さんの女性版?
真ん中は海兵隊の女性軍人(SPARS)用の制服です。
カーキに最も合う色、赤を配した帽子がおしゃれですね。
さて、冒頭でわが国初の海将補誕生か?という話題を取り上げましたが、
アメリカ海軍では一足お先に2014年7月、初めての女性「提督」が誕生しています。
ミシェル・ハワード大将。
女性が、しかもアフリカ系女性として初めての4つ星階級となり、
海軍作戦副総長となったののは236年のアメリカ海軍史上、初の快挙だということです。
1960年の54歳ということですが、なかなか可愛らしい方ですよね。
インタビューを見ましたが、頭脳明晰を絵に描いたような喋り方をする人です。
1982年に米海軍兵学校を卒業し、1999年には黒人女性として初めて米海軍艦艇
( USS Rushmore LSD-47_揚陸艦)の艦長を務めました。
バラク・オバマは黒人でなければ大統領になれなかった、とよく言われますが(笑)、
彼女の昇進にも常にそういう批評が付きまとったようです。
俺の方が上なのに女だから、黒人だから抜擢された、などといつも
陰口を叩かれながら今日まで来たと慮られるのですが実際はどうだったのでしょう。
「私が任務に就くのを好まない人や、私が目指すことを邪魔する人たちもいました」
彼女はインタビューにこう答えています。
ただ、これは注意が必要で、ハワード大将が自発的にそう言ったのか、それとも
そういうことにしたいメディアがそう言わせようと誘導したかは誰にもわかりません。
ただ実際にも、2013年に発表されたある海軍報告書からは、あるハワード大将の同僚が、
彼女が中将になったとき、
「昇格が早かったのはアフリカ系女性だからであり、その立場にたどり着くまでに、
アフリカ系でも女性でもない人間と同じような難関を乗り越える必要はなかったのではないか」
と話していたことが明らかになったということです。
つまり遠回しに「黒人女性だから簡単に昇進できた」と言っとるわけですね。
まあわたしも実はオバマはアフリカ系だから大統領になれたと思っている口ですが()
軍は・・・・やっぱり実際に優秀でないと現場の評価から足元が崩れてしまうし、
あまりにも性格が悪くて更迭された女性艦長もいたくらいですから、
この同僚の「やっかみ」ではないのかという気もしますが、どうなんでしょう。
インターネットには
「自衛隊が世間に迎合している」「イメージ戦略のためにやっている」
などという意見も出てきたりするわけですが、自衛隊こそ、よほど優秀でないと
上がってこられないし「出る杭は打たれる」の文化なので、ここは
「男性だったとしても普通に昇進できるくらい優秀だから昇進した」
ということなんじゃないでしょうか。
(あくまでもイメージです)
米海軍のWAVESについても、もう少しお話ししていきたいと思います。