ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

繫留作業〜潜水艦「せいりゅう」入港式典 @ 横須賀地方隊

2018-04-06 | 自衛隊

 

「せいりゅう」入港式典、潜水艦が沖に現れてから接岸するまでで
案の定一日を費やしてしまった当ブログですが、皆様方におかれましては
ここはそういうものだと諦めて、どうかお付き合いください。

わたしが前回タグボートのことを曳船と書いたところ、
「自衛隊では押しぶねと言っている」というコメントをいただきました。

確かに見ていた限りこの日は曳船というよりは押す仕事ばかりしていたので、
わたしも今後その日の任務によって呼び方を変えようと思います。


こちら、そのころの艦橋。

いつもこの上の構造はどうなっているんだろうと不思議です。
中はラッタルになっているらしいですが、
それでは上半身出している人はどこに立っているのか。

一度でいいからここに上がってみたいものです。

「そうりゅう」型潜水艦の艦長は二佐職です、
肉眼ではわかりませんでしたが、写真に撮ってみると、
小さな旭日が根元にある「長旗」が揚がっているのに気づきました。

長旗は各艦艇を指揮する士官の旗章として掲揚されるもので、
このことだけは旧海軍と全く変わっていないと思われます。

こんなところに羅針儀らしいものが設置されていました。
ここから操舵に指示を出していた、でOK?

艦首側では接岸の瞬間を待って、サンドレッドの投擲用意がされました。

サンドレッドとは、船舶の太い係留索を陸上に渡すために、最初に
日ービング・ライン(heaving line 引き綱)という細いロープの先端に
遠くに投げやすいようにつけた先端のおもりのことです。


今回の出席をお取り計らいいただいた方に、式典から帰って
無事に参加できた旨連絡をしたところ、

「サンドレッドは一発で届いたでしょうか?」

と御下問がありました。
掃海艇のサンドレッド投擲を見たことのあるわたしには、
はっきり言って潜水艦のがそんなに大変なこととは思えなかったので、
思わず

「あれ難しいんですか?」

と質問したところ、

「初度入港でレッドが決まるかどうかは注目の的で、
モタモタしたら後世まで語り継がれます(−_−)」

海に落とすのも絶対にダメだろうな。
入港の社業は時間の勝負なので、ちょっともたつくだけでも伝説になっちゃうのか。
それは大変ハードルが高いぞ。

右から2番目、そして5番目が投擲を行うレッドマンと呼ばれる人です。
普段の入港ならともかく、これだけ観客が多い初度入港でサンドレッドを投げる
レッドマンは、「ある意味艦長以上に緊張するもの」なのだそうです。


緊張、してますかー?

 

ヒービングラインは太いラインに繋がれて、舫杭にかけられます。
船は係留の際、

前後に動かないように バウ及びスターンライン
横に動かないように ブレストライン
前後および横に動かないように スプリングライン

という舫の掛け方をすることになっています。
潜水艦は小さいので普通の船よりラインが少ないようです。

こう言った入港作業の間、音楽隊はずっと演奏を続けていました。
華やかな音楽付きで、しかも皆が写真を撮りまくっているこの状況、
いつもと同じ作業には違いありませんが、艦隊の皆さんはどんな気持ちでしょうか。

これは明らかに着岸の瞬間を「今っ」と指示する人だと思われます。
それと同時にサンドレッドが投げられるのでしょうか。

インカムの人は着岸と同時に国旗を揚げる用意をしています。

彼が指差しした次の瞬間、右の海士くんがサンドレッドを投げたのだと思われますが、
当方この時状況が読めず、国旗の揚がる瞬間も投擲の瞬間も撮り損ないました。

艦上と岸壁ではハンドサインが交わされているようです。

その頃、仕事を終えた一隻の押し船はあばよっと去っていくのでした。
お疲れさま〜。

艦尾側の子はまだお仕事中です。

あれ、ラインが黒いぞ。

相変わらず状況が読めず、またしても艦尾側の第1投を撮り逃しました。
しかし最初のサンドレッドが岸壁に届いた瞬間、ラインマンたちが
ものすごい勢いで走ってレッドを回収。

全員で輪になって、順番にヒービングラインを拾っては離し、
また後ろに行っては拾うという方法でラインを引き揚げていきます。

入港作業は自衛官たちにとっては日常作業ですが、一般人には
はっきり行って、これはちょっとした派手な見ものです。

自衛官たちの躍動感ある走りをご覧ください。

いつの間にか艦首側の国旗じゃなくて艦首旗が揚がっています。
潜水艦用の可愛らしいサイズです。

延々と写真を撮っていますが、経過時間はだいたい2分くらいの間の出来事です。
写真の記録を見たら、着岸が1000と決まっていたらしいことがわかりました。

そして太い舫を舫杭に掛けている後ろでは、艦尾側二人目のレッドマンが投擲。

サンドレッドは岸壁のラインマンによってすぐに拾われ、
すでにヒービング・ライン(細いロープ)を引き揚げて・・、

チームその2によってまたぐーるぐるが始まります。

なんか楽しそうに笑っているようですが、そう見えるだけの人かもしれません。
(そういえば、笑ってないのに笑っちゃいけない時に笑った!とか
マスコミにいちゃもんをつけられた
自衛隊のトップがいたという話を最近聞いたな)

この「ヒービングダッシュ」(わたし命名)をするのは海自だけでなく、
入港先の地本の人(大抵陸自)が参加したりすることもあります。

レッドマンは全部で四人でしたが、全員がいっぺんに投げると
ラインマンの人手が足りなくなるので、何回かに分けて行います。

 

あとはヒービングラインに繋いだ太い舫を杭に掛ける作業があります。
待機している二人が持っている舫は、流石に新造艦だけあってまだ真っ白です。

潜水艦は、艦首と艦尾で2本ずつラインを係留するようです。
大型艦になると、これが8本くらいになります。

たった今調べたところ、索を巻きつけているのはボラード、
左の索を引っ掛けているのは一種のフェアリーダーだと思うのですがどうでしょうか。

係留索の呼び名は様々で、係船索・ロープ・ホーサー・もやい・ムアリングラインなど。
自衛隊では舫と呼んでいるかもしれません。

舫杭に「せいりゅう」の舫が掛けられました。

押し船に「ご安航」の信号旗が揚がっていたことをこの写真で知りました。

艦尾側でも皆でこれから岸壁に繋ぐ舫を引っ張る作業です。
決して広くもないこんなところで力仕事、なかなか大変な作業です。
作業をする全員が救命胴衣を付けるのも、転落の可能性がゼロではないからです。

艦尾の舫なのでこれも「スターン・ライン」というんでしょうか。
全員で運動会の綱引きのように引っ張ります。

「オーエス!オーエス!」

という声が聞こえて・・・きませんが、これではまるで綱引きそのもの。

ところでこのオーエスってなんなんだろうと思っていたのですが、たった今調べたところ、
フランス語の「オーイス(Oh, hisse)」ではないかという説が有力で、

「hisse」:(帆や旗などを)揚げる・巻きあげる 

だそうですから、今現在のこの状況にはまさにぴったりですね。
ただわたしは、綱引きを明治時代に伝えたのがイギリス人であることから、
実は「オーエス」は

「Oh, yes! Oh, yes! 」

だったんじゃないかと思っていますが。

その時、米軍基地からやってきたのはアメリカ海軍の巡視艇。
わざわざ回り込んで「せいりゅう」の手前でユーターンしていきました。
これ絶対新しい潜水艦見に来てるよね。

君たち、「DBF」(ディーゼルボート・フォーエバー)って知ってる?

 

水上艦で舫を扱う人は皆手袋をしていたと記憶しますが、この日は皆素手でした。
楽々とやっているようで舫の係留作業は大変危険なこともあるらしいので、
手袋なしで大丈夫なんだろうか、と見ていて少し心配になりました。

潜舵の上の人たちは、この間もずっとここに立ちっぱなしです。
潜水艦は、例えば関門海峡なんかを通過するときに、必ず

「航海保安配置」

として艦橋から見張りを行いますが、その際にはこの潜舵にも
艦橋とは別に見張り員が上がるということです。

この日の潜舵の見張りはお天気も良く気持ちがよかったと思いますが、
荒天の時にはまともに波を被りそうです。

というわけで、舫を掛ける係留作業が完了いたしました。
「せいりゅう」艦上の士官が小さなメガホンで指示を行うと・・・・、

直ちに岸壁に用意されていた舷梯を掛ける作業が始まります。

皆、作業時着用していたオレンジのベストを脱いで、
ハッチから中に入れています。

潜水艦用のラッタルには専用の木の階段を設置して完成です。

この後乗員は上陸し、入港式典に臨みます。

ちなみに、着岸の瞬間からラッタルがかかるまでの所要時間はジャスト10分でした。

 

続く。