ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

XOは決して笑わない〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-04-17 | 軍艦

兵員用のギャレーと艦内教会を見てきた「ミッドウェイ」、
歩いていくと、アクリルで階下が見えるように覆いをしてありました。


この下が「オフィサーズ・カントリー」、士官居住区のようです。

階段の下には、掃除中の水兵さんの姿あり。
彼はアジア系、しかも中国系っぽい東アジア系です。

当時の「ミッドウェイ」の士官達の写真を見ると、やはりというか
驚くくらい白人種しかいません。

当時「ミッドウェイ」乗組だった日系アメリカ人のジロミ・スミス氏に言わせると、
士官はどんな格好をしていても(たとえトレーニングシャツでも)
見分けがついたそうです。

「不思議と将校は風貌がわれわれ下々のものとはちょっと違っていて、
たとえジョギングウェアーでもなんとなくそれと分かる。
肌が綺麗で髪が整い、無意識のうちに気取っているのか・・・・・。
きっとそのように訓練されているのだろう」

 

今の海上自衛隊はどうなのだろう、とふと考えた時、
ある方がエントリに対しての要望に加え、

「華やかな幹部の世界と曹士の世界はまったく別物である
上の世界だけを見て、今の海上自衛隊は語れないと思う」

というご意見を送ってこられたことを思い出しました。

軍隊ならあって当たり前の「階級差」ですが、自衛隊の場合、
幹部と曹士の間には「職域の違い」「権限の違い」こそあれ、

「華やか」「上の世界」

という言葉に表されるような隔絶があるとは感じていなかったので、
それだけにこの言葉のセレクトそのものがわたしには結構な衝撃でした。

 

確かにわたしの立場で海上自衛隊と接する時、その接点そのものは
幹部、しかも高級幹部と言われる自衛官になることは否めません。
しかしあえてこの方にこの場を借りて私見を述べさせていただけるのならば、
逆説のようですが、一般人が自衛隊を見て幹部の世界、この方のいう
「上の世界」だけを見ることは不可能だと思うのです。

(外から窺い知るだけの上っ面の世界、というならまだわかりますが)

なんの行事に参加しても、どんなイベントを見学しても、そこに居て
船を動かし、料理を提供し、儀仗を行い、音楽を演奏するのは
幹部に指揮された曹士であり、それら全てを以って我々は「自衛隊」だと認識しています。

どんな組織にも色んな立場からの視点や意見があって然るべきだと思いますが、
そのようなヒエラルキーに立ち、曹士を”下層”と見なすのは、たとえそれが
曹士の「側」の意見であっても、否、それならば尚更、
誇りを持って任務に就いている自衛官に対して敬意を欠くことにならないか、
とわたしは少し複雑な思いを抱いたのでした。


さて、少々重たい話になりましたが、先に進みます。

立派でしかも広々とした部屋が現れました。
ここは「XO クォーターズ」、エグゼクティブオフィサーの区画です。

「XO」と呼ばれるところの「エグゼクティブオフィサー」とは、
艦上における日々のあらゆるアクティビティに責任を持ち、統率する役目で、
指揮権でいうと2番目の権限を持つ・・・つまり副長です。
その所掌範囲は広く、例えば艦内の衛生問題などにも関わります。


例えば懲戒処分になるようなこと起こった時、艦長にあげる前に
スクリーニング、事情を聞くといったことも XOの仕事です。

XOは上級士官食堂の中でも先任なので、ご覧のようにその居住区は
「ミッドウェイ」の中でも最高の環境に設えられているのです。

壁にはかつてここでブイブイ言わせていた(かどうかは知りませんが)
XOの誰かの写真とともに、「ミッドウェイ」ベテランの

「XOが笑っているところなど、現役中に見たことがなかった。
艦長が艦上での仕事がうまくいっているか確かめるために彼に目を向けたり、
乗員との接触という場面では、それが普通だったよ」

という言葉が書かれています。
XOというのはそれだけ「睨みをきかせる」役割だったようですね。

船のどこかをかたどったような円形のソファテーブルには
当時の「スターズアンドストライプス」が挟んでありました。

この飛行機、JALじゃないですか!

日本赤軍(Japanese red Army)がダッカで日航DC8を・・
1977年のダッカ日航機ハイジャック事件が報じられています。

この時に彼らが要求したのは、勾留中の赤軍派メンバーの釈放。
福田赳夫政権は超法規措置で赤軍派を釈放しましたが、その時に

「人命は地球より重い」

と言ったとか言わなかったとか。
この時にハイジャックを起こした犯人の一人、坂東國男は、もともと
浅間山荘事件で収監されていたのを、バングラデシュで赤軍派が起こした
ハイジャック事件で釈放されたという人物です。

このころの「超法規措置」は、次のテロやハイジャックを産む事になり、
その反省に鑑みて現在では

「テロには屈しない」

という姿勢がスタンダードになっている気がします。

 

右側は7月4日の独立記念日特集号です。

さすが船のナンバーツー、「最高の環境」であるXOの寝室です。
枕元には燭台ふうのランプがあしらわれ、木目のインテリアにベッドカバー、
そしてカーペットは深い海のネイビーブルー。

壁全体が収納棚になっていて、これは快適そう。

木星に見えますが、クローゼットの扉、木を貼り付けたスチール製です。
これだけクローゼットが広ければ、たとえサックス5thアベニューで仕立てた
特別製のお洋服を持ち込んでも余裕で収納できますね!

近くには専用のシャワーとトイレ、洗面台のコーナーまで。
XO以外は使うことを許されません。
シャワーカーテンまでネイビーブルーのこだわり。

そしてちゃんとシャワー横にはタオルとガウンを掛けるバーまで。

 

思い出したのですが、呉の「てつのくじら」館に展示されている「あきしお」では
士官用シャワー室を見ることができます。
あれを何度見ても、シャワーブースの中にタオルや着替えを持ち込む余地はないし、
かといって外にも着替えを置くような場所もないのが不思議でたまりませんでした。

先日、ある会合で海自の方に聞いたところによると、彼らは着替えなどは持たず、
タオルで体を拭いたらそのままの姿で艦内を練り歩いて行くのだそうです。

うーん、潜水艦に女性幹部を乗せる話があると聞きましたが、これ無理じゃね?

さて、そんな「ミッドウェイ」の特権階級XO、スタッフも充実です。
彼の元で事務を行うスタッフの執務室もこの通り、スペースも広い。

彼は一等海曹、ペティオフィサー・ファーストクラスで勤続9年。
Yeomanという書記下士官だと思われます。

XOのもとで必要な書類を作成中です。

部屋にあるこの謎の機械は・・・テレックスというやつかしら。

日本ではテレックス業務は終了し、世界的にも商用では、
コンピュータネットワークの構築や、ファクシミリの登場、インターネットの普及で、
多くの一般商用テレックス通信は電子メールに移行されたことで終了しましたが、
実は軍用指揮通信などの特殊な用途では一部現役と言われています。

英字を縦に打っているので妙な感じのファイルです。
端から

NAVAL EDUC (ナーバルエデュケーション)

SUPPLY PUBS (サプライパブリックス0

NEOCS MAN (Navy Enlisted Occupational Standards)

MILPERS (ミリタリー・パーソネル)

4000LOGISTICS (補給)

7000FINANCE (予算)

NAVPERS (Navy Personnel Command )

DOD PUBS (?)

などの呪文が書かれています。

 右は電卓(大きい・・)、ブラザーの電気式タイプライター。

これは1970年台に主流となった電子タイプライターのようです。

このSX-400を検索してみたところ、1978年に発明されたデイジーホイール式で、
ウォルマートで同じ形のものがつい最近まで売られていた形跡がありました。

当時は最新型のツールが真っ先に持ち込まれたんですね。


淡々と出てきた順番に写真を貼っていきましょう。

「ファイアーファイティング・ステーション」とあります。

オフィサーズカントリー、士官区画にあるこの設備は、出火しやすく
それゆえその対策をしっかり行わなければいけない空母に必須のものです。
これは「ミッドウェイ」全体で16あるAFFF(消火フォーム)ステーションの一つで、
巨大なタンクは600ガロンのAFFFの濃縮液を貯めておくことができます。

液は消火用の水と混ざって泡を作り、ガソリンのような可燃液体を
包みこむことによって火を消し留めるだけでなく、火の回るのを食い止めます。

このステーションは1分間に250ガロンのAFFFを放出することができます。

赤とブルーのストライプにはここに包括される液体を表し、
赤は消火用の水で海からダイレクトに組み上げられ、
ブルーはAFFFの濃縮液を意味しているのです。

赤と青のテープが巻かれていることで、それらのブレンドがここにある、
ということを示します。

この向こう側は士官用の食堂です。
入室する前にこのたくさんのフックに帽子を掛けるのだと思われます。
自衛隊だとテーブルにおく方式が多いような気がしますが、米軍は、
横須賀米軍基地もそうですが皆フック方式だったと思います。

副官が自分の帽子の上にボスのをのせる、なんて文化は旧海軍からの
日本だけのオリジナルのような気がしますね。

守衛室のような小さな部屋発見。
この椅子に座ってここで待機し、窓越しにチケットか何かを確認したのかな?

このパネルは文字を差し込んで毎日変えられるようになっています。
ガラスの扉を開けて毎日メニューの文字を付け替えたんですね。

スープはクレオール
クレオールというのはルイジアナのニューオーリンズあたりの風土料理です。
ケイジャンと共通するもの(ガンボやジャンバラヤ)も多いですが、
こちらはこの地に入植したフランス人の影響が大きいかもしれません。

ちなみにクレオールスープはスネ肉の煮込みスープ。
「怪談」の小泉八雲、ラフカディオ・ハーンはルイジアナ出身で、
クレオール料理の本を日本語で書いています。

ジャマイカン・ジャークチキンというのもジャマイカ料理ですが、
単純にチリペッパーなどの香辛料を使ったフライドチキン様のもの。

サリスベリーステーキは以前米軍基地の食堂でご飯を食べた時、
メニューにあった覚えがありますね。

サリスベリー博士が「健康にいい肉料理」として考案した
ミンチ肉と玉ねぎを混ぜた、ハンバーグステーキみたいなもの。

玉ねぎ混ぜたくらいで健康にいいとは笑ってしまいますが、
アメリカ人はなかなか野菜をメインにしないので仕方ありません。

そして、下の方には「本日の映画」として

「トータルリコール」

出演 アーノルド・シュワルツネッガー シャロン・ストーン

1990年の公開ですが、「ミッドウェイ」退役の2年前ですね。
この頃「ミッドウェイ」は湾岸戦争で北アラビア海に展開していました。
長い航海で故郷を離れているしかも戦争中ですが、
艦内で乗員の慰安は普通に行われていた・・というか、だからかな?

ところで上の写真の左端、変なものが写っています。

・・・腕?

にしては写っている場所が下すぎるんですが。角度も変だし。
そもそも袖(しかも内側?)にこんな字を書いた服ってあるかなあ。

((((;゚Д゚)))))))ナニコレ・・

 

続く。