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「ホーリー・ヒーロー」〜空母「ミッドウェイ」博物館

2018-04-16 | 軍艦

 

 

さて、空母「ミッドウェイ」の内部を探索しております。
ギャレーという兵員用の調理室の見学を終わると、案内板には

「シティ・アット・シー・ループ」

として、メインデッキの艦尾側の区画を巡るコースが示されます。
ガイダンスを聴きながら歩くと約30分かかるということですが、
ここは乗組員が生活するための施設が集まっています。

ここから先は「オフィサーズ・カントリー」という案内が現れました。
現役当時からあったらしい医療関係のグッズのボックスが通路に。

ここはギャレーの近くにあるS-2ディヴィジョン。
S-2のメンバーは、ミッドウェイのギャレーの各々のメニューに必要な
材料を用意するために配置されていた係です。

なぜかはわかりませんが、その食材は船のあちらこちらに置かれていて、
しかも気の遠くなるほどのアイテムの多さでした。

それらの場所を把握し、メニューに応じて材料を集めてくる。
それだけの仕事のために人が必要だったということです。

このドアの内側もかつては生鮮食料品が置かれていたため、
エアコンがいつも効いていたようで、「開放禁止」とあります。

いきなりこのような何もない(ように思える)空間に出てきました。

ミッドウェイ」のような巨大な空母に必要な物資を運び入れるのも
専門の係を必要とする大変な仕事です。

かつてその仕事についていたベテランは

「3,000パウンド(約1.4トン)もの貨物を4階もの地下まで降ろす時は
本当に神経を払ったものだよ。
ゆっくりゆっくりと下ろしていくんだが、なかなかエキサイティングな仕事だった」

と語っています。
まあ、お仕事を楽しんでおられたようで何よりです。

右側で笑っている人が持っているのはワイヤを降ろすためのスイッチでしょうか。
それにしても写真に写っている水兵さんたち、皆幼いですね。

下の階は「オフィサーズ・カントリー」(士官居住区)とあります。
アクリルの板が張られて降りることはできませんが、覗くと
居室に組んだ足が見えています。

これが「脚だけ」の展示である、に1ミートローフ。

ハッチの「19」は、オーディオツァーの説明の番号です。
「サプライ・デパートメント」とありますので、補給部門の説明をしてくれるのでしょう。

CHAPはこの先にある教会、つまりチャペルを意味するのだと思います。
その下の緑の看板は

「考えよ 我々の目標は無事故である」

という標語が書かれています。

廊下には人工呼吸の方法が図解で。
実際に訓練していなくても毎日のように見ていたらなんとかなるだろう、
という期待の元にこういうものが目につくところに貼ってあるわけですが、
いざとなると資格があったり経験者でもないと、臆してしまって
倒れている人に手は出せないのが普通ではないでしょうか。

市長が大相撲春場所で挨拶中に土俵の上で倒れてしまった件でも、
周りにいる男性の誰一人として呆然として動かず手を拱いていたため、
女性の有資格者が意を決して上がっていったという経緯があります。

わたしは「そう昔から決まっていること」を、特に現在の社会的常識とされること
(得てしてそれは差別という言葉に帰結する)を根拠に覆すことには
基本的に反対なので、女系天皇も「海をゆく」の歌詞も、女性が土俵に上げることも
現状を変えることはしないほうがいい(あるいはよかった)と考えるものですが、
この件では伝統やしきたりより優先するべきは人命救助の緊急性であったのは自明の理です。

まあただ、

「事後、塩をたくさん撒いていた」

ことまでヒステリックに非難するのは如何なものかとは思います。
女性が上がったからというより、それ以前に人が倒れたわけですから、
清めの塩くらい多めにしてもいいんじゃない?

 

さて、閑話休題。

というわけで艦内教会です。
日本の軍艦にも艦内神社は必ずありましたし、現在も自衛艦には
船の大きさの大小を問わず神棚が備え付けてあります。

軍艦の中ということをあまり感じさせない木を基調としたインテリアで、
心の安らぎを求めてやってくる乗員たちへの配慮が行き届いています。

しかし椅子が24隻しかないようですが、こんなのでことが足りたのでしょうか。

 

注目すべきはステンドグラスです。
自然光を通す一般の教会と違い、船の中の教会はライトを透かしたものです。

モチーフは太陽と空、そして海と星。

室内の内装そのものがキリスト教然としていないのは、この頃のミッドウェイには
ユダヤ教や仏教の礼拝が行われることもあったということでしょうか。

その隣には士官の個室がありました。
階級は中佐ですが、机の上に広げられている本はどうも賛美歌と
聖書のように見えます。

奥にかかっている軍服をアップにして見ました。
中佐(コマンダー)を表す3本線の上には通常星のマークがありますが、
これは十字架、つまりここは教会のチャプレン、従軍牧師の個室です。

そしてそのお隣は?

フライトスーツとギアがさりげなく置いてあるので、彼はパイロットですね。
ブルーの錨のマークには

「NAVY-MARINE CORPS RELIEF SOCIETY」海軍ー海兵隊互助協会

のものです。
1904年に設立された非営利団体で、海軍と海兵隊のメンバーに
経済的、教育的、その他の援助を行うためのファンドを運営しています。

これがなぜここに張られているのかというと、おそらく展示のために
基金からのなにがしかの援助が行われたのではないかと思います。

士官の個室には専用の洗面台もあるので、朝は快適です。
流石にシャワーまでは付いていません。

アメリカの洗面台は鏡が扉になっていて、開けると薬棚がありますが、
ここも軍艦の中ながら同じ仕様のようです。

辞書を見ながらタイプライターで何かお仕事をしていますが、
チョコチップクッキーを齧りながらはいただけませんなあ。

アメリカ社会では夜にチョコチップクッキーが振舞われることが多く、
ホテルなどでもよく夜にフロントの横を通りかかると
チョコチップクッキーが誰でも取れるように置いてあります。

なぜ夜なのか、なぜチョコチップなのか、いまだにわかりません。

おそらく彼は夜士官用キッチンを通りかかって、
クッキーとコーヒーを持って自室に戻り、仕事をしながら
ささやかな背徳?を楽しんでいるところなのでしょう。

それはそうと、彼の後ろには「ヒンズー教」「ユダヤ教」「カトリック」
「イスラム教」「プロテスタント」「仏教」についての本があり、
ヘルメットにはなぜか十字の印が刻まれています。

ということは、この士官も宗教関係・・・?
アメリカには「司祭パイロット協会」なるものがあって、
パイロットの資格を持ちその布教活動に航空機を用いる司祭の協会、
なんだそうですが、このパイロットもそういう「空飛ぶ司祭」なのかしら。



一般的に、空母には牧師が必ず最低一人は乗り組むことになっています。
戦時中はバラオ級潜水艦にすら乗り込んでいたらしいことが、
バトルシップ・コーブの潜水艦「ライオンフィッシュ」見学でわかりましたが、
今は流石にないような気がします。

「ノーチラス」の南極行きも、いわゆる司祭がお祈りで使う「セット」はありましたが、
実際に牧師が乗り込んでいたという記録はありません。
乗員に一人くらい牧師の資格を持つ者がいたのかもしれませんが。

さて、空母の牧師の階級は特に決まっていませんが、一般的に
上級将校が多く、佐官以上というイメージがあります。

お祈りのお勤め以外にも、乗員の人生相談に乗ったり、
あるいは告解などを聞いたりするので、あまり若いとダメなのでしょう。

カトリックやプロテスタントなど、個人的には何らかの宗派に属しているはずですが、
艦内で行われるミサや集会の時には、集まる信者によって
カトリックになったりプロテスタントになったり、結構アバウトだったようです。

軍人の人種も様々となった昨今では、「ミッドウェイ」でも
仏教徒、イスラム教などの集まりや儀式が行われていたそうですが、
キリスト教の牧師のような職種は海軍には現在もありません。

「ミッドウェイ」がバトルグループを組織して行動している間などは、
「ミッドウェイ」乗組の牧師が全艦艇の宗教行事をはしごして回ることになっていました。

どうやってするかというと、ヘリコプター部隊の出番です。

毎週日曜日になると、ヘリコプターは牧師さんを乗せて、一つづつ
機動部隊の艦艇を訪れ、お祈りが終わるとはい次、はい次、といったように
お祈り巡幸?を行なって回るのです。

これを

「ホーリー・ヒーロー」HOLY HELO

と海軍では称しています。
カタカナで書くとまるで「聖なるヒーロー」みたいでかっこいい響きですが、
この場合の「ヒーロー」は海軍式のヘリコプターの略称です。

どうやらチョコチップクッキーの士官さんは、ホーリーヒーローの牧師なので、
自分で操縦するわけではないですが、そのお勤めの時にパイロットスーツをきて
ヘリに乗り込んでいたってことなんでしょうね。


海上自衛隊の掃海部隊では、水中処分員というダイバー資格者を
ヘリコプターから海中に降ろすことを

「ヘローキャスティング」(Helocasting)

といいますが、この「ヘローキャスト」の「ヘロー」も英語では
どちらかというと「ヒーロー」と発音することになっています。

RとLの発音は英語の人には全く別の発音と認識されるので、
わたしたちが思うほど「英雄」と似てるとは思わないみたいですが。

余談ですが、ヘリコプターのことを「ヒーロー」というのは海軍だけで、
陸軍も空軍も、ヘリは「チョッパー」と呼んでいるそうです。

「チョッパー」という言い方(何をチョップするのか)は非常にカジュアルで、
正式なものではないという説もありますので念のため。

 

この「ホーリー・ヒーロー」の際、ヘリ部隊にもちょっとした役得があります。
牧師さんをハシゴさせる際、ついでに郵便物を配ったり物資を運んだり、
といった用事もすることから、そういうものに餓えた?艦艇の乗員からは
えらく感謝され、お礼の品を積んで帰ってくることもしばしばあったということです。


つまり、ちょっとした「ヒーロー」扱い・・・?


続く。