2023年春のブログです
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東直己さんの『鈴蘭』(2010・角川春樹事務所)を読む。
私立探偵・畝原シリーズの第8作。
生きる哀しみと喜びを描いている、と思う。
いい小説だ。
このところ、樋口有介さんと東直己さんの小説にはまっていて、ずっと読み続ける毎日。
幸せな日々だ。
主人公の畝原は、第4作の『熾火』で関わりのできたみなしごを引き取り、養女とし、さらに、長年、娘の学童保育を通じて付き合いのあった女性とその連れ子と一緒に生活をするようになる。
娘と再婚した女性の連れ子の女の子と養女との3人の女の子の父親となって、なかなかにぎやかだ。
第5作から第8作まで、畝原が私立探偵として関わる事件とともに、女の子たちの成長ぶりが読んでいて楽しいが、特に養女となったみなしごの成長ぶりにとても癒される。
その子は、保護された時、虐待の跡があり、学齢期なのに言葉をまったくしゃべれず、腎臓が一つないという人身売買の被害者だったのだ。
その子が、本当に少しずつ言葉を身につけていく様子が感動的だ。
第8作もあらすじはあえて書かないが、生きることが下手な老人の哀しみが描かれるといってよいのかもしれない。
悪気がないのに、迷惑をかけてしまう人生は哀しそうだ。
しかし、急に生き方を変えられるわけもなく、哀しみは続く。
生きることはなかなか大変だと思う。
そんな中で出会う小さな幸せは尊い。大切にしたい。
そんなことを描いている小説ではないかと思う。 (2023.4 記)