ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングやメールカウンセリングなどをやっています

東直己『鈴蘭』2010・角川春樹事務所-私立探偵・畝原シリーズ第8作、生きる哀しみと喜びを描く

2024年04月15日 | 北海道を読む

 2023年春のブログです

     * 

 東直己さんの『鈴蘭』(2010・角川春樹事務所)を読む。

 私立探偵・畝原シリーズの第8作。

 生きる哀しみと喜びを描いている、と思う。

 いい小説だ。

 このところ、樋口有介さんと東直己さんの小説にはまっていて、ずっと読み続ける毎日。

 幸せな日々だ。

 主人公の畝原は、第4作の『熾火』で関わりのできたみなしごを引き取り、養女とし、さらに、長年、娘の学童保育を通じて付き合いのあった女性とその連れ子と一緒に生活をするようになる。

 娘と再婚した女性の連れ子の女の子と養女との3人の女の子の父親となって、なかなかにぎやかだ。

 第5作から第8作まで、畝原が私立探偵として関わる事件とともに、女の子たちの成長ぶりが読んでいて楽しいが、特に養女となったみなしごの成長ぶりにとても癒される。

 その子は、保護された時、虐待の跡があり、学齢期なのに言葉をまったくしゃべれず、腎臓が一つないという人身売買の被害者だったのだ。

 その子が、本当に少しずつ言葉を身につけていく様子が感動的だ。

 第8作もあらすじはあえて書かないが、生きることが下手な老人の哀しみが描かれるといってよいのかもしれない。

 悪気がないのに、迷惑をかけてしまう人生は哀しそうだ。

 しかし、急に生き方を変えられるわけもなく、哀しみは続く。

 生きることはなかなか大変だと思う。

 そんな中で出会う小さな幸せは尊い。大切にしたい。

 そんなことを描いている小説ではないかと思う。     (2023.4 記)

 

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東直己『悲鳴』2001・角川春樹事務所-東直己さんの私立探偵・畝原シリーズの第3作です

2024年04月08日 | 北海道を読む

 2023年春のブログです

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 東直己さんの小説『悲鳴』(2001・角川春樹事務所)を久しぶりに読む。

 このところ、樋口有介さんと東直己さんの小説にはまってしまい、ずっと読み続けている。

 この小説は、東さんの私立探偵・畝原シリーズの第3作。

 ご存じのかたもいらっしゃるかもしれないが、東さんにはススキノ探偵シリーズがあって、映画化もされて、それなりに知られているが、こちらの私立探偵・畝原シリーズも負けないくらいに面白い。

 舞台はやはり札幌。

 地元の元大手新聞の記者だったが、事件関係者の陰謀で誤認逮捕をされ、新聞社を解雇された中年男性が主人公。

 奥さんに逃げられ、小学生の女の子を育てながら、私立探偵をして生計を立てている。

 その畝原の正義感と、以前と変わらずに友情を示してくれる友人らの姿が読んでいてすがすがしい。

 しかし、仕事に関わって起きてくる事件はおどろおどろしていて、現代的な理解を超えたような事件の連続。

 一種の現代風俗小説のようでもある。

 第3作である『悲鳴』も同じ。

 あらすじは書かないが、差別、ホームレス、宗教、利権、腐敗、などなど、現代の闇を描く。

 一服の清涼剤は、畝原の一人娘と、畝原の友人の息子で、畝原の空手の弟子である青年の関わり。青春である。

 おどろおどろしい事件の中で、主人公の愚直さとユーモアが楽しい。

 読後感は悪くない。

 絶望を抱きそうにもなるが、生きてゆくこともよさそうとも思える。

 良質の小説ではないかと思う。    (2023.4 記)

 

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坂本直行『雪原の足あと』1965・茗溪堂-直行さんの画文集を姿勢正しく(?)読む

2024年04月04日 | 北海道を読む

 2020年4月のブログです

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 坂本直行さんの画文集『雪原の足あと』(1965・茗溪堂)を読む。

 ふだん読書の時は座椅子に寝っ転がって読んでいるので、大きな本は敬遠気味だが(直行さん、ごめんなさい)、今回は姿勢正しく直行さんの大判の本を読む。

 直行さんが原野での開墾生活をやめて、画業一本になってからの本で、山歩きの話や開墾生活の思い出が語られ、それに山や花の絵が添えられている。

 とても贅沢な本で、六花亭の包装紙で有名なきれいな花々や六花の森の売店の絵葉書などでしか見れなかったすばらしい山の絵が、大判の本の中にいっぱいだ。

 見ていると気持ちがすがすがしくなってくる。

 こころが疲れた時などには、ぜひ眺めたいと思う。

 今後は姿勢正しく(?)、直行さんの本を読んでいきたい。    (2020.4 記)

     *

 2024年春の追記です

 今も直行さんのこの本は、姿勢正しく読みたい、と思っているが、たまには寝っ転がって読んでみたい(?)、ような気もする。

 この本も文庫本で出てくれると、六花亭のおせんべい(そんなのあったかな?)をポリポリかじりながら、寝転んで読めそうだ(!)。

 山渓さん、頑張ってね(?)。  

 と、ここまで書いて、念のため、調べてみたら、去年にもう文庫本が出ていた(直行さん、山渓さん、ごめんなさい)。

 これは買うしかないね(!)。     (2024.4 記)

 

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喜多由布子『知床の少女』2007・講談社-北のじーじとばーばの知恵に学ぶ

2024年04月03日 | 北海道を読む

 2020年春のブログです

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 喜多由布子さんの小説『知床の少女』(2007・講談社)をしばらくぶりに読みました。

 いい小説です。

 涙もろいじーじは、終わりのほうは、涙じわーんで読んでしまいました。

 高校受験に失敗をして、浪人中の女の子が主人公。

 家庭不和もあって、精神的に余裕がなくなっています。

 そんな女の子に、札幌に住むじーじが遊びに来ることをすすめます(いいじーじですね)。

 そして、じーじのはからいで知床で水産工場を営む、さくらばあ、というばーばのところに。

 そこで、働く人たちとの生活の中で、女の子は本当にだいじなことはなにかを学んでいきます。

 飾りはないけど、質素で純朴な人たち。

 厳しいけれど、こころ温かい人々とのやりとりの中で、女の子は都会では見失われている大切なものに気づいていきます。

 いわば、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』の北海道版みたいな素敵な小説です。

 明るいだけでなく、哀しみもあるところが北海道らしいのかもしれません。

 喜多さんの文章はシンプルだけど、力強く、そして、美しい日本語で読みやすく、あっという間に読んでしまいました。

 いい小説が読めて、今、しあわせな瞬間を味わっています。

 明日からまた頑張ろうという勇気をもらえたような気がします。    (2020.4 記)

 

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佐々木譲『ユニット』2005・文春文庫-DVと犯罪被害者遺族を描く

2024年03月30日 | 北海道を読む

 2021年3月のブログです

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 佐々木譲さんの『ユニット』(2005・文春文庫)を読みました。

 すごく久しぶり。

 本棚の発掘作業をしていて(?)、偶然、見つけました(佐々木さん、ごめんなさい)。

 緊張感のある小説で、ハラハラ、ドキドキ、しながら読みました。

 年寄りの心臓には少し悪い(?)小説です。

 テーマはDVと犯罪被害者遺族。

 舞台は北海道。

 あらすじはあえて書きませんが、DV被害者とDV加害者、それに、妻子を殺された遺族とその犯人らが織りなす人間模様を綿密に描きます。

 DVの怖さと異常さ、二面性が怖いくらいに描きこまれていますし、殺人事件の遺族のうらみと憎しみ、そして、それからの離脱も描かれます。

 読んでいると、人間が怖くなると同時に、少しだけ希望も持てるかもしれません。

 人間はとても弱い存在ですが、案外捨てたもんでもないな、と思えるかもしれません。

 いい小説に再会できたことに感謝をしたいと思います。    (2021.3 記)

 

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坂本直行『原野から見た山』2021・ヤマケイ文庫-直行さんの名著が山渓の文庫になりました!

2024年03月27日 | 北海道を読む

 2021年3月のブログです

     * 

 坂本直行さんの『原野から見た山』(2021・ヤマケイ文庫)を読みました。

 単行本は1957年に出版され、1973年に茗溪堂から復刻版が出ていて、これまでじーじはこの復刻版を読んでいたのですが、大きな本でじーじのように寝っ転がって本を読む人間にはなかなか大変でした(直行さん、ごめんなさい)。

 今度は文庫本ですので、行儀の悪いじーじでも安心です。

 本は小ぶりになりましたが、印刷がとてもきれいなので、見劣りはしません。

 素敵な文庫本です。

 戦前、南十勝の牧場に開拓で入った頃のお話やそこから見た日高山脈のスケッチ、大雪山や斜里岳への山旅、そして、最後の山旅と覚悟しての石狩岳登山などのお話とスケッチなどからなります。

 当時の大雪山ののどかさはとても素敵ですし、熊を逆におどかして楽しむ直行さんは豪快です。

 斜里岳山麓に1人で暮らす農夫とのやりとりも直行さんらしくユーモラスで、とても愉快。

 そして、昭和18年の石狩岳登山。いつ兵隊に取られてもおかしくない時世の中で、生きて山に登れるのはこれが最後かもしれない、と覚悟をしての登山は胸にせまるものがあります。

 直行さんの絵のすばらしさを改めて味わうことができて、幸せ。

 宝箱のような文庫本です。      (2021.3 記)

 

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八木義徳『北風の言葉』1980・北洋社-どさんこ作家の文学的自伝エッセイを読む

2024年03月02日 | 北海道を読む

 2020年3月のブログです

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 北海道室蘭市出身の作家八木義徳さんのエッセイ集『北風の言葉』(1980・北洋社)を久しぶりに読みました。

 だいぶ前に北海道の古本屋さんで買って読んだはずなのですが、中身をほとんど忘れていて、今回、本棚の隅に見つけたので手にしました。

 いい本です。

 文章が美しいというか、端正というか、読んでいて心地よくなる本です。

 北海道を旅した紀行文や随筆、そして、文学的自伝からなりますが、じーじはこの文学的自伝に圧倒されました。

 もともと、「北海道新聞」に1971年に連載されたものらしいですが、すごい迫力です(当時、じーじは高校生で旭川でうろうろしていたはずですが、当然、読んでいませんでした。八木さん、ごめんなさい)。

 室蘭時代の思い出、北大時代の文学への目覚め、左翼運動と転向、早稲田大学での同人誌修行、作家横光利一との出会いと師事、出征地での芥川賞受賞、戦後のどさんこ作家たちをはじめとする小説家たちとの交友、などなどが、端正な文章で描かれます。

 ひとりの真摯な男の生きざまがしっかりと描かれます。

 そして、過不足のない美しい文章は北海道の広々として美しい風景を思い出させるような感じがします。

 同じどさんことして、このぜいたくな感覚を共有できる喜びをとてもうれしく思いました。

 今後は八木さんのような端正な文章を書くことを目標にして頑張っていきたいなあ、と切に思いました。    (2020.3 記)

 

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立松和平『魂の置き場所』2007・柏艪舎-立松和平さん・知床・ヒグマくん

2024年02月29日 | 北海道を読む

 2015年のブログです

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 何かいい本はないかな,と本棚を眺めていたら,黄緑色の背表紙が目にとまりました。

 見てみると,黄色のキタキツネの絵,和平さんの知床のエッセイ集でした。

 2007年の本なので,8年ぶりです。

 和平さんは仕事で知床に友人ができ,山荘を購入したという人。

 ずいぶん知床に惚れこんでいたことがわかります。

 うらやましい! 

 もっとも,学生時代に,利尻や知床を貧乏旅行していたようですから,素質はあったのかもしれません。

 クマやシカ,サケ,そして道産子についてのお話は興味深いです。

 特に,クマと人間が共存をしているというルシャの番屋のお話はなんど読んでもびっくりします。

 じーじもふるさと北海道をさらに再発見していきたいなと思いました。    (2015.7 記)

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 2022年5月のブログです

 先日、残念なことに知床で観光船の事故が起こってしまいましたが、知床はいいところです。

 じーじも20数年前に一度だけ観光船に乗りましたが、雄大な景色を堪能しました。

 もっとも、貧乏なじーじは岬の先端まで行く船には乗れずに、途中のカムイワッカの滝が海に落ちるところまでしか行けませんでしたが、それでも感動したことを覚えています。

 もう一度、チャンスがあったら、ぜひ乗ってみたいです。    (2022.5 記)

 

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小檜山博『人生讃歌』2016・河出文庫-どさんこの本音を懐かしく読む

2024年02月29日 | 北海道を読む

 2017年のブログです

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 どさんこの小説家である小檜山博さんのエッセイ集『人生讃歌』(2016・河出文庫)を読みました。

 2016年の本ですが、なぜか読みそびれていて(小檜山さん、ごめんなさい)、今回、旭川の本屋さんで偶然見かけて読みました。 

 いい本です。

 JR北海道の車内誌に連載中とのことで、軽く読めるエッセイですが、中身は小檜山さんの小説のように、時には重く、時には哀しく、しかし、愚直で、誠実な生き様がすごいです。

 素敵な人たちがたくさん出てきます。 

 女の子が母に頼まれて持っていた闇米を事情を知って見逃してくれるお巡りさん、小檜山さんと知らずに小檜山さんの小説を読んで生きてこられたと話す靴磨きの老婆、アル中の患者に代金は持ってこないかもしれないぞと言われて、それでも待っているぞと怒鳴る貧乏医師、などなど。

 すごい人たちばかりですし、彼らと巡り合い、それをお話にできる小檜山さんの力量もすごいです。

 小檜山さんは大雪山の東側の滝上町の育ち、じーじは西側の旭川の育ちで、くしくも大雪山をはさんで、両側から同じ山を眺めながら育ったことになります。

 だから、小檜山さんの描く大雪山の描写には、とても懐かしい気がしますし、癒されます。 

 また、小檜山さんのご両親は東北の飯豊山の東側の会津の出身、じーじは今、飯豊山の西側に位置する新潟で暮らし、散歩の時は飯豊山を眺めながら歩くのが楽しみなので、小檜山さんの描く飯豊山の描写にも癒されます。

 ふるさとを同じにするすてきな小説家と同じ時代を生きられる喜びをつくづくと感じます。      (2017.8 記)

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 2023年3月の追記です

 北海道滝上町に高橋武市さんという人が作られた陽殖園という自然庭園があります。

 この自然庭園をさとうち藍・著、関戸勇・写真『武市の夢の庭』(2007・小学館)という本が紹介しています。

 写真の美しい、素敵な本です。   (2023.3 記)

 

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久保俊治『羆撃ち』2012・小学館文庫-羆(くま)撃ちという生き方

2024年02月06日 | 北海道を読む

 2019年のブログです

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 久保俊治さんの『羆撃ち』(2012・小学館文庫)を再読しました。

 久保さんは、先日、ご紹介をした竹田津実さんの『獣医師の森への訪問者たち』(2018・集英社文庫)に出てきた猟師さんで、じーじはこのお二人が知り合いとは全く知らずに、お二人の本を別々に愛読してきており、本当にびっくりしました。

 竹田津さんの本を読んでいるうちに、この名作をもう一度味わってみたくなり、さっそく読んでみました。

 椎名誠さんが本書の帯に、その研ぎ澄まされた感性に羨望する、と書いておられますが、クマを追い詰め、クマと真剣勝負をする久保さんとクマとの死闘は本当にすごい!の一言につきます。

 命がけという言葉が大げさではない世界で、クマも久保さんも全力で闘います。

 その緊張感は、人間も動物の一員なんだなと思わせるものがあります。

 久保さんは途中からフチという名のアイヌ犬を育てて、狩猟の相棒とします。

 このフチと久保さんのやりとりがまたすばらしい世界です。

 詳しいことは書きませんが、両者の信頼関係の美しさには本当に羨望します。

 人間の世界でも、こんなに美しい関係はめったに見られないかもしれません。

 北海道の大地を舞台にしたすばらしい物語を味わうことができました。

 今年の夏は、この物語の舞台となった標津の森と山に行ってみたいなと思います。     (2019.3 記)

 

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竹田津実『獣医師の森への訪問者たち』2018・集英社文庫-北海道を読む

2024年02月05日 | 北海道を読む

 2019年冬のブログです

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 竹田津実さんの『獣医師の森への訪問者たち』(2018・集英社文庫)を読みました。

 竹田津さんの本を読むのは久しぶり(竹田津さん、ごめんなさい)(なお、前に『北の大地から』などのブログを書いていますので、よかったら読んでみてください)。

 さて本書、すごく面白かったです(面白すぎて、つい笑ってしまうので、電車の中で読むのは要注意かもしれません)。

 竹田津さんが獣医師として北海道の小清水町に赴任してからの仲間や後輩たちとの活躍が描かれます。

 しかし、主役は北海道の野生の動物たち。

 キタキツネ、エゾリス(キタリス)、モモンガ、シマフクロウ、などなど。

 少し小さめですが(文庫本ですからね)、動物たちの写真もかわいいですし、竹田津家の子どもさんたちと動物の交流もかわいいです。

 小清水町は知床の入り口にある町で、じーじも毎年のように小清水町の道の駅を利用しますが、こんなに自然が豊かで、いろいろな動物たちがいるとは気づきませんでした、

 竹田津さんのお仲間の中には、動物たちと同じような存在になって、動物たちと普通におつきあいをしている人たちがいて、うらやましいなあ、と思いながら読ませてもらいました。

 そして、びっくりしたのは、猟師の久保俊治さん。

 竹田津さんはお仲間たちと映画『キタキツネ物語』を作り(竹田津さんは『キタキツネ物語』の作者なんです)、久保さんはそこに猟師役で出演されたそうですが、その久保さんが名作『羆撃ち』(2012・小学館文庫)を書いた久保俊治さんのことだとわかり、その偶然に本当にびっくりしました。

 また、久保さんの猟師の体験を聞いて、竹田津さんがステン・ベルクマンの『千島紀行』(先日、ブログで紹介しました)に出てくる沢口さんという猟師を思い出すところがあり、ここもびっくり。竹田津さんを本当に身近に感じてしまいました。

 今年の夏は、またまた小清水町にもお邪魔をして、じーじも少しでも動物たちを同じような存在になるべく、年老いたただのじーじの動物になることを(?)目指そうと思いました。   (2019.2 記)
 

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本多勝一『北海道探検記』1985・集英社文庫-人のいない北海道を歩く

2024年01月27日 | 北海道を読む

 2020年2月のブログです

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 本多勝一さんの『北海道探検記』(改訂版・1985・集英社文庫)を再読しました。

 この本もかなりひさしぶり。

 本棚の隅っこに隠れていたのを(?)見つけて読みました。

 探検記、ということで、観光地ではなく、人のいないところを訪ねる旅です。

 人混みが嫌いらしい(?)本多さんと意見が一致してしまい、思わず引き込まれてしまいました。

 知床の山奥、離島、根釧原野、天北の開拓地などを巡りますが、今回、わたしが印象に残ったのが、日高の奥高見部落。

 当時の5級僻地校という少人数の学校が紹介されていますが、ここがすばらしい。

 子どもたちの夢が、海を見ること、という山奥の素朴な子どもたち。

 授業は複数の学年が一緒の複式学級ですが、地元出身の先生が中心となって音楽教育に力を入れていて、日高地区のコンクールで優勝をしたりしています。

 本多さんにもすばらしい演奏を披露して、本多さんは本気で感動をされます。

 成績よりも大切なものを大事にしている先生方の努力に脱帽をされます。

 しかし、数年後に再訪をしようとしますが、部落は全員引き揚げで消滅、学校も廃校となってしまいます。

 北海道の厳しい現実と直面をする旅でもあります。

 根釧原野や天北でも同じようなケースに遭遇。

 敗戦直前の拓北農兵隊を思い出させるような、無謀な開拓の姿を見せつけられます。

 もっとも、その自然の厳しさが北海道の魅力でもあります。

 今年の夏は、本多さんの『北海道探検記』を片手に、あちこちを回ってみたいと思いました。   (2020.2 記)

 

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更科源蔵『北海道の旅』1979・新潮文庫-北海道を再発見する旅

2024年01月25日 | 北海道を読む

 2020年1月のブログです

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 更科源蔵さんの『北海道の旅』(1979・新潮文庫)をかなり久しぶりに再読しました。

 だいぶ前に古本屋さんで買った本で、150円というシールが貼ってあります。

 しかし、中身はなかなか充実しています。

 どさんこのじーじでも、へえー、そうなんだ、とびっくりするような内容がたくさん出てきます。

 特に、火山や地震など、自然関係の知識で教えられることが多くありました。

 今はまったく静かに見える山や湖が、近くは明治や江戸時代の頃に大きな変動があったりして、驚かされます。

 北海道の自然の美しさを見る眼が少し豊かになるような気がします。

 また、自然だけではなく、アイヌやオホーツク人の人々の生活やその後の和人の進出など、歴史を考える内容も豊富です。

 更科さんは道東の開拓部落の出身、その苦闘ぶりは小説『原野』などに詳しいですが、そういうこともあってか、開拓と人々の生活、近代化と自然などなど、考えさせられるテーマは多いです。

 今年の夏の北海道旅行が楽しみになってきました。  (2020.1 記)

 

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東直己『後ろ傷』2006・双葉社-『ススキノ、ハーフボイルド』の秀才くんが北大を落ちてからのお話です

2024年01月24日 | 北海道を読む

 2020年1月のブログです

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 東直己さんの『後ろ傷』(2006・双葉社)を再読しました。

 昨年末に、東さんの『半端者』を久しぶりに読んで以来(ブログがありますので、よかったら読んでみてください)、不覚にも東ワールドにすっかりはまってしまい、年末年始はススキノ探偵シリーズにどっぷり浸かってしまいました。

 探偵シリーズの姉妹編(?)で札幌南高の秀才を描く『ススキノ、ハーフボイルド』(2003・双葉社)(すみません、まだ、感想文が書けていません)も面白く、当然(?)、続編の本書も読んでしまいました。

 主人公は北大合格が間違いなしと思われていたところが、まさかの不合格。

 やけになって偏差値最下位の道央学院国際グローバル大(略してグロ大)に進学しますが、そこで自他のさまざまな偏見に気づかされ、青春の悩み(!)と直面します。

 学友との交友などで新たな発見もあったりして、少しずつ精神的に成長をするわけですが、そこにススキノ探偵らの素敵なおとながからんできて、物語が展開します。

 社会問題や歴史、さらには、東さんの専門だった哲学のお話なども出てきて(東さんは北大哲学科中退です)、なかなか教養あふれる(?)いい小説です。

 主人公のガールフレンドとの交際も初々しく、青年の成長のお話でもあります(今どき、こんな男女はいなくなったかもしれませんが…)。

 蛇足ですが、裁判所の法廷の場面も出てきて、裁判所で働いてきたじーじにはとても面白く読めました。

 切ない小説でもありますが、ところどころにユーモアが散りばめられていて、ドキドキしながら読み進められます。

 読後感は悪くありません。

 いい小説を読めて、いい年末年始だったなと思います。   (2020.1 記)

 

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渡辺一史『北の無人駅から』2011・北海道新聞社-北海道を読む

2024年01月15日 | 北海道を読む

 2015年のブログです

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 本棚からまた北海道の本を見つけました。

 渡辺一史さんの『北の無人駅から』(2011・北海道新聞社)。

 4年ぶりです。

 北海道の六つの無人駅にまつわるエッセー集です。

 じーじが特におもしろく読んだのは釧網本線の茅沼駅の文章。

 前回は読み方が浅かったのか,今回もまったく新鮮に読めました。

 いい本はこういう楽しみがあります。

 絶滅寸前だったタンチョウにかかわるいろいろな人々の行ないや思いなどが綴られていて,考えさせられます。

 また,いちどは絶滅をしてしまった新潟のトキなどとの対比についても書かれていて,こちらも考えさせられます。

 そして,自然保護や生活や開発,動物との共存など,表面的でない深い思索と地についた取材と考察が見事です。

 北海道新聞は北海道の地元の新聞ですが,なかなか硬派で,北海道に旅行をした時は愛読をしています。

 今後も良い記事と書籍を発行していってほしいなと思いました。      (2015 記)

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 2024年1月の追記です

 家裁調査官の仕事をしていた頃、出張で無人駅を利用することが時々ありました。

 無人駅なので、駅前からバスが出ているようなことも少なく、たいていは当事者のお宅まで歩きましたが、雨や雪などの時には苦労しました。

 仕事を終えて、無人駅に戻っても、自販機などがないところもあって、持参の水を飲んだりして、列車を待ったものです。

 しかし、そんな無人駅でも、列車通学をしている高校生が必ずいて、感心をしました。

 無人駅と通学列車は、高校生にとってはとても大切な存在であることを実感しました。

 天気が悪い時などは大変でしょうが、そういう苦労は後で必ず生きてくると思います。

 頑張れ!高校生。  (2024.1 記)

 

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