ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングやメールカウンセリングなどをやっています

生地新『児童福祉施設の心理ケア-力動精神医学からみた子どもの心』2017・岩崎学術出版社

2024年11月10日 | 子どもの臨床に学ぶ

 2017年のブログです

     *  

 生地新さんの『児童福祉施設の心理ケア-力動精神医学からみた子どもの心』(2017・岩崎学術出版社)を読みました。

 とても勉強になりましたし、事例がすごいです。

 生地さんは児童精神科医で北里大学教授、そして、精神分析学会の前会長でもあります。

 温厚なかたで、あまり過激なことをおっしゃらないので、じーじなどは学会に出ていても、最近まで生地さんが児童精神科医でいらっしゃることを知らずにいて(生地さん、ごめんなさい)、生地さんのすばらしいお仕事に気づくのがずいぶん遅くなってしまいました。

 しかし、本書はいい本です。

 前半は、児童福祉施設に入所している子どもたちの様子やこころの発達状況などについてていねいに述べ、施設における心理療法の実際とスーパービジョンなどについて解説をされています。

 こどものこころや立場を本当に大切にして、細やかな配慮をされている様子がよくわかり、感動的です。

 後半は、事例の紹介と解説で、特に、境界例の母親に育てられた多動性の子どもさんの援助のケースは、じーじも家庭裁判所で同じようなケースを担当して苦労をした経験がありますので、その大変さがしみじみとわかり、こころが痛くなる思いでした。

 なかなかつらい事例もありますが、生地さんの子どもさんへの温かな思いと確かな力量が示されて、読んでいるうちにかすかな希望が胸の中に湧いてくるような印象も持てる本だと思います。

 今後も折にふれて、読んでいきたいなと思いました。         (2017 記)

 

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朝井リョウ『世界地図の下書き』2016・集英社文庫-苦難の中にいる子どもたちの友情と希望を描く

2024年11月10日 | 小説を読む

 2016年のブログです

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 若者の世界をていねいに描き続けている小説家、朝井リョウさんの『世界地図の下書き』(2016・集英社文庫)を読みました。

 子どもたちの苦しさの状況を描いた小説ですが、感動的な小説で、一気に読んでしまいました。

 朝井さんは若いのに、人々の苦しみや悲しさ、憎しみ、いやらしさ、醜さなどなどがよくわかっているようです。

 いや、若いからこそ、救いのないようないまの世の中がわかるのかもしれません。

 物語は家庭の事情などで親と別れて暮らしている児童養護施設の子どもたちの日常。

 家庭での虐待、学校でのいじめ、進学できない絶望的な状況などなど、いまの社会の現実が描かれます。

 そんな中で、わずかな希望や楽しみ、助け合い、がんばりなどが描かれます。

 虐待家族の虐待を超えての再統合、いじめを超える希望、たしかな大人からの援助などなど、いまの社会にも希望があることも描かれます。

 決して楽観的なことはひとつも描かれません。

 厳しい、過酷な現実がこれでもかと突きつけられますが、作者は希望を失うことはありません。

 先も思いやられますが、しかし、登場人物たちは涙を流しながらも、何とか生きていくのではないか、という予感を抱けます。

 楽観的ではないものの、決して悲観はせずに、しぶとく生きていけそうな、そんな小説だと思います。              (2016 記)

 

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