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以前の投稿で、ホセ・クーラと同年生まれのディミトリー・ホロストフスキーとを並べて紹介しました。
→「ホセ・クーラとディミトリー・ホロストフスキー Jose Cura & Dmitri Hvorostovsky」
今回は、やはり同年生まれで、クーラと同郷のアルゼンチン出身、同じテノールのマルセロ・アルバレスのことをみてみます。
テノールのクーラとアルバレスは、ともにアルゼンチン出身です。そして同じ1962年生まれ。
マルセロ・アルバレスは2月にコルドバで、クーラは12月にロサリオに生まれました。20代の下積み時代に、2人はテアトロ・コロンのコーラスで一緒に活動して以来の友人だそうです。
2人の10代、青年期、アルゼンチンは軍事政権下で、1982年にはアルゼンチンとイギリスとの間で、フォークランド戦争が勃発しました。徴兵でクーラは待機中の予備軍にいたそうです。友人も出兵し、後にクーラは「私は戦争が短かったことを神に感謝した」と回想しています。戦争の犠牲者を追悼するレクイエムを作曲したクーラ。平和と自由への思いはこの時代からいっかんしたものなのでしょう。
→「ホセ・クーラ 平和への思い、公正な社会への発言」
軍政終了後も経済が崩壊し、2人の前途は困難でした。大学で作曲と指揮を専攻し、作曲家・指揮者が志望だったクーラは、スポーツクラブのインストラクターや街頭で歌ったりして生計をたてながら、音楽の道を探っていました。アルバレスは子どもの頃から音楽を学んでいましたが、大学では経済学を学び、家業の家具工場で働いていたそうです。
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クーラは1991年にイタリアに渡り、テノールとして国際的な活動を開始します。一方、アルバレスも、30歳の時に歌手になるために歌唱を学び始め、95年にイタリアへ。それぞれ欧州で活躍しはじめます。
若い頃は、2人ともハンサムでしたね(笑)
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2人の故郷への思いはつよく、それぞれアルゼンチン音楽のアルバムを発表しています。クーラ「アネーロ」と「ボレロ」、アルバレスの「わが懐かしのブエノスアイレス」。
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2人一緒にインタビューを受けたこともあります。2人はともにアルゼンチン人であり、アーティストとして、故郷アルゼンチンの音楽と結び付けて一緒に何かしようとプランを練ったこともあったそうです。残念ながら、所属レコード会社の関係などもあったようで、実現はしていません。
リリックな声と端正な歌唱のアルバレス、一方、太く強い声とドラマティックな表現のクーラ。それぞれの個性、味わいは大きく異っています。でも、今、ともに円熟期を迎え、最近では、同じ役柄を歌うことも増えています。
ヴェルディのイル・トロヴァトーレのマンリーコ役は、クーラが2001年マドリッド、02年にロンドン・ロイヤルオペラで歌いましたが、同じプロダクションで少し後に、アルバレスもマンリーコを歌っています。
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Youtubeにアップされている動画から、第3幕のクライマックス、「ああ愛しい人よ」から「見よ、燃え盛る炎を」の場面で。
まずはクーラ。
Ah, si ben mio... Di quella pira - Jose Cura (Il trovatore)
アルバレスの方は、2つに動画が分れています。
Marcelo Alvarez "Ah si, ben mio" Il Trovatore
Marcelo Alvarez "Di quella pira" Il Trovatore
やはりそれぞれ個性が違っておもしろいですね。
また、2人はともにメトロポリタンオペラ(MET)で、道化師とカヴァレリア・ルスティカーナの二本立てを歌っています。クーラはゼフィレッリの演出で2009年、アルバレスは2015年の新演出です。
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クーラの「衣装をつけろ」
Jose Cura 2009 "Recitar! ... Vesti la Giubba" Pagliacci
アルバレスの「衣装をつけろ」
Marcelo Alvarez - Vesti la giubba - Pagliacci
これもだいぶ違いますね。軽めの声とメロディラインが美しいアルバレス、一方、劇的な表現で迫力あるクーラ。それぞれの個性が発揮され、聞く人の好みもそれぞれだと思います。
もともと重めの役をやってきたクーラのあとを追うように、役柄をひろげているアルバレス。一方のクーラは、指揮や演出のキャリアをひろげつつあり、2015年7月には故郷テアトロ・コロンで、自ら演出した道化師・カヴァレリアルスティカーナを上演しました。(クーラはカニオのみ出演)
50代の円熟期を迎えた2人、これからもそれぞれの道を歩み、それぞれの活動が楽しみです。
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