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若い頃のホセ・クーラは、とてもハンサムでした。また少年時代からラグビーをはじめ、さまざまなスポーツに熱中し、一時はセミプロのアスリートだったということで、テノールとしては体格も良く、身長190cm近い頑強な体に恵まれていました。
しかしインタビューでも何度か語っていますが、それゆえに直面した困難も大きく、デビュー後に所属したエージェントから、「セクシーオペラスター」路線で売り出され、自らの芸術への道とのギャップに苦しみ、ついにエージェントと決裂する決断までしています。
→ くわしくは「ホセ・クーラ スターダム、人生と芸術の探求」をお読みください。
これまでのインタビューで、外見についてのクーラの考え方、また自身のフィジカル面について語っています。興味深い部分を抜粋して紹介したいと思います。
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●最大限のものを見せることが責任――2006年インタビューより
人生の30年間をアーティストに相応しくなる努力をしてきたのであって、見た目の良い人間と見られるため費やしたのではない。真面目な音楽家だということを納得してもらうのに数年かかった。
ステージ上でも、私の経歴にも、偶然の結果はない。チャンスも、才能のある人間としての幸運も、メディアが言うような一夜のセンセーションでつくられたものではない。30年間のハードワークの結果だ。
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ただ格好良くサムソンやオテロのような役を歌う方法はない。それでは最後の2幕は歌えない。いくら容姿が優れているからといって、ステージにあがり、そのあと何が出来るのか。
オペラの矛盾点の1つは、素晴らしい声が必ずしも素晴らしい外見に伴うわけではないということだ。基礎はともかく容姿の非常に優れた俳優を想像することはできる。しかし彼が声を持たないなら、その容姿の良い男に声を与えることはできない。
完璧なパフォーマーとは、美しい誰かではない。彼自身の身体で与えうる限りを努力をつくしたプロフェッショナルである。他と比べてではない。自分の最大限のものを見せなければならない。これはアーティストとしての責任だ。
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●強い心肺機能、セミプロのアスリートだった――04年インタビューより
今日においては、ステージに不向きだからといっても逃げられない。私は若かった時、セミプロのボディビルダーで、カンフーのトレーニングも受けていた。しかし24歳の時にそれらをすべてあきらめた。それは私がすすむべきビジョンのためだ。
当時、私の上腕は太すぎて、自分の後頭部に触れられないほどだった。そのころはシュワルツェネッガーと超人ハルクのルー・フェリグノが私たちみんなのヒーローだった。
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長年にわたってセミプロのアスリートだったので、食事法もそこから学んだ。舞台の前には、エネルギー補給のためにパスタの大皿を食べる。メイク、歌、舞台後のあれこれ。一気に5時間、仕事を続けることができる。
20代の5年間は菜食主義者だった。今より20キロ以上、体重は少なかった。今も食事の際のワイン以外に酒は飲まない。なくてはならないものではないが、自宅ではパイプを吸う。外で喫煙はしない。
かつては激しいウェイトトレーニングのために、背中と膝にケガが多かった。しかしジムでの年月のおかげで強い心肺機能をもった。心拍数は安静時52~54、ステージ上においても他の人の安静時の80にすぎない。私は決して息切れしない。
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40代になって、髪と爪のためにビタミンEを含むサプリメント、冬はビタミンCをとる。顔に関してはネアンデルタール人だ。舞台できついメイクをするので、妻にはスパでフェイシャルを受けるよういわれるが‥。
毎晩、初めてステージに上がる時、多少の緊張は必要だ。少しナーバスになるのは当然だし、いいことだ。そして、それが観客との間の距離を縮めるのに役立ってくれる。
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2004年アテネオリンピックの聖火りレーに参加、オリンピック賛歌と「誰も寝てはならぬ」を歌った。
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●「外見がよいと愚か」というのなら・・2010年のインタビューより
Q、あなたのキャリアの初期、雑誌の表紙を飾った。タイトルは「ホセ・クーラーセクシュアル・ドリーム」“Jose Cura- a sexual dream”だったが‥?
A、こうしたキャッチフレーズは私から離れなかった。人々は、私が「セックス・シンボル」だったことを覚えていても、誰も、現在の自分になるために、私がどれほどのハードワークをしてきたかは考えない。
“外見が良く魅力的なら、あなたは愚かだ。賢くて知的なら、ハンサムではありえない”‥こんな決まり文句があるのなら、私は眼鏡をかけ、腹周りを太らせる。これで人々は、私のプロフェッショナルとしての尊厳に気がつくだろうか。
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ヨーロッパデビューから20年以上たち、現在、53歳、体重は若い頃から20キロ以上増え、髪も髭も白いものが目立つようになりました。本人はあえて外見に構わないようにしているようにも思いますが、アーティストとして長年のキャリアを経て、円熟の時を迎えた自然体の姿は、それ自体が魅力的です。自分らしく生きるために、たたかいつづけてきた探求の旅は、まだまだ続きます。
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