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プッチーニのトスカも、ホセ・クーラが1995年以来、60回近く、長く出演し続けているオペラです。
前の投稿でも紹介しましたが、クーラは「人格的な意味で共感できる役柄は、アンドレア・シェニエとマリオ・カヴァラドッシ。両者は類似している。自ら信ずるものを守るために立ち上がり、そしてそのために死ぬ」と述べています。数多いオペラで自分が演じるキャラクターのなかで、カヴァラドッシは数少ない、共感し感情移入できるテノールの役柄の1つのようです。
ちなみに一番多く演じているオテロは、複雑で深い心理をもつ役柄として、取り組むたびに新たな発見があり、一生をかけて分析、解釈し、歌い演じ続けているが、個人的には自分とは似ていないし、感情移入もできる人物ではないと、インタビューなどで語っています。
トスカのカヴァラドッシは、圧政のもとで共和主義者を匿い、拷問にかけられながら、黙秘をつらぬく志ある人物として描かれています。
実は、クーラが青少年期を過ごしたアルゼンチンも、クーデターでつくられた軍事独裁政権の時代(1976年~1982年)でした。
独裁政権に反対する多くの人々を投獄、拷問、殺害、子どもや青年を拉致しました。「行方不明」となった人が数万人ともいわれます。今も、奪われた子どもや孫を探し求める母親たちのたたかいは続いています。「オフィシャル・ストーリー」という映画でも描かれました。
軍事政権がイギリスとの間に起こしたフォークランド戦争の際は、クーラは学生でしたが、徴兵制のもとで予備隊にいたそうです。戦争が長ければ前線に送られた可能性もありました。「戦争が短かったことを神に感謝した」と述べたことがあります。その後、クーラは、フォークランド戦争を追悼するレクイエムを作曲しています。
詳しくは以前の投稿をお読みください→ 「ホセ・クーラ 平和への思い、公正な社会への発言」
●ホセ・クーラの“Vittoria”
こうした背景をもつクーラは、紛争と平和の問題でも積極的に発言し、平和へのつよい思いをもっています。彼が演じるカヴァラドッシの“Vittoria”には、私は、演技を超えたものを感じます。
ホセ・クーラ、自由への魂の叫び。プッチーニのトスカからカヴァラドッシの"Vittoria"(2000年)
J.cura-Tosca-Vittoria
2010年ウィーン、前の人の影で歌う姿が見えないが、スカルピアにつかみかかり憲兵に取り押さえられそうになっても振りほどき、なおもつかみかかろうとする、執念の、たたかうカヴァラドッシ。
TOSCA Wiener Staatsoper 17.02.2010
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●通行証の謎とホセ・クーラの解釈
トスカのオペラでは、トスカがスカルピアと取引した後、スカルピアを殺害し、得た自由への通行証をもって喜びを歌います。しかし結局、それはスカルピアの巧妙な罠だったのでした。
それではカヴァラドッシは、このスカルピアの罠に気づいていたのでしょうか、いなかったのでしょうか?
セリフと音楽だけを聴くと、2人で喜びの歌を歌っているように、気付かないままに悲劇の結末に向かっているようにも思います。ネット上の動画をみてみると、あいまいなものもあり、演出や歌手によっていろいろのようです。
これに対し、ホセ・クーラの解釈は明快です。彼は見抜いていたのです。クーラは、カヴァラドッシは共和主義者であり、圧政に抵抗し続けている人物であり、そのような人物が簡単にスカルピアを信じ、だまされるはずがないという解釈です。
DVDが発売されている2000年バーリでの舞台のクーラの演技は、通行証を確認した後、スカルピアの罠に気付き、浮かれるトスカの陰で、通行証を丸めて投げ捨て、大きくため息をつきます。その後、死を覚悟し、残り少ないトスカとの時間を惜しんで、愛と失われつつある人生を哀切に歌います。そして刑場へ連行する警吏を冷たく鋭く一瞥します。
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2014年ハノーファーの舞台でのクーラのカヴァラドッシも、「気付いていた」。
通行証を見て理解したカヴァラドッシは、一瞬絶望の表情を浮かべるが、大きくため息をつき、トスカの思いを尊重して、別れを惜しみます。
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「偽の」処刑の解釈で、最後の二重唱の解釈も変わってきます。
ホセ・クーラは、永遠の愛の喜びとともに、トスカと自らの人生への哀惜、諦観を表現します。
2014年ハノーファーでのラストシーンの動画を。
Jose Cura "O Dolci Mani" Tosca
José Cura Last duo from NDR Klassik Open Air "Tosca" 2014 HANNOVER
最後に、やはりカヴァラドッシといえば名曲「星は光りぬ」を。
2000年バーリでの舞台。終わって拍手がやまず、“ブーブー”と聞こえるかと思いましたが、“ビスビス”とアンコール求める声でした。
Jose Cura, " E lucevan le stelle " - Tosca, 2000
2014年ハノーファーの野外舞台から。
Jose Cura "E lucevan le stelle"