ホセ・クーラは当初、この5月、2016ヴィースバーデン5月祭でヴェルディ「運命の力」のドン・アルヴァーロを17年ぶりに歌うことになっていました。しかし残念ながら、5月4日にフェイスブックでキャンセルすることが告知されました。芸術的な問題や契約上のトラブルではないということです。
50代になったクーラが、どのようにアルヴァーロを歌うのかとても興味がありました。ぜひまた、次の機会にチャレンジしてほしいです。
ということで、この機会に、あらためてクーラの「運命の力」の舞台、1999年のミラノ・スカラ座での録画を、YouTubeから紹介したいと思います。
指揮はリッカルド・ムーティ、演出・舞台はクーラと同郷のウーゴ・デ・アナ。とても凝った美しい舞台のようです。しかし残念ながら正規の映像がなく、YouTubeも画質が良くありません。また、もともと照明も暗めの舞台です。放映時に、アップと引いた画像を二重写しにするなど、映画風の編集がされているようです。音声はそれほど悪くありません。
この「運命の力」、とにかくこれでもかと悲劇的アクシデントの連続で、運命によって追い立てられるように悲劇へとつきすすむお話です。でもヴェルディの音楽は、ドラマを描き出して本当に聴きごたえあり、美しく迫力あるメロディにあふれ、美しい2重唱やアリアがあります。序曲もとても有名です。例によってテノールの出演場面を主に紹介しました。
La Forza del Destino (Verdi)
Jose Cura (Don Alvaro)
Georgina Lukacs (Leonora)
Leo Nucci(Don Carlo)
1999 La Scala
Hugo de Ana , Riccardo Muti
第1幕
スペインの由緒ある侯爵の家に生まれたレオノーラ、一方、スペインに滅ぼされたインカの王族の子孫であるドン・アルヴァーロ。愛し合う2人だが、結婚を侯爵に反対され、駆け落ちを計画する。迎えに来たアルヴァーロとためらうレオノーラ、アルヴァーロは熱い愛の告白を、レオノーラは父への思いと恋人への愛とのあいだで悩み苦しみ、最後はかけおちを決断する。
Jose Cura La forza del Destino Act 1 duo
2人で家を出ようとしたところを父侯爵に見つかり、自衛のため持っていたピストルを、無抵抗であることを示すために投げ出した。ところがそれが運悪く暴発、侯爵に当たり、亡くなってしまう。
Verdi:La forza del destino: "Vil Seduttor!.."- José Cura, Georgina Lukacs, Eldar Aliev
第3幕
侯爵の家を逃げだしたものの、途中ではぐれた2人。アルヴァーロは、レオノーラがすでに亡くなったと思い込み、イタリアの戦場で偽名で士官となっていた。戦場で、自らのインカの血統、侵略者に処刑された父母、不幸をふりかえりながら、愛するレオノーラを回想する「天使のようなレオノーラ」
Jose Cura, " La forza del destino " -- 1999
敵とたたかう同僚の声を聞きつけ救出。実はそれが、復讐のためアルヴァーロを探し続けていたレオノーラの兄、ドン・カルロだった。しかし互いに偽名を名乗ったため、まだお互いに気付いていない。変わらぬ友情を誓うテノールとバリトンの二重唱が、とてもりりしく、美しい。
Jose Cura La forza del Destino Act 3 scene 2 duo
戦闘で負傷したアルヴァーロ、カルロに「秘密が入っている。自分が死んだら焼き捨ててほしい」と箱を渡す。その中には、恋人レオノーラの肖像画が入っていた。
Forza del Destino Act 3 scene 4 duo
負傷から生還したアルヴァーロに、すでに箱を開けて秘密を知ってしまったドン・カルロが、レオノーラの無事と自らの復讐の思いを告げる。レオノーラへの愛と自らの無実を語るアルヴァーロ、しかしやむなく剣を抜き、応戦。運命の恐ろしさから、修道院に行くことを決意する。
Jose Cura La forza del Destino Act 3 scene 7,8,9
第4幕
それから5年後、執念で修道院にいるアルヴァーロを探し出したカルロ。罪を贖い、慈悲を請い、運命の前にひざまずくと歌うアルヴァーロ。しかしアルヴァーロを許さず、侮辱の言葉をなげかけるカルロに、ついにアルヴァーロも剣をとる。
Verdi:La forza del destino:"Le minacce, i fieri accenti"- José Cura, Leo Nucci
さらなる悲劇が襲う。カルロを刺した直後に再会したレオノーラとアルヴァーロ。兄を殺したと告白するものの、そこにまだ生きていた瀕死のカルロが現れ、父を裏切ったレオノーラを刺す。静かに息を引き取るレオノーラ、運命のあまりの過酷さを嘆き、絶望するアルヴァーロ。終
Jose Cura La forza del Destino last
主なシーンのあらすじだけ追うと、あまりに暗い、過酷な運命に翻弄される物語に、ちょっとどうも・・と思われると思いますが、ヴェルディの音楽は素晴らしく、感動的です。クーラの若々しいインカの末裔の青年、軍服姿のりりしい歌、そしてラストシーンの、絶望にうちひしがれたアルヴァーロの、祈りのような歌はとても印象的です。
まとめてオペラ全体を見たい方には、以下の動画がおすすめです。画質もこれまで紹介したものよりだいぶ良く、出演者の表情やセットの細部もわかります。前後半に分かれています。
Verdi - La forza del destino (1) - 1999
Verdi - La forza del destino (2) - 1999