人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

テノール・指揮者・作曲家・演出家として活動を広げるホセ・クーラの情報を収集中

2015年 北京・国家大劇院にデビュー サムソンとデリラ Jose Cura / Samson Et Dalila / Beijing

2016-05-14 | オペラの舞台ーサムソンとデリラ


2015年9月9、11、13日、ホセ・クーラは、中国の北京にある国家大劇院の新制作サンサーンスの「サムソンとデリラ」に出演しました。トリノ歌劇場との共同制作だそうです。
国家大劇院は3年前から、サムソンとデリラの新制作のためにクーラを招待、これが北京でのクーラのデビューとなりました。これ以前に中国では、2007年、上海でプッチーニの「トゥーランドット」のカラフで出演しています。

それにしても中国だけあって、国家大劇院のすごいスケールとロケーションには驚かされます。


  

指揮ジャン=イヴ・オッソンス 、演出・セット・衣装はクーラと同じアルゼンチン出身のウーゴ・デ・アナ。デ・アナ演出のオペラにはクーラは何回も出演しています。96年の(びっくり白塗りの)イリスとか、99年スカラ座の運命の力など。豪華で緻密、美しい舞台・衣装で定評があります。
キャストはダブルキャストでした。
Samson=Jose Cura / Mario Zhang 
Dalila=Nadia Krasteva / Oksana Volkova
指揮 Jean-Yves Ossonce


リハーサルや本番の舞台の写真が劇場のHPやFBに掲載されました。とても幻想的な雰囲気の舞台です。残念ながら、映像や録音はありません。大劇院がDVDで発売してくれることを願いたいです。
初日を2日後にひかえた9月7日に、クーラの記者会見が行われました。サムソンの解釈、北京の印象、プロダクションの評価などに加えて、これまでの自分のキャリアなどについても語っています。この会見と、現地の新聞に掲載されたインタビューなどから、主な内容を紹介します。
また後半の、自分の声についての話は、他のインタビューではあまり読んだことがない内容です。自身の声に対する批判にこたえたかのような、興味深い内容です。



●大劇院 次は演出家として仕事をしたい
指揮者のJean-Yves Ossonceとは初めての共演だが、良いスタートになっている。中国国家大劇院のコーラスの破壊力は称賛すべきものだ。大劇院と合唱団のチームは非常に有望だ。私は演出・監督として、北京で彼らと仕事ができることをつよく願う。彼らに一緒にいる時、私はとても強い力が出るし、また彼らも同様に火山のようにエネルギーが爆発する。キャリアの多くでオペラを歌い、その後、演出、監督をした。それによってアイデンティティの変化はないが、互いを補完し、自分のキャリアをより完全にしている。チームでやるのが好きなので、監督でありたい。

●北京の印象
街で買い物をした時、北京の人々はとても友好的だった。私は背が高くて体が大きく、さらにひげ面なので、人々はまるで彫像を見るかのよう私に注目した。私はまた劇場でも、北京の観客に驚きを与えたい。
中国に来てショックを受けた。他の国では、オペラの観客の年齢はほとんどが60歳以上だ。しかし中国では、オペラに来るほとんどが若い人たちだ。私は彼らの反応を楽しみにしている。



●サムソンは現代社会への警告
サムソンとデリラのこの物語は、現代世界に警告している。神の名において悪を行うべきではないこと、そして人々は、神の名において憎しみ合うのではなく、ただ愛しあうべきだということを。

演出ウーゴ・デ・アナとは、同じアルゼンチン出身の20年来の友人。しかしサムソンの解釈で完全に同意しているわけではない。舞台では私は演出家のサムソンとして行動する。正確には私の考えるサムソンとは違う。

サムソンは自爆テロリストの歴史の1つといえる。最後のシーンで、彼によって神殿が崩壊し、多くの人びとが一緒に押しつぶされ、神に復元された。だから私の理解では、サムソンは負のヒーローだ。

この物語は、歴史的にも、近代的にも深遠な意味を持つ。神の名によってこのような悪事を行う、それは今日もたくさんある。オペラは私たちに、神の名の下、愛だけがあり、憎しみを持つべきでないことを伝えている。

ダリラはサムソンをテストするために利用されている。3500年前の人々は、性的に魅せられるのは大罪だと信じた。若者が美しさに魅了されないよう教育するために。今この物語はより説得力があるかもしれない。



●少年時代の夢は指揮者とラグビー選手 ゆっくりとオペラに恋におちた
1994年、ドミンゴの声楽コンクール、オペラリアに優勝した。これでキャリアを開いたといわれるが、実際は、人々が考えるような師弟関係というよりも、同僚としての協力関係だ。

少年時代の夢は、1つは指揮者、もう1つはラグビー選手だった。オペラへの興味は遅く、声楽は21歳から学びはじめた。テノールはラッキーヒットだった。

声楽を学び始めた時、よいトレーニング方法を見つけることができず、ほとんど声を台無しにしてしまった。一時断念したが、才能を認め、歌い続けるべきだというまわりの声におされ、26歳で、再び声楽を学びはじめた。
ゆっくりとオペラに恋におちた。人生は常に、前へ、私たちをおしすすめている。歌の教師、オラシオ・アマウリに感謝している。彼とともに、基本的なスキルを開発し、歌う楽しさを知った。

コンテストに勝利した後、「良い歌手」になることが焦点だ。ゲームは単に豪華な人工の花火。光が消え、全てが落ち着いた時、人々がまだあなたを認めるなら、あなたが重要で尊敬されるアーティストであることが証明される。



●ヴェルディのテノールとは (サムソンはヴェルディのオペラではありませんが、インタビューで質問が出たようです)
誰であれ、ヴェルディの描いたテノールの役割に完全に対処することはできない。同様に、ヴェルディのアリアが、すべて同じ声で歌われることを期待することはできない。

単にヴェルディのスコアに従うのでなく、常に、キャラクター間の解釈と精神を形づくる方法を見つけようとしてきた。そして、なぜヴェルディが「盲目でなく、知恵に依存して伝統に従う必要がある」と述べたのか、自問自答する。



●オペラと現代、商業主義、芸術と未来
オペラが過ぎ去った過去の遺産であると思ったことはない。その代わりに、オペラを現代に近づけよう。近代的な心理的、社会的な分析にもとづいて、劇的なキャラクターを創造することが不可欠だ。現代の観客の理解に沿って。
現代の背後にある物語を無視してはならない。現代的な意味でのオペラを探求しなければならない。これは、オペラの未来だ。

私は商業主義の製品になりたくない。必要なのは芸術と尊敬だ。10年前、オペラの演出を始めた。指揮、作曲に加え、フィールドの開発を続ける。舞台セット、振付、衣装デザイン、照明‥。声の維持のために、歌は年50日以内に限定している。



●すべてをするために唯一の方法はハードワーク
私の人生は、仕事、勉強、研究だ。すべてを行うための唯一の方法がハードワーク。誰もが眠っているときも働いている。休暇の時は、私は自宅で、新しいオペラのプロダクションのための準備をしている。

初めて指揮をしたのは15歳、中学生の時だった。毎朝5時に起きて、音楽を学んでから登校した。何かをしたい時には、それが可能なものだ。指揮と作曲を専攻、フルート、ドラム等、多くの楽器を学んだ。義務として声楽も学び、合唱団で歌った。

どれかひとつを選ぶなら、間違いなく、指揮者としてのアイデンティティを好む。子ども時代の夢は、指揮者か作曲家。しかし40年前、南米で若い指揮者がキャリアを開くのは困難だった。最終的にテノールとして世に知られるとは思わなかった。もちろん現代は、若い人たちにとって、指揮者への道に乗り出すには、さらに、非常に困難な時代だ。



●人生は短すぎる
(多面的な音楽活動に加えて)自分の家を建てることはできないが、家の内部は全て私自身の手でやった。子供の頃は、野球やラグビー選手になることも考えた。フィットネスを愛し、カンフーや空手を学んだ。25年前は、今より体重は25キロ少なかった。

人生は短すぎる。退屈する暇はない。表面的な事に人生を費やすのは無駄だ。中年の時間は非常に速いペースで走る。限られた時間、できるだけ知識やスキルを得て、人生をより豊かにしたいと願う。テレビの前で過ごす人生はありえない。

家ではオペラは聞かない。オペラは私の職業だ。家では沈黙を好む。カーペンターズは一番好きな歌手。音楽の話というより、カレンの声。彼女のピュアなサウンドと音色は、特に暖かく、ユニークだ。



●自分の声について
30年のキャリアを経た今、若く新鮮で美しい声を持っているとはいえない。劇場での私の歌は完璧ではない。しかし私のエネルギー、強さとカリスマを聞くことができる。年を経て、これはアーティストとして重要なことだ。

オペラにおいて、私の声は、様々な情報が統合されて含まれている。音は材料であり、その材料を利用して、私は、人々の心の中に別のものをつくりだすことができる。人々は、声にそうした様々な要素を含まない人の歌を聞いた時に、それが完璧だと感じる。しかし、それは私たちに必要な情報を伝えていないのだ。

時には、私たちは表面上において、完璧ではない。しかし、その人のキャラクターの個性や人格の特性は、あなたに深い影響を与えるだろう。そしてあなたは、この人が美しいことを知る。音も同じ理由だ。ある人がとても良い音だとしても、もし良いキャラクターと魅力的な個性をつくりだすことができないならば、意味がない。

専門家は私の公演を聞き、完璧でないと言うだろう。しかしあなたは、ステージで私のエネルギーを聞くことができる。強さとカリスマが公演の私の声にある。これがアーティストとしての私の最も重要なポイントだ。

●一番の栄光
私の栄誉は私の家族だ。15歳から知っている今の妻と、私たちは3人の子どもをもっている。それが私の最大の栄光だ。



****************************************************************************************************************************************

北京大劇院のサムソンは、SF風大スペクタクルのようでしたが、会見で本人も述べているように、クーラ自身のこのオペラの解釈は、社会的批判的視野をもつものです。石油利権、富と権力、愛と策略、対立と希望を描いた、クーラ演出のカールスルーエの作品はDVDにもなっています。
以前の投稿で紹介しています。動画もあります → 2010年 カールスルーエのサムソンとデリラ

初日の報道は、「世界的に有名なテノール歌手、ホセ・クーラのサムソンのパフォーマンスが特に目を引いた。彼の偉大な劇的緊張の完全な栄光の声...」「衝撃のデビュー、ヘラクレスの完璧な解釈」「クーラのサムソンは『神』だった」「北京デビューに観客熱狂」など、絶賛しているものが多かったようです。ネット上の観客の声に「なじみのないこの演目が、ホセ・クーラの解釈によって、観る価値あるものとなった」というのもありました。北京デビューは大成功といえるようです。次回は、クーラの希望では演出・監督として・・ということですが、できればまだまだ歌手としても出演して、さらにあと一歩、日本まで足をのばしてほしいと切に願います。

クーラのFBに掲載された、サムソンで共演した子役ユー君との写真。ユー君は自筆の書(達筆でビックリ!)をクーラにプレゼント。「芸、人間性共に優れる」の意。
「すべての愛と感謝の気持ちを、賢く強いリトル・ユーに!」とクーラはコメントを添えていました。


                                   

ポスターとHP用バナー
 





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする