取材ディレクターより
「ほっとけなかった・・・」。沖縄で生まれ、沖縄で暮らす泰真実さん(51)が、基地反対運動に関わることになったその理由です。米軍輸送機オスプレイが強行配備された5年前のあの日、普天間飛行場のゲート前に人だかりが出来ていました。たまたま通りかかった泰さんは、誰か倒れているのかなと思い近づいたといいます。職業は作業療法士、当時は「オスプレイ」の言葉すら知りません。そこでお年寄りたちが、殺気立った米兵に対し必死に抗議する姿を目にします。泰さんは、頑張っているお年寄りたちをほっとけなくなった。それが基地反対運動を始めるきっかけでした。とても優しい目をしている泰さん。ところが、インターネットで検索すると「沖縄極左」「過激派」とされています。1970年代の「成田闘争」で暗躍した人物だと告発する脅迫状が職場にも届きました。根も葉もないデマです。こうして、泰さんはネット空間で危険人物に仕立て上げられていったのです。「基地反対運動は県外からの活動家、過激派」。大阪府警機動隊員が東村高江のゲート前で暴言を吐いて以降、そんな言説が一気に広まりました。高江を取り囲んで建設される米軍北部訓練場のヘリ着陸帯に反対する人たちをめぐる風説。衝撃だったのが、ネット空間に影響されてか「基地反対派は酷いねえ」と身近な人たちが語り始めたことでした。
やんばるの森に囲まれたゲート前で地元住民が2007年から座り込みを続けてきた反対運動。去年春、私が訪れたときはのんびりした闘いに見えました。ところが、そこに1000人近い機動隊員が投入され、反対住民らとぶつかった去年夏以降、あたりは一変します。想像してみてください。自分が住んでいる町内に全国から1000人近い機動隊員が押し寄せてきたら・・。住民はわずか140人なのに。今回の取材では、「え、まさか」と絶句する出来事が連続しました。その極めつけが、「基地反対派は暴力集団」「危険で近寄れない」と新年早々に報じた東京の情報番組。信じる人はいないだろう、そう思う自分がいると同時に、取材を通じ「デマは大げさなほど拡散する」ことを身をもって体験した自分がいます。この言論空間で基地反対運動への虚構が作り上げられようとしているのだとしたら、一体それはなぜなのか・・。突き詰めれば、私たちの暮らしそのものにもつながっていて、沖縄だけの問題ではありません。であるならば、今こそ基地反対運動の素顔に目を向けてほしい。そんな思いで作った番組です。ずっと語り継がれてきた沖縄戦と戦後72年間を歩んできた沖縄の人々の歴史に思いを寄せることができたなら、この言論空間にさまよう木霊(こだま)のありように、これからどう向き合うべきか考えることができると思うのです。
★野党共闘