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「とても深刻な一歩となる。米国は軽く受け止めない」──。20日の米CBSテレビに出演したオースティン米国防長官は、ロシアが生物・化学兵器を使用した場合の対応について、そう強調した。ウクライナとの戦争が長期化し、戦局の停滞にいら立つプーチン大統領が大量破壊兵器使用という「レッドライン」(越えてはいけない一線)を越える可能性が増している。
「キンジャルは音速の5倍の速さで飛びます。現状のウクライナの防空システムで迎撃するのはほぼ不可能で、大きな脅威となり得ます。また、核弾頭や生物・化学兵器を搭載できるキンジャルを発射することで、大量破壊兵器の使用をにおわす意図もあるのでしょう。この先、戦局打開のため、ロシアが生物・化学兵器を使うことは十分考えられます。ロシア軍は、ウクライナの攻撃にみせかけて生物・化学兵器を使用する“偽旗作戦”を着々と進めています」
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■不気味!核搭載可能の極超音速ミサイル攻撃
ロシア軍は民間人への無差別攻撃などなりふり構わず、攻勢を強めているが、膠着状態が続く。ロシア軍の武器・弾薬も不足気味だ。戦略の見直しが迫られる中、19日と20日、極超音速ミサイル「キンジャル」でウクライナの軍関連施設を攻撃したと発表。実戦で初めての使用だ。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏が言う。戦局打開へカウントダウン
ウクライナ侵攻後、ロシアは「ウクライナが米国の支援の下、生物・化学兵器を開発している」と繰り返し主張。米国は「偽情報」と反論してきたが、ここへ来て、ロシアは訴えを強めている。
同日、ロシア軍を指揮する国家防衛管理センター長、ミジンツェフ上級大将は「ウクライナ軍は、東部スムイ州の化学工場のアンモニアと塩素の貯蔵庫に爆薬を仕掛け、南部ミコライフ州の学校にも有毒化学物質が入った容器が運び込まれた。ロシア軍が進入した際に爆発させ、ロシア軍の仕業にしようとしている」と主張。まるで目撃したかのように場所や薬品名まで具体的に示したのだ。
18日の国連安保理で、ロシアのネベンジャ国連大使はウクライナで得たとする「証拠」を15分以上にわたり並べ立て、自説を裏づけるとする69ページ分もの資料を提出。翌19日、プーチン大統領はルクセンブルクのベッテル首相との電話会談で、「ウクライナが生物・化学兵器を使用する疑いがあり、容認できない」と改めてクギを刺した。
「ウクライナが仕掛けているとするロシアの主張は嘘でしょう。場所などを具体的に示すことで、生物・化学兵器が爆発した際の『言い訳』ができる環境を整える狙いがうかがえます。ロシアが大量破壊兵器を使用する方向へ一歩進んだと言えます」(世良光弘氏)
2011年から始まったシリア内戦でアサド政権はサリンなどの化学兵器を使用。ロシアが化学兵器を送ったとの情報もある。
大量破壊兵器が使われる前に何とか停戦に持ち込めないものか
妊婦の血液から胎児の染色体疾患を調べる新出生前診断(NIPT)に関し、日本医学会の運営委員会は検査対象を三十五歳未満にも拡大するなどの新指針を公表した。ただ、診断には「命の選別」につながるとの批判が根強い。差別を生まぬ配慮が必要だ。
ダウン症など三種の疾患の有無を推定するNIPTは、二〇一三年に原則三十五歳以上の妊婦を対象に始まった。事前に診断の目的や推定の限界、出産後の支援制度などを説明し、受診の意思を確認する「遺伝カウンセリング」を行い、実施機関も大学病院など百八の認定施設に絞られていた。
ところが近年、事前のカウンセリングの質が曖昧なクリニックなど無認定の民間施設による検査が急増し、問題視されていたため、日本医学会は国も加えた運営委員会を設け、新指針をまとめた。
新指針はカウンセリングの対象を全年齢に広げ、診断を希望すれば、年齢にかかわらず受けられるとしている。大規模病院を基幹施設と位置付け、連携する産婦人科クリニックでの診断も認める。施設数は数倍に増える見込みだ。
出生前診断が抑制的になされてきた理由は、障害や疾患を悪いものとみなす価値観が定着しかねないという懸念だ。新指針で妊婦の不安に付け込む無認定施設の増加に歯止めをかける狙いは理解できるが、急激な診断機会の拡大は差別の拡大につながりかねない。
それを防ぐには、遺伝カウンセリングの充実が不可欠だが、新指針ではカウンセリングの質の確保を各施設に委ねている。遺伝にかかわる相談を受けられる専門家は限られている。担い手の育成に、国も積極的に関与すべきだ。
診断前に、障害や疾患のある子どもの育児や支援についての具体的な情報を、地域ごとに提供することも重要だ。そのためには当事者の関係団体を基幹施設の認定過程や運営に加える必要がある。
新指針に無認定施設への対応が示されていないことにも疑問が残る。認定施設による診断機会が増えても、無認定施設が減少するという保証はどこにもない。
診断を受けようとする心理の背景には、障害や疾患のある子どもを不安なく育てられる環境が十分ではないという現実がある。出生前診断の必要を感じさせない社会をつくることこそが、最優先で取り組むべき課題である。
