100万人の命の水守れ
半導体製造外国企業の工場誘致
熊本・菊陽町
熊本県菊陽町に台湾の大手半導体製造企業「台湾積体電路製造(TSMC、工場運営法人JASM)」が進出し工場建設が進められています。総事業費1兆1千億円のうち4760億円を国が助成し、県や地元経済界がもろ手を挙げて歓迎する一方、生活環境の悪化や地下水の枯渇、汚染への不安などさまざまな問題が指摘されています。(田中正一郎)
水田や森林の広がるのどかな農村風景に突然現れる要塞(ようさい)めいた建設中の建屋。盛り土が道の際まで迫ります。周辺にはソニーなどの工場もあります。
地下水の保全
稼働後に心配されているのが地下水の枯渇です。本格稼働後、工場では1日1万2000立方メートルの地下水を使用する見込みです。菊陽町(人口4万3千人)で水道用にくみ上げる地下水1日分、年間438万立方メートルのほぼ同量です。
熊本市など11市町村で100万人が水道水などに使用する地下水は、雨水が阿蘇山西麓の台地や、白川流域の農地・山林で地面に浸透(かん養)し、菊陽町、大津町周辺で地下水プールとして集まった後、熊本地域に向け地下を流れます。熊本市の水道水すべてが地下水で賄われるほか、農漁業・工業用水として使われており、県・市は地下水保全条例を制定しています。
日本共産党県委員会と地方議員団は3月、蒲島郁夫県知事宛てに同条例を厳格に適用するため自治体・企業間で協定を結ぶよう要請しました。5月、県はJASMや、農地を使った地下水かん養に取り組む水循環型営農推進協議会などと「地下水かん養推進に関する協定書」を締結。加えて県は、同条例に基づき事業者に求めるかん養対策の量を現在の1割から「採取量に見合う量」に規制を強める方針です。
企業の負担は
協定について、「県民・町民は水道水に料金を負担している。公的財産の地下水を大量に使用する企業の費用負担を明らかにしなければ絵に描いた餅になる」と警告するのは菊陽町に隣接する大津町の荒木俊彦党町議。この地域の水田は通常の水田の5倍から10倍も水が浸透しやすく「ザル田」といわれています。水循環型営農推進協議会では、助成金を受けて食用稲以外の農作物の作付け前後に農地に水張りをするかん養事業を行っていますが、同事業の参加人数は2011年の549人から21年は342人に減少、実施実面積も408ヘクタールから362ヘクタールに減っています。農業者の間では「単価を引き上げてもらわなければやる人は減るばかりだ」との声もあります。
地下水枯渇・汚染が心配
食用稲の水田に地下水保全の助成は無く、県内の水田は減り続けています。荒木町議は「コメでは飯が食えないということで、一番かん養効果の高い水田が無くなっていく。農地全てに助成をし、その上に水張り補助金を上乗せすべきではないか」と訴えます。
水俣病の記憶
また、半導体の製造には、発がん性が指摘されている、有機フッ素化合物(PFAS)が使われることから、飲み水すべてを地下水に頼る市民から心配する声が上がっています。統一地方選を通じ熊本市内でこの問題を訴えた山内延子さん(81)は、「飲んだその時は何もなくても何年もたってから発病するということはあり得ます。『水俣病の二の舞いになる』と言う人が何人もいました」と、水俣病公害を体験した県民感情を強調。「豊かで美しいと誇りに思っていた地下水に危険を及ぼしかねません。怒りを感じる」と話しました。
すでに問題になっているのは交通渋滞。通勤・退勤時間帯には、工事車両や従業員の車で最大1200メートルの車列の滞留が起き、脇道まであふれた車が手押し車を押す高齢の住民のすぐ脇をすり抜けていきます。「(渋滞で)家から車も農機具も出せない」「このまま住み続けられるか不安だ」と稼働前から寄せられている町民の声に、日本共産党の小林久美子町議は、「生活環境や地下水の問題に国や県が目配りしなければ、来られても迷惑というのが住民の本音。普通に生活している人にとってはいいことが何もない」と語ります。
さらに誘致も
しかし菊陽町や周辺自治体では、関連企業の工場の集積が進むほか、TSMCの第2工場誘致に県が乗り出しています。党県委員会でこの問題を担当する松岡徹氏(元県議)は、「菊陽町・大津町など白川中流域は、地下水をかん養する大本の地域。枯渇の懸念はもちろん、万一の汚染があれば影響がどこに広がるかわからない。過度の開発をしてはいけない地域だ」と述べ、「大空港構想」などの開発に前のめりの蒲島郁夫知事を批判。「交通渋滞や地下水問題は、4760億円もの巨費を助成して国家プロジェクトとしてTSMCを誘致した国にも重大な責任がある。地域住民100万人の『命の水』を守るため、国・県への要請などを通じて問題を追及したい」と語りました。
沖縄「自分ごとに」
長崎 デニー知事が講演
沖縄県は19日、普天間・辺野古新基地建設問題などについて、理解を深めてもらいたいと、長崎市内でトークキャラバンを開催しました。オンラインを含め約350人が参加。玉城デニー知事が講演し、「沖縄の問題だと捉えられがちだが、国民全体の問題として自分ごととして考えてほしい」と訴えました。
玉城氏は、沖縄の米軍基地は訓練を伴う基地であり「戦闘機が嘉手納基地から飛び立っては激しい戦闘訓練を行っている」と騒音被害に苦しめられている実態を語りました。
米軍戦闘機の墜落や米兵による暴行など、多発する米軍基地に関連する事件・事故に言及。米軍によるPFOS(有機フッ素化合物)の流出もあり、「このような状況は受忍できるものではない」と怒りをあらわにしました。
沖縄には全国の米軍専用施設の約7割が集中し、県民投票では約72%の県民が辺野古新基地建設に反対。大浦湾は生物多様性が残された海であり、保全すべき場所だと強調し、「辺野古に基地はいらない」と訴えました。
参加者から岸田政権による安保3文書など、軍事に頼ろうとする風潮について問われ、「その考えが国民をどこに引っ張っていこうとしているのかよく考えてほしい。今のやり方が専守防衛と合致しているのか。それは不合理だと国民の権利として政府に突きつけていかなければならない」と語ると、会場から拍手が起こりました。
キャラバンは、全国各地を巡回。長崎市で10都市目です。
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