丸川珠代五輪担当相が6月29日の記者会見で、東京五輪のボランティアに対する新型コロナウイルスのワクチン接種について「1回目の接種で、まず一次的な免疫をつけていただく」と発言した。2回目を打たなくてもある程度は大丈夫とも聞こえてしまう言い方だ。それ以前に「一次的免疫」とは何なのか。(古川雅和)
丸川氏の発言が出たのは、ボランティアの2回のワクチン接種が開幕までに間に合わないと、記者から指摘された時だ。東京五輪・パラリンピック組織委員会が発表した接種スケジュールは、ファイザー社のワクチンで1回目が6月25日から始まり、モデルナ社は同月30日から7月3日の間に行われる。モデルナの2回目は五輪開幕後の7月31日以降になる。
丸川氏は会見で「そもそもワクチン接種を前提としないでも、安全な大会が運営できるように準備を進めてきた」と強調。加えて、「より安全、安心な状況をつくっていく」ために、ボランティアへの接種の体制整備を東京都などと調整してきたと説明していた。
「一次的な免疫」発言が出たのはその後。「できるだけ早い段階で接種していただきたいと思っておりますが、1回目の接種でまず一次的な免疫をつけていただくということ」と語った。同じ発音のため、一部メディアでは「一時的な免疫」と報じられ、内閣官房があわてて「『一時的』ではなく『一次的』です」と報道各社に説明する一幕もあった。
◆専門家「聞いたことがない」
「一時的」にせよ「一次的」にせよ、そもそもそんな免疫はあるのか。
厚生労働省によると、モデルナ社のワクチンで十分な免疫効果が確認されるのは2回目の接種から14日以降、ファイザー社は同7日程度以降。同省はホームページに両ワクチンとも「2回の接種が必要」と明記していて、1回目の接種で「一次的免疫」ができるなどという記述はどこにもない。東北大病院感染管理室の徳田浩一室長は「そういう用語を、私は聞いたことがない」と首をかしげる。
ではなぜ、そんな厚労省も医療関係者も使わない「造語」が、丸川氏の口から飛び出したのか。昨年の延期発表前に約8万人いたボランティアが今年6月には1万人辞退した上、さらに明確に感染者のリバウンド傾向がみられる中、少しでも今後の辞退者を減らし、2回目接種が間に合わないとの批判をかわすためだったのではないか、という疑いが残る。
長崎大感染症共同研究拠点の安田二朗教授は「ワクチンを希望するボランティアに対して2回のワクチン接種ができなかったはずはない。6月中旬から始めていれば、開幕までに2回打って、免疫もできたはずだ」と批判する。
「政府や組織委などがオリンピックを開催すると言いながらボランティアの接種をしてこなかったのは理解できないし、計画性がないとしかいいようがない」
さらに、前出の徳田氏は、1回だけの接種でもある程度の感染予防効果があるかのような印象を与えかねない「一次的免疫」という言葉が広がれば、「ワクチン接種を1回でやめてもいいと受け止められないかが心配される」と話す。
2回目の接種後は、1回目よりも副反応が出やすいとされるだけに、「1回でも効果あり」となれば、副反応を嫌って2回目を打たない人が増えかねない。徳田氏は「自分を守るだけではなく、周りの人と安心して暮らしていくためにも、2回目の接種が必要だ」と呼びかけている。
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