23日放送のNHK『バリバラ』(Eテレ)が、「バリバラ桜を見る会~バリアフリーと多様性の宴~」と題して、“攻めまくった放送”をおこなったと話題になっている。『バリバラ』といえば、「生きづらさを抱えるすべてのマイノリティの人たちのバリアをなくすために考える」情報バラエティ。障害者やマイノリティの当事者たちが出演し、彼・彼女らを取り巻く社会に鋭く切り込んできた番組だ。
今回の「バリバラ桜を見る会」では「2019年度に多様性の推進に功績のあった方々」が「社会を動かした当事者とともに、社会の多様性を考える」という趣旨でスタジオに集結。民族差別撤廃の声を上げ、川崎市の差別禁止条例の制定に尽力している在日コリアン三世の崔江以子さん、不妊手術を強制した旧優生保護法裁判を戦う小林寶二さん・喜美子さん夫妻のほか、さらに、山口敬之氏からの被害を告発、地裁民事で勝訴し性暴力をなくす活動に取り組むジャーナリスト・伊藤詩織さんがスタジオ出演したのだ。
“地上波ゴールデンのバラエティ番組”に伊藤詩織さんが登場するだけでも画期的と言えるが、たしかに『バリバラ』は最初から最後まで飛ばしていた。
冒頭では、安倍首相主催の「桜を見る会」を模しながら「公文書 地理ゆく桜と ともに消え」なる俳句。また、交通事故によって高次脳機能障害や右手麻痺などの後遺症を残すアーティスト・TASKEさん(「地元枠として招待」という設定)が、「オレ地元枠なの? じゃあ名簿はさっさと廃棄しなきゃ!」と言って「招待客名簿」を手動のシュレッダーで廃棄するなど、疑惑と隠蔽にまみれた「桜を見る会」に皮肉を込め、安倍首相と麻生太郎副総理のものまね風刺コントも披露された。
本サイトがとりわけ紹介したいのは、伊藤さんと崔さんの言葉だ。番組では「多様性功労者」のひとりとして、人種差別に正面から反対のメッセージを発信している女優の水原希子を取り上げたのだが、伊藤さんはそのことに触れて、スタジオでこう話した。
「彼女はヘイトスピーチに対して声を上げたというんですけど、日本の芸能界という場で、なかなか政治の話をするというのはすごく勇気のいることだったと思うんですけど、そうやってオピニオンリーダーとしてどんどん自分の思ったことを発言していく、声を上げるというところは、本当に水原さん、素晴らしかったなと思って。もっといろんなそんな人が出てくれたらいいなと」
さらに、TASKEさんが昨年の参院選で当選した重度障害者の舩後靖彦議員、木村英子議員をあげ、「舩後さんと木村さんの、れいわ新選組のバリアフリーの風を巷間に巻き起こしたというのが、これこそ実績というのかな、本当に」と述べると、崔さんが続けて、日本におけるマイノリティの政治参加をこのように語った。
「たくさんある課題を解決したりとか、あるいはより豊かな社会をつくっていくための議論する場である国会の、構成員のバランスの悪さというか、当事者性のなさというか。もっともっと、たとえばアイヌとか、とか、女性とか、障害のある人とか、マイノリティが活躍できる、参画できていったらより豊かだというふうに思います」
Aマッソの大坂なおみ選手差別漫才と「そんなつもりじゃなかった」弁明をめぐる論議も
他にも昨年、お笑いコンビのAマッソがテニスプレーヤーの大坂なおみ選手を「(あの人に必要なのは)漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ」と言った問題について、スタジオでは時事漫才コンビの三拍子が「本当に差別するために言うとかそういうなんの気もなしにサラっと言ってしまったこと、面白いだろうと思って言ってしまったことなので、我々も気づかずに漫才中に言ってしまってるかもしれないなと、初めてニュースに出たときに考えさせられましたね」と発言したのだが、これに関して、崔さんはこのように返していた。
「『そんなつもりじゃなかった』というのは、いつもそう言われるんですよ。するほうは『そんなつもり』じゃなくても、受ける側、されるほうの側は、『そんなつもりじゃなかった』って言葉にいつも心を刺されていて。するほうがどんなつもりかじゃなく、受ける側がどういう被害が生じるのかということを想像していくことが大切だと思います」
伊藤さんと崔さんは、新型コロナウイルスに乗じた差別についても言及。政治家や行政がヘイトを扇動していることに強い危機感を表した。
伊藤さん「コロナウイルスのせいでアジア人差別につながっているというのは、本当にアメリカに住む友人からもすごく聞いていて。トランプ大統領も『China Virus』、“中国ウイルス”って言っていたんですね。発信力のある人のその言葉遣いで拡がってしまう偏見、差別というのは、本当にいま、気をつけなくてはいけない。そこをどういうふうに止めていけるのかというのが、いまの本当の課題だと思いますね」
崔さん「私も伊藤さんと同じで、コロナウイルスが差別につながっていることが、とても胸が痛いです。たとえば感染拡大防止のために行政機関が子どもたちが集う場所、教育機関にマスクを配布したんですけど、その際に朝鮮学校がその対象から外されてしまったり、あるいは横浜中華街の中華料理屋さんのいくつかの店舗に本当にひどい差別的な手紙が届いたりということが生じてしまっています」
たとえば麻生太郎副総理はこれまで何度も差別発言を繰り返してきたが、まさに「そういうつもりではなかった」「誤解を生んだなら撤回する」というような形だけのポーズで野放しにされている。また、自民党には杉田水脈衆院議員のように性的マイノリティ差別を公然と言い放ったり、小野田紀美参院議員のような「在日外国人は現金給付から外すべき」というような差別的主張を繰り出す政治家たちが、何事もなかったかのように議員であり続けている。
こういった安倍政権の政治家たちの言動が、行政による差別にお墨付きを与えているのではないのか。いわば“官製ヘイト”だ。崔さんが話していたように、新型コロナウイルスに関連したマスク配布では、さいたま市が朝鮮初中級学校の付属幼稚園などを対象外にした。多くの抗議の声があがり、結果的に、さいたま市は配布するよう変更したが、これに限らず、行政による差別は当然のように横行しているのだ。そして、これが反射するかたちで、ネット上のヘイトスピーチに勢いを与える。
在日コリアン三世の崔江以子さんが受けたヘイト体験に伊藤詩織さんは強く共感
崔さんと伊藤さんは、ネットでのヘイトや誹謗中傷についても自らの経験をこのように語っていた。
崔さん「今日、実は弁護士さんに調べてもらったら、検索ウェブサイトで私の名前を検索すると、千数百万件の書き込みがヒットします。『出ていけとか』『国に帰れ』とかそういうヘイトがほとんどですね。数が多く書かれるからといって、決して慣れたりすることではないです。一件一件、本当にしっかり怖いですし、しっかり傷つきます」
詩織さん「いま自分の受けたことも思い返していたんですけど、どんどん手足が冷たくなって、身体が冷たくなって、いま(崔さんのお話を)聞いているだけでも冷たくなってしまったんですけど……やっぱり命の危険を感じるような書き込みだったりとか、誹謗中傷を受けたときは、どういうふうに生活を続けていいのか、この人たちが本当に命を狙ってくるんじゃないかと思うと、普通に生活ができなくなってしまったし、家族に迷惑をかけてはいけないと思って家族とも距離ができたし、それを考えると、そういうことがあってイギリスに身を移しているんですけど」
「女性から『女性として恥ずかしい』と。『あなたの受けたことが本当であっても、日本人女性としてそれはやるべきではない』というメールが来たので、(私は)できたらそう思われる背景をぜひお聞かせしてほしいということをメールで書いたことがありましたね。でも、どんなに丁寧に返信をしても一度も返ってきたことがなくて。だから、できればもうちょっと対話できる場所はほしいなと思っています」
崔さん「インターネット上のヘイトスピーチが禁止されたりするルールがないなかでは、個人の力でひとつひとつ取り組むしか策がありません。法務局に申告して、それが人権侵害にあたるかどうかを審査してもらって、あたるということであれば、国、法務局がその運営会社に削除要請をお願いをする。そのかかる時間と二次被害と、本当に個人の力では限界があるなと」
伊藤さん「やっぱりヘイトの問題につながるんですけど、アメリカでもいままでヘイト、メキシコ系の方にだったりとかLGBTQの方への銃乱射事件があったりとか、本当に、もしかしたら知らないうちに大きくなってしまっているオンラインのヘイトが、そうした大変な事件につながりかねないということを考えると、本当にヘイトスピーチに対して今一度考えていかないといけないんじゃないかと思いますね」
こうした差別問題、とりわけ政治主導の“官製ヘイト”については、本サイトでも何度も取り上げてきたが、地上波のゴールデン番組である『バリバラ』に伊藤さんや崔さんら当事者が出演し、踏み込んだ発言をする意義は大きい。「バリバラ桜を見る会」の後編(第二部)は、来週4月30日午後8時から放送される。コロナに乗じてヘイトが勢いづき、多様性を否定する動きが活発化するなか、真っ向から対峙する『バリバラ』を今後も注目したい。(編集部)
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