憲法改正を巡る議論は、改憲しなければ対応できない課題が生じていることが前提だが、今そうした状況にはない。ましてや改憲自体が目的化した「改憲ありき」の議論は厳に慎む必要がある。
参院選では、自民、公明、日本維新の会、国民民主各党が改憲に前向きな公約を掲げている。
しかし、これら「改憲勢力」の主張ですら集約されつつあるとは言い難い。例えば九条だ。自民、維新は自衛隊明記を掲げるが、公明、国民は「引き続き検討」「議論を進める」にとどまる。
「論憲」の立場に立つ立憲民主党は自衛隊明記に反対し、共産党は改憲自体に反対している。
主要政党間で主張に大きな隔たりがあるのは、政府が自衛隊を合憲の存在としており、憲法に明記しなければ日本の安全保障に極めて大きな支障が生じるような状況ではないからだ。
先の通常国会では、衆院憲法審査会が事務手続きだけの回も含め過去最多の十六回開かれたにもかかわらず、憲法を改正しなければ国民生活に重大な影響が出るような問題点を見いだすには至らなかった。
岸田文雄首相(自民党総裁)は党首討論会で「改憲発議の中身で(衆参両院の)三分の二以上が一致する必要がある。いつまでに中身を一致させろというのは乱暴な話だ」と語った。憲法論議の現状を踏まえれば当然だろう。
気掛かりなのは、自民党内から「例えば一年以内、二年以内」(茂木敏充幹事長)と年限を切った改憲論議を求める意見が出ていることだ。二〇二〇年までの改憲を訴えた安倍晋三元首相と同様の姿勢では「改憲ありき」との批判は免れまい。
そもそも今回の参院選で改憲を巡る議論が展開され、国民の理解が深まっているとは言い難い。
公示後の共同通信世論調査では投票に際して憲法改正を重視するとの回答は3・3%。「物価高対策・経済政策」の41・8%に比べて優先順位は著しく低い。
参院選の結果、仮に改憲勢力が発議に必要な三分の二以上の議席を維持したとしても、改憲論議を強引に進めることがあってはならない。改憲よりも物価高や上がらぬ賃金に苦しむ国民の暮らしを守ることが優先事項のはずだ。
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