ジタル庁に対する個情委の立ち入り検査が議題となったこの日、長妻昭衆院議員が冒頭に指弾した。
さかのぼること6日前の5日。個情委の会合では、マイナ制度の問題をまとめた資料が示され、立ち入り検査を検討していると明記されていた。
特に公金受取口座が別人のマイナンバーとひも付けられていた問題を巡り、6月30日にデジ庁から受け取った報告書は不十分と判断。マイナンバー法に基づく検査を検討するに至ったという。
国対ヒアリングで個情委事務局の担当者は「(デジ庁の回答が)十分であれば立ち入り検査はしない。われわれの要求する内容には達していない」と説明。「文書のやりとりでは限界がある。一般的に立ち入り検査では実務をしている人へのヒアリングやログ(記録)の確認などを行う。速やかにできる手法として検討している」と明かした。
にわかに注目を集める個情委。2016年、マイナ制度の導入に伴い、内閣府の外局に設置された。行政機関や民間企業への立ち入り検査や勧告などの権限を持つ。委員長を含む9人で構成し、事務局は各省庁の出向者らが担う。職員の定員は現在、195人となっている。
◆国の機関とどこまで対等にやれる?
過去には大規模な情報漏えいなどで対応している。
19年、就職情報サイト「リクナビ」が学生の内定辞退率を企業に販売した問題で、リクルートキャリアに設置後初の勧告をした。21年には、LINE(ライン)の利用者の個人情報が中国の関連会社から閲覧できた問題で行政指導。最近も、車台番号や位置情報などがインターネット上で閲覧できる状態になっていたとして、トヨタ自動車を行政指導した。
今回取り沙汰されるデジ庁とは縁が深い。
21年9月に発足した同庁は、デジタル情報を利活用する司令塔と位置付けられた一方、個情委によって個人情報が十分に保護されるか、法曹界などから対応力に懸念が示された。
そのデジ庁が中核を担うマイナ制度では今春以降、個人情報の流出が相次いで発覚している。
NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「個情委は大きな組織ではないのに、国の省庁、地方自治体、無数の民間事業者を見ている」と述べ、担う業務の多さを指摘した上で「露見した大きなトラブルに対応する形。マイナ問題のようなリスクを事前に想定することはできない」と後手に回りがちな現状を問いただす。
さらに組織のあり方そのものに疑問の目を向ける。
「これまでは法律の範囲内で問題がないかチェックし、お墨付きを与えてきた面がある。国の機関とどこまで対等にやれているのか、表向きには見えない。仕組みを見直す必要がある」
◆塩大福の塩のような存在、でいいのか
個情委は組織理念で、個人情報が産業創出や活力ある経済社会の実現に資するという有用性に配慮しつつ、個人の権利権益を保護するとうたう。
マイナ制度に詳しい水永誠二弁護士は「個人情報のある種の利活用も担っている。個人情報の保護に特化していないことがそもそも問題だ」と批判する。
「本来は国民の安全や信頼を担保する要の機関。デジ庁への立ち入り検査で問題を明らかにし、国民にきちんと説明すべきだ」と語り、「やってる感」の演出に終始しないよう求める。
マイナ制度の旗振り役を担うデジ庁に対し、個情委は独立した立場で調べる必要があるが、個情委の担当相は河野太郎デジタル相。アクセルとブレーキが混在する事態に、独立性が担保されるのかと懸念が強い。
白鷗大の石村耕治名誉教授(情報法)は「行政府に置かれていること自体、形だけの独立性に陥りやすい。次第になれ合いになり、行政への忖度の塊になる」と警鐘を鳴らす。
「個人情報保護の監視については、カナダや豪州は議会のオンブズマン制度に組み入れている。訴訟文化の米国には、そもそもそうした立場の組織はない。委員を選挙で選出するなら別だが、出来レースのゲームのようだ」とし、個情委をこうたとえる。「ブレーキ役ではない。塩大福でいえば、あんこをさらに甘くする塩のような存在だ」
◆自治体は「マイナ」と聞くだけで…
個情委は、マイナカード絡みでトラブルが生じた自治体とも接点を持つ。
川崎市では5月2日、コンビニで戸籍全部事項証明書が別人に交付される問題が発生。全国で誤交付が相次ぎ、後日に個情委から「全体像を把握したい」と報告書を求められ、同月中に提出した。市戸籍住民サービス課の大貫久課長は「誤交付といっても行政側の落ち度というより、(民間会社が提供する)システムの問題では」と漏らす。
東京都足立区でも3月下旬と4月中旬にコンビニでの誤交付があった。区民から申し出がなかったが、他市の誤交付と同じシステムだったことから点検した結果、誤交付が発覚した。
個情委に提出した報告書では「フェイルセーフ(常に安全側に働かせる)機能を付けて」と要望した。区戸籍住民課の江連嘉人課長は「少しでも異変を察知したら書類を出せなくするなど、慎重なシステムにしてほしい」と求める。
自治体に負担が及ぶ中、政府は、マイナンバーと各種情報のひも付けの総点検を要請した。8月中に中間報告する急ピッチぶりに、自治体側は戦々恐々だ。
前出の足立区の江連課長は「デジタル相の発言に毎日くぎ付け。これ以上振り回されたくない」と打ち明ける。川崎市の大貫課長も「課員の夏休みがしっかり取れるか…」と気をもみ「『マイナ』って言葉を聞くだけでビクビクする。次は何…って構えてしまう」。
◆トラブル前に防ぐ手を打つべきだった
こうした状況下で個情委はどう動くべきか。
明治大の湯浅墾道教授(情報法)は「立ち入り検査は非常に重い決断で、それ自体は悪いことではない」と前置きしつつ、「個情委は何か起きてから後出しで動くのではなく、起きる前に、個人情報保護の観点からトラブルを防ぐ手だてを打つべきだった」と話す。
「自治体がどれほど民間のIT関連会社に依存しているか、あらわになった。総点検も例えばコンビニでの発行を一定期間ストップしてやるなど徹底的にやるならともかく、そうでないのなら、単なる政治的スローガンに終わる」と警告し、こう続ける。「金融庁も最初は独立性の担保にうまくいかないこともあったが、教訓を重ねて変わっていった。個情委もどう独立性を維持させ、実効性を伴う組織に育てるかだ」
◆デスクメモ
マイナ絡みで個情委は何をしていたかと思う。生じた誤りをただし、再発を防ぐのは当然でも、後の祭り感が。その対応も自治体に厳しく、デジ庁は形だけでは、やってる感の演出にしか見えない。想像したくないのは「悪いのは政府以外」というお墨付き。せめてそこは、と祈る。(榊)
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