今秋との観測もある次期衆院選に向け、候補者の擁立を急ぐ野党の足並みがそろっていない。候補者調整を巡る議論はかみ合わず、各地で候補者の競合が目立つ。過去の国政選で自民、公明の与党に対抗する野党勢力をまとめる役割を果たした「市民連合」運営委員の山口二郎法政大教授(政治学)に、現在の政治状況への思いや展望を聞いた。(聞き手・大野暢子)
市民連合 正式名称は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」。集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法の廃止を目的に、2015年、学者や若者らの5団体の呼びかけで発足した連合組織。約200の市民団体が参加し、山口氏や中野晃一上智大教授らが運営委員を務める。16、19年の参院選では、1人区を舞台に政策合意に基づく候補者の一本化を仲介。13年参院選より野党系候補の勝率が上がった。21年衆院選は立民や共産など5野党が7割超の小選挙区で一本化したが維新は加わらず、勝率は3割未満。22年参院選は調整が不調で、野党系候補の勝率が1人区で大幅に下がった。
◆「このままの日本に、持続可能性はない」
―現政権への評価は。
「安倍・菅政権の強権的なイメージを刷新するとみられた岸田政権も、原発推進や軍拡、拙速な改憲論議など、前政権の路線を引き継いだ。実質賃金は下がり続け、出生率の低下も止まらない。このままの日本に、持続可能性はない」
―政権交代が可能な二大政党制を訴え続けている。
「政権交代なしに政治と政策の転換は期待できない。政権交代を起こすには、核となる政党が右と左に一つずつ必要だ。さもなければ、自民党永久政権だ」
―次期衆院選は単独で戦うとの立場だった立憲民主党の泉健太代表が先月、他党との候補者一本化を目指す考えに転じ、市民連合を介した調整にも言及した。
「現状では、塊の中心になるべき野党第1党の立民と、かつて候補者調整をした共産党の間にあつれきが生じており、見通しが明るいとは言えない。また、候補の一本化が効果を発揮する地域もあれば、個別に戦った方がいい地域もある。党首間で全国統一の枠組みを決めるより、各地域レベルで判断するのが適切だ」
◆「野党は足の引っ張り合いをしている」
―どう連携するのか。
「安全保障を含む全ての政策で完全に一致できなくても、暮らしや経済、エネルギー、子育てなど有権者に身近な公約で食い違いがなければ、立民、共産などの地方組織や候補者、市民で政策協定を結び、一本化することは可能だろう」
―そもそも候補者調整が必要なのは、野党が分散しているから。なぜ結束せず、細分化してきたのか。
「一つになることより、各党がどう生き残るかを優先してきた結果だ。現在の野党は、互いの違いを強調し、足の引っ張り合いをしている。4月の衆院千葉5区補選で自民新人が僅差で勝利したことが象徴するように、野党がばらばらでは勝てる選挙も勝てない」
―内閣不信任決議案に反対するなど、従来の野党と一線を画している日本維新の会をどうみるか。
「各報道機関の世論調査の政党支持率だけをみれば、既に野党第1党というイメージが持たれている。ただ、やみくもに『小さな政府』を推進している側面があり、市民連合が野党の協力を後押しする際に重視してきた支え合いや多様性を重んじる社会像とは相いれない。連携の枠組みに入ることは考えにくい」
―今後、市民連合の役割として考えられるのは。
「地域レベルで野党が候補の一本化を検討することになった場合、各地で活動する市民連合の人々が、共通政策をまとめるなどの支援をすることはできるのではないかと思う」
やまぐち・じろう 1958年生まれ。東大法学部卒。北海道大教授を経て、2014年から法政大教授。著書に「政権交代とは何だったのか」(岩波新書)など。
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