中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

風評被害

2007-10-10 09:26:03 | 身辺雑記
 1ヶ月以上も前のことになるが、「中国食品工業」という食品会社が破産した。

 この会社の製品の中には私も商品名をよく知っているものがあるが、これはイカの加工品で同社の主力商品だったと言う。破産の原因はある週刊誌に「中国食品が危険」と言う特集記事が掲載されたことにあるようだ。

 この記事が出て以来、同社の名前入りの商品をスーパーの店頭などで見た消費者から「中国産の食品を扱っていいのか」と抗議の電話を受けるなど抗議や問い合わせが増えて取引が減少し、破産に追い込まれたようだ。この会社が扱う材料のうち中国産は約4割だそうで、この程度の規模の食品加工や製造会社はいくらでもあるだろう。取引先からは「社名を変えないと取引を打ち切る」という強硬な申し入れもあったとかだが、変更しなかったので結局は負債総額は8億7500万円で破産と言う事態に陥ったようだ。まったくの風評の被害者で気の毒なことだと思う。週刊誌の記事が「中国食品」ではなく「中国食品」となっていたら、おそらくこのような事態は起こらなかっただろう。

  この会社は岡山にあり、岡山は広島、山口、島根、鳥取などともに中国地方と呼ばれる地域にある。だからこの地域には「中国銀行」など「中国」を冠した企業はいくらでもある。中国にも清の末期に設立された「中国銀行」があるが、岡山県が本拠の中国銀行を中国の銀行の支店などと思う者はいるまい。国名の「中国」と言うと「中国地方」と紛らわしくなるから、私は中国を支那と呼ぶなどと何かしらピントがずれているようなことを言う向きもあるが、話や文章の前後の脈絡で混同される事はまず起こることはない。

 結局、この会社は最近の中国産食品の安全性に対する疑念の高まりの犠牲者だと言えるだろう。中国産製品の安全性については確かに問題が多いようだから、十分な警戒と監視が必要だ。中国政府も国際的な問題となってきているので対策に乗り出したようだ。その関係か、先日の中秋節の前に月餅を送ってくれた西安の謝俊麗に10月に行くから買っておいてほしいと頼んであったのだが、買いに行ったら中秋節を過ぎたら売れ残りは処分するようにと言うことでなかったと言っていた。食品の安全性については中国人も敏感になってきているようで、テレビでは広州の市場で買い物をしていた1人の女性が、信頼できる決めた店でしか買わないと言っていた。だからと言って中国産の食品がすべて危険なものではないはずなのに、それを例の如きマスコミのこれでもかこれでもかと言うような「情報」の垂れ流しで、そのように思い込んでしまう者もいるのだろう。それが社名についての無知からきているにしても「中国産の食品を扱っていいのか」と言うような消費者の抗議となって現れるのだ。私はこのような程度の低い、ヒステリックな、独りよがりな正義感を振り回す一部の市民の言動には嫌悪を覚え、風評被害の恐ろしさを思う。

 他の国の事情は知らないが、日本人はとかく風評と言うことに弱いのではないのだろうか。あるテレビ番組で「ココアが健康に良い」とか「納豆がダイエットに効果がある」とかが放映された途端に、ココアや納豆が店頭から消えたという滑稽な騒ぎがあった。もっとばかばかしかったのは、ある大企業の著名な経営者の食生活は質素で、目刺をいつも食べているという番組があった時には目刺が品薄になったと言う。このようなことは風評に弱いと言うよりも暗示にかかりやすいと言ったほうがいいのかもしれないが、いずれにしてもバカ騒ぎに終わり、被害者は妻や娘の命令で帰宅途中に毎日納豆を買わされたという哀れな男性くらいだから笑ってすむことだ。

 しかし、かつて関東大震災で単なる風評から、多くの朝鮮人が市民の手で虐殺されたような悲惨な、日本人として恥ずべき事件もあった。風評に踊らされる人間の暴走は恐ろしい。殺人までには行かなくても、たとえば南米人の凶悪な犯罪が起こったからと言って、南米人に住宅を貸すことを断ることなどはざらにと言っていいくらい起こるようだ。だいたい風評の深刻な被害に遭うのは、大方は日ごろ差別されたり、軽蔑されている人達であることが多い。関東大震災の時の朝鮮人はまさにそのような人達だった。

 最近は中国や韓国に対する敵意ある言辞が多くなっている。街の書店ではそのような類の本が山積みされている。このような本の著者達は何を意図して、中国や韓国に対する反感と敵意を煽っているのか分からないのだが、このような言辞が多くの市民の心の中に沈積していって、何かのきっかけで暴発することはないか心配する。日本人は温和で礼儀正しいから、そのようなことは起こるはずがないと言い切れるのだろうか。中国食品という企業の破産事件では、日本人の一部の心の中には怖く、おぞましいものが潜んでいることを覗き見たように思う。



 近くのスーパーで。「中国産」のものは他に2、3品しか置いてなく、一時期に比べるとずいぶん減った。