中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

古木を守る

2007-10-17 07:38:10 | 身辺雑記
 時折通る住宅街の中に大きな家があって、その家の門扉にポスターが掛けてあった。

 
 見てみると、このあたりにムクロジの古木があって、それが伐られようとしているのを救おうという呼びかけのものだった。もう少し詳しく知りたいと思って、呼び出しベルを押してインタフォンでその旨を伝えると、私と同年輩くらいの婦人が出てきて丁寧に説明してくれた。

  この木はこの家の前の敷地内にあって、元は大阪市職員の保養施設だったが大阪市の開発会社に売却し、その会社がこの施設を取り壊して跡地に5階建てのマンションを建設することを計画した。その駐車場を整備するためにその計画地にあるムクロジの木を伐採しようとするらしい。

 その婦人の説明によると、このムクロジの木は推定樹齢200年以上、高さは15メートル、幹周りは約4メートルあると言う。




 ムクロジは台湾やインドに分布する落葉高木で、日本では西日本の山林に自生し、自然木は本県の「絶滅危惧種」に指定されていると言う。ムクロジの種子は黒色で固くて、これに孔を穿ち彩色した鳥の小羽を数枚挿し込んで羽子(はご)の球として使われた、今は廃れたが女の子にとっては正月の羽根突きにはなくてはならないものだった。果皮にはサポニンという物質が含まれていて石鹸の代用として使われたと言う。


 駐車場整備(=ムクロジの木の伐採)に賛成する住民などもいるようだが、この木を守ろうという有志者が集まって「ムクロジの会」を作り、開発会社への撤回申し入れ、市への保存の訴え、マスコミへの協力依頼、署名活動などを行なっているということだった。しかし、市の担当は理解を示すが市長はもうひとつ頼りなく、開発会社も聞く耳を持たないようで、しかも近隣の住民の中にはかなり強権的に反対意見を封じ込めようとする動きもあるらしく、その婦人はいたく憤慨していた。新聞社は1社だけが取り上げてかなり詳しい記事にしたので、関心を寄せる人達も次第に増えてきているようだが先行きは決して楽観できないらしい。

 婦人の案内で、道路を隔てて前にある敷地の中のムクロジの木を見に行ったが、新聞記事を見てこの木を見に来る人が増えて不愉快なのか困るのか知らないが、木が見える前にある塀には目隠しをして見えないようにしているのは、まことに姑息な感じで、開発会社の心根の卑しさを露呈しているようだった。
 左側に見えるのがムクロジ。

 それでも端のほうから覗いてみると。ムクロジ以外にも桜などの木が多くあって、その一角は森林の中のような趣きだった。ムクロジの木は上の方で幹が3本に分かれ、それぞれが太く立派で、その3本の枝分かれした幹の下は太くどっしりしていて、いかにも古木、森の主という風格がある。

 かつては生物学を学び、命の大切さを説いてきた者として、駐車場を造るというただそれだけのために、200年以上の歳月を経た、このように立派な木を切り倒そうとする業者はもちろん、それに心の痛みを感じないで賛成する一部の住民に対して怒りを感じ、微力ながら署名集めに協力することにした。そこから分かったのは、この婦人の娘さんがこの運動の中心になっていて、彼女は私の次男の小学生時代の同級生であったこと、その婦人も妻を知っておられたことで、まことに奇遇であった。もう30年も前の妻に係る話を聞かされて、そういうことがあったのかと懐かしい思いだった。

 次男に電話してこのことを話して署名集めへの協力を頼むと、彼は「どうせなら天然記念物級の木があるマンションと言って売り出せば人気が出るだろうに」と笑っていたし、説明してくれたご婦人も同じようなことを言っておられた。何でもかでも自然を破壊してマンションを造っていくと言うことには大いに疑問を持つが、ムクロジは漢字では「無患児」と書き、子どもが病気しないという意味があるようだから、縁起が良いと喜ばれてユニークなマンションとして人気が出るのではないだろうか。しかしこのようなことは、欲ボケして儲けることしか考えないような開発業者あたりには理解の埒外のことだろうし、「ムクロジが大切なら苗木を植えましょう」と何も意味が分かっていない愚かな発言もしたようだから、もともとそのような発想ができるような程度ではないのかも知れない。しかし単なる「マンション建設反対」を叫ぶのではなく、自然を愛し、長い歳月を経てきたいのちを守ろうという誠実な市民の声にもし応えるならば、少しは見所はあるように思う。さもなくば、非科学的な言い方になるが、たたりがあるよと言いたくなる。